16.アーネックと命の髪
「そういえばニッカ、同じクラスに剣士とかランサーって結構いたのか?」
周囲に木々が増えて細い道に入り、さっきまで固まって歩いていた女子が細い列になった。隣に来た彼女に話しかける。
「人数? ううん、ランサーもアーネックちゃんと数人くらいだし、剣士はほとんどいなかったよ。なんで?」
「いや、職業でライバル多いとアレだなあと思っ……て……」
目と目が合い、その視線が釘付けになって、思わず言葉に詰まる。
うっわ、改めてまじまじ見ると、やっぱりニッカも綺麗だよなあ……! そりゃそうだよな、中性的な美人ってことはめちゃくちゃ顔が良いってことだもんな。
ライトブルーの髪色に似合う明るくパッチリした目、自己主張控えめな鼻、ムニムニっとした唇。こんな子と並んでウィンドウショッピングとかしたい。「恋のロードガイドはこっちに任せておけ」って言いたい。
「そんな人気ないんだよね、剣士って」
「へえ、そうなのか」
「転生してきた男子が『剣振り回したい』って理由でなりたがるから、そこと被るのダサいよね、っていう」
「俺の前で言っちゃうんだそれ」
言う通りなんだけどさ。
「アーネックちゃん、久しぶりに見たけどやっぱりオシャレだよねえ。でも私もこの冒険服は気に入ってるんだ。オーミちゃんと一緒に買ったんだよ、ほら」
「あ、ホントだ。チェック入ってるな」
シンプルに緑のTシャツとショートパンツだけど、シャツは無地とチェックの布を組み合わせてる。オーミのみたいに全部チェックじゃない分、「ファッションデザイン」って感じがすごく強くて面白い。
「おーい、ニカリン! ここにある花、すっごく綺麗なんだけど、名前分かる?」
「あ、今行くね!」
後ろの少し広がった草原に戻ったニッカに代わって、オーミが隣に来た。
「アーネックに早速ハーレムのことイジられてたわね」
「お前も内通者の一人だろ、ったく……」
相変わらず楽しそうに、口に手を当てて破顔する。この表情をされると怒れない。
「まあ良いと思うわ。夢は大きい方がいいし」
「だよな。まだ若いんだし、夢はでっかく!」
「学校の先生も言ってたわ。『男子はコドモだから、夢みたいなこと言ってても、そっかすごいね、って褒めてあげるくらいがちょうどいい』って」
「だからなんで俺の前で言っちゃうの」
社交辞令のお作法を覚えてくれよ。
「ハーレム候補も1人増えたしな、頑張らないと」
そうなんだよ、うん。このハーレム、増員で完成度が増してるんだよな。
ハーレムの主 剣士 タクト(脱男子校)
ハーレム構成要員① 格闘家 オーミ(一番好み)
ハーレム構成要員② 魔法使い ナウリ(巨乳)
ハーレム構成要員③ ロードガイド ニッカ(カッコ可愛い)
ハーレム構成要員④ ランサー アーネック(美人リーダー)
1歳年下の女子4人を好き勝手できるって最高じゃない? まずは全員に俺のこと「先輩」って呼ばせるわ。真ん中の俺を囲むように4人全員内側向いて正座してもらって、90度ずつ回転しながら順番に膝枕してもらうわ。ひゃっほう、夢が膨らんできたね!
「あっ、見て、アーちゃん! スカイゼリーフィッシュ!」
少し後ろにいたニッカの声で現実に引き戻される。彼女の視線の先には、バレーボールくらいの大きさの白いクラゲが3匹、プカプカと空を漂っていた。
「よし、ここは俺に任せろ!」
良いハーレムは良い男から。剣を握り、顔の右側まで持ち上げ、水平に構える。相手の眼を狙う「
「うおおおおおおお!」
「あ、おい、タック!」
制止するアーネックの声を振り切って走り出す。すまない、俺はいかなきゃいけないんだ。ここから刀を斜めに返して袈裟斬りだああああ!
「せいっ!」
ガキンッ!
「痛いっ! 固いっ!」
何コイツ! 跳ね返された!
「タック、そいつフワフワしてるけど防御するとメチャクチャ固くなるぞ」
「そういう生き物なの……」
クラゲのくせにすごいな!
