第3話〈預言書の如く〉

「………」


「スケジュール通りだな」


辰喰ロロは長峡仁衛の首筋に向けて湿布を張っていた。

長峡仁衛はあの後、スケジュール通りに動いていて、体育館の天井に挟まったバレーボールを取っていた。


バレーボール専用の棒で一つ一つ丁寧に剥がしていく作業。

それはなんだか歯の間に挟まった喰いカスを剥がす様で面白かったが。


『あ』


天井から剥がしたバレーボールが落下して、そのまま頭に直撃した。

首筋の筋肉を傷めた長峡仁衛は首筋を抑えて悶絶している所に、辰喰ロロが保健室へと連れて来てくれて、今に至る。


「……いや、スケジュール通りって、預言書か?」


スケジュールにはバレーボールの回収の後、保健室に行く事になっていた。


「あぁ、まあ。お前なら行くだろうなと思っていた」


「なんで俺なら行くと思ったんだよ……」


長峡仁衛は溜息を吐いて、彼女に聞く。

辰喰ロロは余った湿布を元に戻して、保健室の棚の中へと入れる。


「お前が長峡仁衛だからだ」


「……答えになってないよ。それは」


長峡仁衛は溜息を吐いた。

首筋が痛くてやる気が起きない。

今日はこのまま保健室で休む事にした。


「ベッドで横になるのか?」


「いや、俺は軽傷だ。俺より悪い人が入って来たら悪いだろ?」


だから、保健室に備えられた黒革のソファで横になると言った。

自らの腕を重ねて横になろうとして、ぽとん、と彼の体はソファに沈む事が無かった。


「……辰喰、其処に居ると眠れない」


長峡仁衛は、急に隣に座った辰喰ロロに向けてそういう。

彼の体は、辰喰ロロが邪魔をしている為に、完全に横になる事は出来なかった。


「そうか、それは仕方が無いな」


「仕方がないって……言い方が悪いけど、退いてくれればそれで良いんだけど」


「仕方が無いから、な」


辰喰ロロは、長峡仁衛の方に体を向けると。

ポンポンと、自らの太腿を叩いた。

長めのスカートを捲って、黒いストッキング生地が肌色に重なっている。


「膝枕してやる。遠慮せずに堪能しろ」


「……いや、恥ずかしいだろ」


ニマリ、と。長峡仁衛の言葉に辰喰ロロは笑みを浮かべた。


「いいな、その反応。一応は意識してるのか」


「な、何をだよ」


ついどもり、視線を逸らす長峡仁衛。

彼女の両手は長峡仁衛の両頬を抑えて、無理矢理長峡仁衛の方に顔を向けさせる。


「私をそういう目で見てるってコトだ」


朱い瞳が長峡仁衛を映した。

魔力すら帯びる彼女の目は魅力的で、その視線から逃れる事は出来ない。

小さく開きつつある口からは、獲物を喰らう為に尖れた牙が伺える。

まるで捕食者だと、長峡仁衛は思った。


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