第28話 ネクロマンシー

「アンデットって……つまりどういう事っすか?」


「2人はすでに死んでるってことよ。……貴方達、いつもこんな戦い方してるのよね。その鎧や武器はどうしてるの?」


アカネは、先程の戦闘で使い物にならいほど損傷している、オルカとリリスの装備を見て、顔を険しくする。


「そんな怖い顔しないで。あなた達から奪おうなんて考えてなから。」


「まあ、相手から襲ってくる場合は別だがな。君たちはそうじゃないだろ?」


口調は優しいが、オルカはこちらを見定める様に鋭い視線を向ける。


「……そうね。それで誰なの、貴方たちをそうしたのは。」


リリスとオルカは困った様な表情をする。


「アカネ、どういう事だ?」


「アンデットなんてものは、自然に発生するものじゃ無いのよ。」


その現象は高度な術によるもので、そして非人道的なものなのだと、アカネは忌々しそうに言った。そういった存在や仕組みについて調べたことがあるのかもしれない。


「魂の固定に加えて、体の損傷まで綺麗に治してしまうなんて、相当な術ね。」


死んだ者の魂を呼び戻し、そして支配する。その術を完成させる為に、その過程でどれほどの代償が支払われたのか。


「そうね、でもあなたも似たような存在なんじゃないかしら?アカネちゃん。」


「……わたしは自分の意思でここにいるわ。」


アカネの事情をリリス達には話していない。鑑定でも使われたか、それとも死を体感した彼女たちにしか分からない何かがあるのか、リリスはアカネを見てそう言った。そしてアカネの返答を聞いた彼女たちは……


「「あははははは!」」


笑い始めた。それまで張り詰めていた空気がふっと緩むのを感じる。


「なに、あなた。わたしたちの心配をしてくれていたの?怖い顔するから、勘違いしちゃった。」


「まあ確かに、俺たちは望んでこうなったんじゃないが。今は自分たちの意思でここにいるのさ。」


「そう……」


アカネも、ホッと息を吐いて緊張を解いた。


「それに、に初めから悪意なんてないわよ。」


「あの子って……」


『わたしよ、お兄さん』


血を流し倒れていた毛のない虎が、むくりと立ち上がる。体や頭の傷は綺麗に塞がっていた。剥き出しだった敵意は消え、その瞳には虚な光が浮かんでいる。


「んー、もっともふもふが好みだけど、このすべすべした感じも悪くないかな。」


いつのまにそこへよじ登ったのか、虎の体の上からひょこりと顔を覗かせた、猫耳の少女がおれたちを見下ろしていた。



「彼女、テイマーだって……」


話が違うじゃない。とアカネがおれを睨んだ。

いや、おれはちゃんと確認しようとしたんだぞ。


「でも、これほどの術を複数の相手に掛けるなんて。あなた1人で?」


「そうだね……お姉さんた達には見せてもいいかな。知りたい?私たちの秘密。」


ユキは少し迷う様な素振りを見せた後、おれたちへ無邪気な笑顔を向け、そう言った。




家に戻る頃には、すっかり辺りが暗くなっていた。

リリスとオルカは、着くなり装備を脱ぎ捨てて水を浴び始めた。ミトが、じりじりと彼らの正面に回ろうとしているのを、シルヴィアに止められている。アカネにジロリと睨まれて、おれも慌てて視線をずらす。イッセイが吐いた煙がふわりと空に吸い込まれた。


「あーあー、あの猫可愛かったのになー。」


近くの切り株に腰掛けたユキが、足をプラプラさせながら拗ねた様に口を尖らせている。猫というのが先程の巨大な虎の事であるなら、リリス達に、そんな大きな子飼えません。と言われてしまい、置いてきた。その虎は、ユキが術を解いた途端に、元の傷だらけの死体に戻ってしまった。おれは、いとも簡単に命を操るその姿に、少し恐れを感じた。


「おねーちゃん、おかえりー」


黒髪の少年リクが、家の中からパタパタと走ってきて、ユキに抱きついた。おれたちが出てくるときは見かけなかったが、何処かに隠れていたのか。リリスの反応から、おそらく彼もアンデットであり、それから一緒にいた兎たちもそうなのかもしれない。死者に囲まれるというこの異常な状況の中、さらに何を見せられるのだろうかと、おれは不安になった。




おれたちが案内されたのは、家の地下だった。そこは、どこか転移装置のあった部屋に似た雰囲気を感じた。部屋には何に使うのかわからない機材が並び、中央には床から天井まで伸びる円柱形のガラス出てきたケース。その中には赤く淡い光を放つ綺麗な多面体が、固定されているわけでもないのに宙に浮き、静かに回転していた。

よく見ると多面体の中に何か……


「心臓!?」


それは、まるで生きているかの様に脈打ち、そこから溢れる赤い光がガラスケースを満たしている。


「僕のだよ」


そう言ったリクの体は、その多面体と同じように、ゆらゆらと揺れる赤い光りを帯びていた。いや、リクだけでなく、ユキやリリス達も同じように淡い光に包まれている。

おれは訳が分からず、リクに対して集中し、能力を使う。



“リク”


【スキル】

不渇:魔力♾(結晶化)



「リクは生前、そのスキルを人為的に抜き取られたんだ。そして、それを利用したその装置が、賢者の石と呼ばれているものの正体だよ。」

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スキル振りを間違えました。やり直しは出来ますか。 月見うどん @sekai0301

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