第16話・特異点

 平原付近の街門にたどり着くと、外には地獄のような光景が広がっていた。アンデットたちが隊列を組んでいるのだ。

「騎士隊! 障壁を展開せよ!!」

 騎士団の指揮官が檄を飛ばすと、騎士団の団員たちは魔法の障壁を展開する。それが巨大な障壁となる。

 次の瞬間、空を覆うほどの火矢の雨が降り注いだ。

 火矢を撃ったのはアンデットだ。アンデットが秩序を持った軍隊を形成している。それは、ありえないことであり、そして恐ろしい事態だ。


 遅れて巨大な矢が飛んでくる。まるで巨木のようなそれが、空を切り裂く音を立てて飛翔する。それはまるで冗談のような光景だった。

「任せろ!」

 オリバー様が手に持つ両手剣でそれを弾く。だが、その代償としてオリバー様は吹き飛ばされ街壁に打ち付けられる。

 街壁の外側は崩れ、パラパラと石レンガが落ちていく。

 だが、そうしなければ騎士たちの魔法障壁は、破られてしまったのだろう。


「騎士隊! 突撃せよ!!」

 指揮官の激に合わせ、騎士隊の突撃が始まった。飛び交う矢の音をかき消してしまうほどの軍靴の音は心強く思えた。それも、つかの間だった。

 幾重にも屍が折り重なって生まれたような屍の巨人がさらなる轟音をあげて騎士団に突っ込んでくる。

 騎士団はそれに蹴り上げられ、踏み潰され次々に屍へと変わる。蹴り飛ばされた死体はまるで投石のように、他の騎士に当たりその命を奪っていく。

 だが、騎士隊の突撃は終わらない。命令がそうである以上、優先されるのは命より命令だ。


「ギルドより命令! 騎士隊の切れ間からさらに奥へと突撃せよ!!」

 ソフィア様が大きな声を上げる。僕はそれに合わせて声をあげて突撃をする。

 僕たち人間はまるで一体の巨人だった。騎士隊という盾を構え、その隙間から冒険者という刃を振り下ろす。

 だが、敵であるアンデットはその巨人が何人もいる。武器は持たずとしても、数百数千と巨人が押し寄せてくる。


「冒険者ギルドから追加の命令です! 私たち龍の霹靂はパーティで撃破可能な敵を、確実に撃破するようにと!」

 術師は冒険者パーティの生命線だった。術師は得意不得意を持つとしても、できることが前衛を務める冒険者に比べてはるかに多い。今回であれば、上位司令官である冒険者ギルドとの通信役を担っている。

「お前はこっちだ!」

 龍の霹靂と離れ、冒険者たちの突撃に参加しようとした僕の首根っこをオリバー様が捕まえて、僕は龍の霹靂と行動することになる。


「俺が右足、オリバーが左足、ソフィアがそこにグレーターフォース、止めはサイス君が刺すんだ! 行くぞ!」

「応よ!」

 オスカー様が戦術を指示し、それにオリバー様が応えた。

 オスカー様とオリバー様が先行して突っ込む。逆にソフィア様は僕に魔法をかけた。

「ジハード!」

 それは、レベルを一時的に一つだけ上げる魔法。ほかのどの冒険者にかけるよりも僕にかけるのが最も効果が高かった。


 ―――――――――――――――――

 レベル8

 HP192/192

 MP192/192

 筋力192

 魔力192

 素早さ192

 器用さ192

 スキル:天賦の才(大鎌)

 称号:絶望喰らい

 ―――――――――――――――――

 これが、ジハードに加え絶望喰らいまで発動した僕のステータスだ。Bランク冒険者のステータスに片足を突っ込んでいる。


「うぉおおおおおおおりあ!」

「せい!」

 オリバー様とオスカー様の攻撃で、屍の巨人がよろめく。

 その下肢に向かってソフィア様が魔法を唱えた。

「グレーターフォース」

 屍の巨人が僕に向かって倒れる。


 大鎌を持った僕は、体の赴くままに身を任せた。

 まるで羽のように僕の体は浮き上がり、屍の巨人の首元に大鎌を引っ掛ける。

 屍の巨人は巨体ゆえの鈍さでそれに反応できず、後ろにのけぞった。

「うううぅぅぅ、らぁ!」

 僕は巨人の背中を足場に、地面に向かって飛び移った。巨人の首をまるで作物を刈り取るように、刈り落としながら。

 地面に足を着くと、屍の巨人が倒れてくる。その前に僕は飛び退いた。


 <<<レベルが上昇しました>>>

 一気に三つもレベルが上昇してしまう。

 ―――――――――――――――――

 レベル11

 HP1536/1536

 MP1536/1536

 筋力1536

 魔力1536

 素早さ1536

 器用さ1536

 スキル:天賦の才(大鎌)

 称号:絶望喰らい

 ―――――――――――――――――

 ソフィア様の魔法もあって、僕のステータスはAランクの水準に追いついた。

 体が一気に軽くなる。世界が、今までよりもずっとゆっくり動いているように感じた。


「いいか! 俺たちが生きて帰れるかどうかは、お前が化物になれるかどうかにかかってる! 経験値も、補助魔法も全部持っていけ!!!」

「次の巨人行くぞ!」

 オリバー様とオスカー様が叫ぶ。

「ブレス・オブ・ゴッド!!」

 さらにソフィア様の補助魔法が追加で僕にかけられる。

 ―――――――――――――――――

 レベル11

 HP2036/2036

 MP2036/2036

 筋力2036

 魔力2036

 素早さ2036

 器用さ2036

 スキル:天賦の才(大鎌)

 称号:絶望喰らい

 ―――――――――――――――――

 Aランクの上位に迫りそうなステータスまで、僕は強化された。

「ありがとうございます!」

 そう言って僕は、龍の霹靂の後ろを走り出した。

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