第22話・風の旅人

 次の日のことである。僕が冒険者ギルドを訪れると、そこにはミアさんたち一行がいた。

「サイス君に提案! Aランク冒険者とパーティ組む気はない?」

 ミアさんは満面の笑みだった。それでも少し笑顔がぎこちない、きっと少しは無理をしているのだろう。

 だが、昨日のことがあっても、この提案だ。母は強しというが、僕の想像よりずっと強いのだと思う。

 昨日は僕をアーロと呼んでいたのに、今はサイスと呼んでくれている。それもきっと僕に気を使ってくれているのだろう。


「そういうわけだ、検討してやってくれ」

 と、少し気乗りしなさそうなディランさんである。

 とはいえ、人数が増えることにも、まっとうなAランク冒険者とパーティを組むことにもメリットがあった。


 まず、人数が増えることによる適応能力の増加だ。例えば、正面からの戦闘をディランさんたちに任せて、僕が暗殺に専念できる。大鎌は暗殺向きな側面を持つ。背後から忍び寄り首に刃を掛けることで、気道と頚動脈を切断しやすくなる。無理に首ごと切断する必要がなくなるのだ。

 もう一つのメリットは、Aランク冒険者の経験を借りることが出来る点だ。僕はSランク冒険者だが、ティアは低い。少ない依頼数で、Sランクに到達してしまった故の弊害だ。ティアの低さは経験の浅さを示す。その浅い経験をAランク冒険者であるディランさんたちが補ってくれるということだ。


「ジハードは使えますか?」

 そしてなによりも強いメリットになり得るのがジハードだ。Aランク冒険者の戦闘においてほぼ必須となる魔法だが、僕は信仰系の魔法が不得意なためまだ扱うことはできない魔法だ。

 ジハードの魔法は信仰系を得意とする術師以外が使用するのには、桁違いに高い魔力を要求する。よってAランクの術師は信仰系を得意とする術師が非常に多い。


「使える」

 ミアさんは即答した。

 そもそも、僕はミアさんたちの提案に乗り気だった。ミアさんが母親だというのは関係ない。ただ、単純にメリットが大きいからである。

 少し無理をしてそれでも僕のそばに居ようとするミアさんは、少し子供っぽく見えた。

「じゃあ、パーティを組みましょう!」

 僕が言った瞬間、ミアさんの笑顔のぎこちなさが消えた。正真正銘の満面の笑みだ。

「本当にいいのかい? 僕たちなんて足でまといだろ?」

 確かにステータスを考えるならレオさんの言うとおりだ。だが……。


「僕のティアって知ってます?」

「そこまでは、知らないな」

「実は11なんです」

 僕のティアはダイアウルフ討伐で1、不死者の軍勢から街を守った時に10上がっただけだ。ステータスの上昇が大きすぎて、経験がそれに追いついていない。

「なるほど、それなら僕たちも役に立てるのかな?」

 レオさんは今回のパーティ結成に不安を感じていたようで、安心した表情を見せてくれた。


「それだけじゃないんです。僕のステータスはレベルが上がるごとに二倍に上昇します」

 そう言いながら、僕はステータスをレオさんたちに見せた。

 するとレオさんたちは目を見開いた。

「「「こ、このステータスが二倍に!?」」」

「はい、なのでジハードは僕と相性のいい支援魔法になります」

 だから、僕はジハードを使える術師は喉から手が出るほど欲しいパーティメンバーになる。


「じゃあ、パーティ結成でいい?」

 ミアさんは僕に尋ねた。

 そんなの、僕からお願いしたいくらいだった。

「はい、お願いします。ところで……みなさんのパーティはなんていう名前なんです?」

 それに答えてくれたのは、レオさんだった。

「風の旅人さ」

 こうして、僕は風の旅人の一員となったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る