19.手軽にできる仲間外れ

「ねえねえ、アーネックちゃん。4日後にガンナの村でお祭りあるよね。行く?」

「あ、そうだった。ニカリンは行くの? アタシも行こうかな」


「うん、一緒に行こ! えっと……ナウリちゃんは?」

「家の手伝いあるかもしれないから親に聞いてみるね~」


「うん、分かったら教えて」

「……………………」


 ……絵に描いたような仲間はずれじゃん! 誘う女子1人足りないじゃん!


 俺の前に3人で固まっていて、俺の後ろにポツンとオーミがいる。


「おい、ニッカ、ニッカ」

 アーネックがナウリとの話に夢中になってるところで、小声でニッカを呼び出す。



「どうしたの、タクト君。告白ならもっと空気読んだ方がいいと思うけど」

「読んだ方がいいのはそっちだと思うけど」

 こんな空気の中で何の想いを伝えんだよ。


「アーネックに何言われたか知らないけど、無視とか止めろよ」


 それを聞いた彼女は、きょとんとした後、黙って小さく首を振る。少し遅れて、ベリーショートの青髪がワシャワシャと揺れた。


「私もナウリちゃんも、何も言われてないよ。でも、この状況でオーミの肩を持ったら余計にこじれちゃうんだ」

「……あ?」

「多分、いずれちょっとしたことで戻るから、落ち着くまでこのままでいるんだよ」


 ああ、なるほど。そういうことか。アーネックの言う通りだ。無視だなんて、



「……大変なんだな」

「私もオーミちゃんみたいになったことあるし、リーダーの機嫌によってこうなるなんて珍しくないからね。気にしすぎない方がいいよ」

「女子ってたくましい……」


 17歳の俺、転生する直前は購買部のホイップサンド何秒で完食できるか競ってたわ。なんか申し訳ないわ。


「よし、休憩するか」


 山道を少し外れたところにある平地で、アーネックが手持ちのバッグを下した。明らかに人の手で切られた丸太が横たえてあって、椅子として座れるようになっている。


「ちょっと休もう」

「疲れたね~」


 次々と丸太に座っていく3人と、平地から距離を取って景色を眺めるオーミ。ああ、もう、何このもどかしい状況……っ!


「おい、その、大丈夫か」


 おそるおそる彼女にも声をかけたが、意外にも彼女からの返答は「しばらく大変だけど大丈夫よ」とそこまで神妙なものではなかった。


「アーネックがああなるのは昔からだし、また適当なきっかけで仲直りするだろうから、心配しないで」

「そっか……男はもう少し単純だからなあ」


「そうよね。11歳の従弟もこの前友達とクリームパン早食いでケンカの決着つけてたわよ」

「やっぱりね!」

 男はいつまでも愛すべき馬鹿だ!






「えっと……この辺りのはずだよな……?」


 山を越えた先、黄色い果実が日光に照らされ風に踊る果樹園が一面に広がる。しかし、目的の服屋がどこにも見当たらない。


「おかしいな。タクト君、地図は合ってる?」

「クエスト受付所のおばさんからもらったんだけど……」


 山を下りたところの拡大地図をニッカに見せる。


「あれ、普通赤丸で示してくれるんだけど、これ描き忘れてるわね。これじゃ場所分からないな……」

「へ? この点じゃないの? なんか黒っぽくなってるじゃん」


「これ多分、酒をこぼして変色したの」

「おばさん!」

 酔って肝心なこと忘れてるよ!



「仕方ないわね、誰かに聞いてみようか」


 オーミがマイペースにそう呟くものの、答える仲間はいない。俺だけが辛うじて、「それしかないかもな」と相槌を打った。


 結構な時間をかけて山を越えたものの、相変わらずアーネックとオーミの関係は修復されていない。おいなんだよ、いつ仲直りするんだよ……農村なのに美味しい空気が吸えないよ……


「あ、そういえばさ。ネトロさんが主催する音楽祭、今度隣の村でやるみたいだよ」

「ホント! あれすっごく楽しそうだよね、アーネックちゃん、行くの?」

 ニッカが興味津々の目でアーネックの話に食いついた。


「うん、行こうと思ってるよ」

「そっか、私も行ってみたいな」

「ワタシも~」



 もう、お互いがお互いの役割を分かっている。誰かが誰かを明確に誘うことがないから、オーミが誘われなくても違和感がないし、オーミも後に続かない。


 空気の読み合い、顔色の読み合い。


 それが女子グループの掟なのだとしても、俺はやっぱり受け付けなくて、そんなことを真正面から言えるのは門外漢の俺しかいなくて。


 だからこそ、俺の中のモヤモヤを溜め込んでいた何かのフタが、カタリと外れた。



「はい! イヤだね! こういうのはイヤだよね!」


 果樹園の真ん中、畦道で大声で叫びだした俺に、彼女たち4人はビクッと視線を向ける。


「俺は楽しくパーティーやりたいから、ストレートに言っちゃうぞ! アーネック、オーミが悪気なかったの分かってるだろ! 靴のことも勢いでけなしたかもしれないけど、怒ってて口をついただけなんだから気にしない!」


 それを聞いていたアーネックは顔をしかめ、露骨に不快感を露わにした。


「何、タクト。オーミの肩持つ気——」

「持たない! 俺は素敵な女子全員の味方だ! だからいがみ合ってるのが嫌だ!」


 ビシッと指を向けると、彼女はやや動揺して口を閉じた。そのままオーミに向き直る。


「で、オーミも技出す前に確認する余裕があればちゃんと周囲を確認する! さっきの回し蹴りとか、俺みたいにトロいヤツならモロに当たってるぞ」


 彼女はおでこを人差し指で掻きながら、「ホントに当たりそう……」とぼそりと呟いた。


「ということで、どっちもちょっと悪いところはあったけど、ケンカするほどのことじゃないから。だからこれでこの件はおしまい! はい、2人、何か意見は!」


 完全に俺のペースに持っていってしまい、ポカンとしているオーミとアーネック。やがて2人は一瞬目を合わせ、お互い小さく溜息をついた。


「はい、それでは楽しいパーティーにしていきましょう! 学級会終わり!」


 両手をパンッと合わせて締め、アーネックの「じゃあ服屋探すか」の声でまた歩き始める。一列で歩いているけど、相変わらずオーミは一番後ろ。



 俺の判断や行動が乱暴なことはよく分かってるし、正解なのかよく分からないけど、伝えたいことは伝えた。あとは見守っていくしかないよな。

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