「でも、だったら槍も——」
「心配ないさ」
俺が全てを言い終わる前に走り出していたアーネック。その手には、使い込んだ槍。
「防御される前に倒せばいいってことだ」
そして、目にも止まらない、では足りないだろうか、目にも映らない速さで一突きをかます。貫通した敵は「キュウッ」と萎むような音を立て、平たくなって地面に落ちた。
「素手なら、防御しても守り切れないところも突けるけどね」
後ろにいたオーミが態勢を低く構えた後、突進する。
「…………はっ!」
明らかに体を硬直させ防御の姿勢を取ったスカイゼリーフィッシュに対し、オーミは足の付け根とも呼べる部分に下から
「オーちゃん、指は大丈夫~?」
「うん、綺麗に当たったから」
オーミと一緒にナウリの方を向くと、既に最後の1匹を火柱で焼き尽くしていた。
「この辺りだと敵もこんなもんだよな。よし、ニカリン、先に行こうぜ」
俺役に立たねええええええ!
なんだこれ、3年間修行するとこんなに強くなるの。俺剣士で大丈夫? 3年前まで「持つと攻撃力が10万倍になるが、反動で心の『闇』が肥大する」みたいな厨二病全開の剣の想像して楽しんでたけど、大丈夫?
「おっ、これだな、辛味草」
モンスターを倒して(もらって)から更にしばらく歩き、だだっ広い平原に出た。アーネックがところどころに生えている真っ赤な草を指差すと、ニッカが「そうそう」とリュックから手袋を取り出す。
「みんなで手分けして取るよ。素手で触るとかぶれちゃうから気をつけて」
こうして、もってきた麻の袋に摘んだ草を詰めていき、今回のクエストは無事に終了。いやあ、今回も簡単だった! 次回は敵を倒すのが目標! 泣いてないぞ!
すかさずナウリが
「んー、いや、さっきはそう言ったけど、実は迷ってるんだよなあ。結構髪伸びてきたから、ハリムさんのところでカットしてもらいたいなあって」
ミルクのような色、シルクのようなツヤの真っ白な髪。肘くらいまであるその髪を撫でる彼女を、すかさず女子3人が取り囲んだ。
「えーっ、そうなの! 次どうするの、気になる!」
「結構バッサリいくの?」
「もう少し伸ばしてもいい気はするけどねー」
なんだなんだ? すごい食いつきようだな。
「このカールは気に入ってるから、これはそのままでセミロングくらいにまでにしようかと思ってさ」
「そっか、こんな感じ? オトナっぽくていいかもね」
オーミがアーネックの右側の髪をふわりと握り、鎖骨の下まで手で隠してみる。ニッカとナウリが「似合う!」「ね~」と褒めそやした。
「じゃあ今日は戻ったら解散だね」
「悪いな、今度またご飯行こ!」
そのまま気分よさげに先頭を歩き出すアーネック。
その後ろを歩くオーミ達3人も、どこか満足気、というか安堵した表情を見せていた。
「みんな髪のことって気になるんだな」
「当たり前じゃない。知らずに私達も切って、ヘアスタイルかぶったらどうするのよ」
「あ、そっちなの」
興味じゃなくて心配!
「あのねタクトさん、16歳女子の構成成分の4割は髪なんだよ~」
「比率高すぎませんか」
何なの、妖怪なの。
「ヘアスタイルってとっても大事なんだよ~。アーちゃんみたいにホントに高い店でカットするのもステータスなの。ハリムさんところなんか、なかなか16歳で行けないでしょ?」
「いや、そんな一般常識みたいに言われても」
ハリムさんの性別すら知りませんけど。
「ヘアスタイルがかぶるっていうのはね、タクト。相手と個性を相殺するってことなのよ」
「いや、でもオーミ、髪の色違うから……」
「だから余計よ。色違いの類似品みたいじゃない」
「そこまで言う!」
怖いよー、目が笑ってないよー。
「ワタシ達3人も、髪切るときは教えてねって決めてるからね~。アーちゃんに『マネしただろ』とか言われても困っちゃうでしょ?」
「そんなきっかけでケンカになることもあるんだな……」
髪型で男子と言い合いになったことなんか人生で1回もないなあ、と思い返していると、ナウリがポンと俺の肩を叩いた。
「いい? タクトさん、覚えといて」
「何だよ急に」
「お母さんから教わった言葉だよ~。『女子グループは気が付くと内紛』」
「それオーミから聞いたことある!」
代々受け継がれてきたんですね!
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