ただ僕は、キミの力になりたくて――1

 八月九日。


 昨日僕たちが帰宅してから、音子は一人、作業を進めていたらしい。


「できとるでーっ! 『Blue Blue Wish オリジナル・カラオケver.』!!」


 音子の部屋を訪れたとき、僕たちの楽曲は仕上がっていた。


 音子の言葉を耳にして、思わず僕はニヤけてしまう。


 う、うわあ! 両手がジンジンする! 身体の奥がむずむずする! 万歳ばんざいしながら踊り出したい気分だっ!!


 こんな気持ちはじめてだ。脱稿したときもこんなに興奮したことないよ!


「あとは動画を撮るだけやなっ」


 そう言って、びしぃっ! と音子が指差す先には、白いブラウスに紺色のロングスカートをまとった乙姫がいた。


 一つの汚れもない真っ白なブラウスが、清楚で上品な乙姫の雰囲気にとてもマッチしている。


 紺のロングスカートも落ち着いた印象で、どこか淑女めいた大人な感じがした。


 そういえば、上月姫子さん――唄っているときの乙姫は、常々白いブラウスを身につけていたっけ。


 この格好は乙姫の勝負服というか、正装に近いものなのかもしれないね。


「うん……そうだね」


 音子に指差しされた乙姫は、祈るように胸元で手を組んでいた。


 テンションアゲまくりな音子とは対照的。ひどく冷静そうに。いや、僕の気のせいでなければ、


 乙姫、戸惑ってる?


「ほな、早速準備を――」

「あ、あのねっ?」


 乙姫の組んでいる手が、真っ白になっていた肌が、より一層の白さを得る。


 キュッと、力が込められたみたいだった。


「もうちょっと、時間、もらえないかな?」

「え? 乙姫?」

「その、ね? もうすぐお盆でしょ? わたし、歌の練習したくて! そのっ、わたしのために作ってくれた歌だから、ちゃんと唄いたくて――」


 やや早口で乙姫が訴える。見るからに慌てた様子だ。


「ん? それもそうやなー……うっかりしとったわ」


 折りたたみ式の四角いテーブルを片付けようとしていた音子が、その動きを中断する。


 音子は視線を斜め上に向けて、んー、と考えたあと。


「ほな、お盆が明けてから――一七日でどや?」

「う、うん。わかった」


 音子の提案に乙姫が頷いた。


 僕の気のせいじゃない。その動作が、どこかぎこちなく見えるのは。


 音子は気にしていないようだったけど、僕は、乙姫の些細(ささい)な変化が――だけど明らかな異変が、心配だった。

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