第3話

 みやびの日である金曜日。

 陽菜には「報告があります」と一言メッセージを送っていた。


 ビールで乾杯し喉を潤した後、グラスを置いた陽菜の目が私を真っ直ぐに射抜く。


「で?」

「えっと、ですね。報告があります」

「はい」


 二人して姿勢を正し、私は静かに肺に空気を満たすとひと息に吐き出した。


「恋人が出来ました!」

「うん、だよね」


 抑揚のない声で陽菜は言う。


「え? 知ってたの?」

「なんとなく? 肌艶良い日があるし、妙に気合入れて化粧してる日はあるし、そわそわしてる日はあるし、そうかと思えばにやにやしてる日はあるし? 彩葉って分かりやすいよね」

「え……」


 覚悟していた気持ちがすっと引いていく。

 なんだ、言わなくても分かってたのか陽菜は……。


「いつか教えてくれるだろうって待ってたんだよ。あんまり首突っ込むのも嫌だしさ。それで相手は誰よ?」

「相手は」


 そこまでは分かってなかったのかと、再び気合を入れるように、すうっと息を吸い込む。


「同じ部署の……」

「同じ部署の?」

「松岡くん」

「あー、なるほど! そっか、おめでとう」

「ありがと」


 陽菜の反応があっさりしていて、もしかして、と思う。


「ねえ知ってたの?」

「いや、知らなかったけど、松岡くん彩葉の事よく見てたしね。なるほどって思っただけだよ。でもそっか〜、年下のイケメンかぁ〜、そりゃ肌艶良くなる訳だよね」

「へへへ」

「良かったね! 幸せオーラが眩しいよ! でも気をつけなよ? 松岡くん狙いの女子に刺されないようにね」

「わっ、それ怖いんだけど!」

「まっ、彩葉なら大丈夫でしょ! 仕事出来るし、その部分で認めさせれば外野も黙るってもんよ」

「そうなのかな? ま、でも仕事は頑張るよ!」

「よし、私も負けないように頑張る! 恋も仕事も頑張る! ねえ、もう一回乾杯しよ」


 私たちは半分減っているビールのグラスを掲げて、笑顔でグラスを鳴らした。





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