彼女のいた軌跡

バブみ道日丿宮組

お題:消えた喜劇 制限時間:15分

彼女のいた軌跡

『大丈夫』という言葉を聞いて数秒後、彼女は線路に飛び降りてた。駅を通過する急行電車が彼女を跳ね飛ばすまで数秒もかからなかった。

 身体は元の人間であるパーツを残さず吹き飛ばし、唯一彼女とわかるのは学生証だけだった。

 なんでこんなことになったのか、どうして飛び込みをさせてしまったのか。

 僕は小学校から今になっても後悔し続けてる。

 小学校、それは僕にとって喜劇の主役たる彼女と結ばれた儚い記憶の時代。それがもしかしたら、彼女には負担であったのかもしれない。もっとたくさん話すべきだった。

 僕にはその権利があったはずなのだ。

「……やぁ、一年ぶりだね」

 毎年墓石にやってきては、僕は彼女に話しかけてる。

「……明日雨みたいだね」

 墓石に入ってるのは彼女であったごく一部のもの。肉片は全て回収することができず、9割以上は破棄されたという話だ。

 だからこそ、ここで彼女に話しかけるのは間違ってるかもしれない。

 あの日、あの時、飛び込んだ駅で笑いかけるのが正しいのかもしれない。

「……」

 ただ、ただ……あの場では静かに泣くことはできない。

 駅は泣く場所ではない。人を運ぶ場所だ。そんな場所で死んでしまうのはひどくおかしい。

 僕は気づくべきだったのだろう。

 彼氏という1つの定石に収まってたのならば、彼女という変化に目を向けるべきであった。

 だからこそ、僕は後悔し続ける。

 いずれ僕も彼女の元へ行くだろう。

 彼女がどうして死んでしまったかである男に僕は接近する。

 それが何を意味してるのか、僕は十分に理解してる。それでも前に進むには会って話すしかない。

 会う場所は、廃屋。いかにもな場所。下準備はしてある。僕が終わったとしても、新しい僕が引き継いでくれるだろう。

「……待っててね」

 いい思い出話ができるといいなーー僕が僕であればいい。


 それが墓石で願うたった1つの願いだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼女のいた軌跡 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る