決戦の時

 「……何かご用でしょうか?」

冷酷にも放たれたその言葉は、余りにも衝撃が強く、一瞬時が止まったかのように感じる程だった。あいつはいつものようににこやかな顔をしているのだろう。暗闇の中でも分かった。

「いえ、少し興味がありましてね」

「おや、どうです。入って見ませんか?」

声の調子を変え、すぐさま勧誘しようと試みる。しかしマルセイはそれを断ってからこう言った。

「いや、魔法反対者はどのような事をしているのか、気になっただけです。以前逃げ帰ってきた私の同胞から怪しい情報を得たものでして……」

「ちょっと、余計な事言わなくても良いから。ここで面倒事にはしたく……」

しかし思いの外神父は平静を保っていた。てっきり怒りに身を任せ襲いかかってくると思ってたのに。

「ほう。やはりそうでしたか。無理にでも捕まえておくべきでしたねえ、彼女を。……そこに居るのでしょう?」

「……」

相変わらず鼻につくしゃべり方だ。

「さて。どうするんです?私は何一つ悪事なんてしてませんとも。もっとも部外者はここに入れませんがね」

「そこが怪しいんだ。何をしている?あの盲信的な信者をどうつくった」

神父は高笑いをして答えた。

「何もしてませんとも。ただ神の偉大さを皆に伝えていただけです。皆彼らの意思でしているんですよ」

「じゃあその中で何をしているかを見せてくれ。部屋もくまなく調べるぞ」

「それは遠慮しておきますよ。何故見ず知らずの人に部屋を覗かせなきゃならんのです」

これ以上何か言ってもここでは何もならないわね……。

「マルセイ…ここで口論しても意味無いわ」

「ああ、そうだな。……分かった。今日はこのまま帰ろうとする。じゃあな――

「お待ちください」

遮るかのように神父は言った。そしてこう提案したのだ。

「貴方、余程魔法がお好きなんですねえ。良いですよ。ではここにいる民たちに聞いてみようじゃありませんか。明日、この街の中心で人を集め、演説しましょう。最後にどちらが良かったか、民に語りかける。これで全てが決まる。それで良いですね?」

「ああ、良いとも。勝手にすると良い。僕はただそこに行って、皆の賛成を得れば良いだけの話だ」

「ふふ。果たしてそこまで上手くいきますかねえ……ふふふ」

不気味な笑い声と共に、神父は家に戻っていった。その後、私たちは明日の出来事を話すために急いで仲間の元に走った。


 「……とうとうこの時が来たと言う訳だ」

ある程度の情報を話し、マルセイはそう締めくくった。彼らは真剣にその話を聞き、そして静かな闘心に燃えるのだった。


 次の日、どこからか広がった噂により、小さくはあったが人だかりが出来ていた。その中は面白さ半分で見に来たものがほとんどで、真剣にその議論を聞きに来たものは両者の仲間以外はほぼ居なかった。それでもいざ始まるとなると緊張感が辺りに漂った。そして思った。まさに今、決戦の時だと。

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