第15話・死の誘い

 僕の目の前で、龍の霹靂のメンバーがもめている。

「こっちだ! 黒鉄の大鎌の方がいいに決まっている! 黒だぞ! かっこいいじゃないか!」

「いいや、こっちだね! 赤熱の大鎌、爆煙に包まれるサイス君を思い浮かべるんだ!」

「いいえ、こっちです! 青刃の大鎌、魔法の発動体も兼ねたスグレモノです。サイス君は魔法を覚える才能だって十分なのです!」

 どれもかなりの値が張る。Aランク冒険者向けの武器だ。ちなみにSランク冒険者向けの武器などない。


「「「どれにするんだ!?(しますか!?)」」」

 龍の霹靂の三人は急に僕に話を振ってくる。だけど、そもそも選べるはずもなかった。Aランク冒険者パーティの依頼一回分の報酬一千万ビターが、僕の武器のために消費されようとしているのだ。

「あの、せめてもっと安いもので」

「「「だめだ(です)」」」

 三人は僕に譲歩する気がない。

「ええっと……」


 僕が困っていると、オリバー様が言った。

「あんまり悩んでると三本とも押し付けるぞ!」

 Aランク冒険者の資金力は凄まじく、迷うくらいなら三千万ビター払ってしまう。そんなことが可能なのだ。なにせ、依頼三回分だ。


 ちょうどその時だった。エヴァンス伯爵領全域に風が吹き抜ける。

 するとソフィア様が顔を青くした。

「正体不明の軍勢が草原に出現したそうです。推定脅威度は……Sです」

 推定脅威度は同ランク帯の冒険者の一個旅団を基準に算出される。脅威度SはSランク冒険者4000人に匹敵する脅威である。

 だが、Sランク冒険者4000人など世界のどこを探しても存在しない。つまり、その驚異度はこの世界の人類の総戦力を上回るということになる。

 オスカー様も、オリバー様も、その顔に絶望を浮かべていた。


 オリバー様が僕の肩を掴んだ。

「よく聞け、世界は今この瞬間滅亡の瀬戸際にある。今世界を救えるのはサイス、お前だけだ。だから、逃げろ、それで大きくなれよ」

 こんな時にオリバー様は判断が早かった。直情的でありながらも、直感に優れ、今何をするべきかを最も素早く判断するのがオリバー様だった。

「そうだね、それが一番だ」

 それを吟味して、最終的な決断をするのがオスカー様の役目。だからこそ、龍の霹靂はオスカー様をリーダーと仰ぐ。

「くれぐれも気をつけてくださいね」

 そして、その二人の意見に対して、守備的な側面を持たせるのがソフィア様の役割だった。


「いいえ、僕も戦います」

 僕は、これまで一度もしなかった反抗を今している。少し間でも幸せをくれたこの人たちを死なせたくなかった。そのためなら、反抗して僕がどうなってしまおうとも構わなかった。

 思えば、幸せだと思えたことなんて、この人たちが僕を拾ってくれてからだ。僕の全ては、この人達の為なら捨てても惜しくない。


「だめだ、犬死にするだけだぞ!」

 オリバー様が否定する。

「オリバー様たちが生きる一瞬のためなら僕の全てをかけても惜しくないです!」

 だけど僕は引かない、引いてたまるものか。嘘でも人間扱いしてくれた唯一の人たちだ。死んでも殺してなるものか。


「いいか、お前が来ちまったら俺たちはお前を守らなきゃいけねえ! 戦いにくくなるんだよ!」

「守らなくて結構、僕は乱戦の中で経験値を獲得して強くなります! そして皆さんを守らせてください」

 僕はまだ弱い。だけど、レベルアップの時の成長だけなら既にこの中でさえ一番だ。それでも僕のレベルはまだ7だ。簡単にレベルが上がる。それに賭けるしか、龍の霹靂を生き残らせる手段はないのだ。


「っ、何を言っても無駄か。なら俺たちがお膳立てしてやる。それでいいか、オスカー、ソフィア」

 オリバー様の言葉に二人は無言で強く頷いた。

「おい、坊主これもってけ」

 唐突に店の奥から武器屋の店主様が現れて僕に一本の大鎌を押し付けた。見れば見るほど美しい大鎌だった。魔法の発動体も組み込まれつつ、氷のエンチャントが施されている。さらに魔法陣が仕込まれていたが、その効果は僕にはわからなかった。


「あの、ありがとうございます!」

 それを言おうとした頃には、店主様は既に奥へと引っ込んでいた。

 こうして僕たちは、無謀な戦いへと身を投じるのだった。

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