第13話 真意を見透かされて

 学校から出て、深川先生の宅へ行く。本来は自分のアパートを持ちたい所だったが、手続きがまだだ。


仕方なく、打ち合わせで時のついでに得た深川宅の鍵を使う。


手元には、マスコミの蔵元へ100万手渡して、600万。阿多谷父が全額支払うと言っていたので、金への心配は余り気にしていないが。




「……」




なんなんだ。この虚しさは。目的は達成している。


なのにどうしてだ。ここで起きたことのせい? ……。


わからないが、今はあの学校に離れたかった。


だから、仮の居住区へ向かっている。




 追加で約500万か。これ程あれば、成人になるまでの間は不自由なく、暮らすのも夢ではないだろう。


そのはずなのに、思いの外喜びが湧き出ない。


金を得ることでの喜びが出ないのは想定内だ。


俺が求めているのは、悪魔でオヤとの絶縁なのだ。




金は手段であって、目的では無い。そこが問題だ。


オヤと絶縁する方向に持っていけたのに、喜びが薄い。


オヤに未練がある? 絶対に無い。関係どころか、顔も見たくし、声も聴きたくない。




「……」




 やはりアレなのか?壇上で見下ろしたあの景色。


そこでの違和感が俺の頭にこべりついているのか?  何を気にしているんだ。今回の目的は果たしたんだ。次の段階も考えているんだ。いちいち考えても仕方ないことに俺は……。




坂井は俺へ、恩義感じている所だろう。


手駒に出来そうだ。


そうそうの事では手のひらを返すようなことはしないだろう。


今思えば、小学生の頃のいじめられていたの芋(名前が思い出せない)も手駒に出来そうだったが、居るところの心当たりや手がかりがない。


当時はまだ爪の甘さが目立ったな。




生徒らの名前は網羅するに越したことはないな。


そもそも、俺の転校に芋がついてくる保障は無いけどな。


まずあり得ない。


坂井にも言えることだが。まぁ、手駒になればいい程度の考えだ。




高校生活も充実するにはあって、損はないからな。何れにしろ、大金ではいおしまいで済ます積もりはない。


高校でも都合のいいサンドバッグたちを探さねばな。いじめが絶える事はあり得ないのだから俺の欲求が満たされやすい環境なのは良いことだ。








 そういえば、阿多谷父は残りの額も今日中に、何とかすると言っていたか?


どういう風に渡さすのか? スマホは叔父に奪われて以来買い換えていない。


伯父に間違えて送金なんて無いよな? 


いや、普通にあり得る。……爪が甘いな。


だが、オヤ名義になんてするのなんてまっぴらごめんだ。


これからのことも考えて、深川名義で早々に作っておきたい。




未成年というのは、面倒だな。となると、やはり手渡しになるだろが、場所の素性をわからない状態で一体どのようにして、渡されるのだろうか? 


もし、そうなら、俺の動向を逐一把握している可能性が高い。


いや、今更だな。








 そんな考えを巡らせていたら、深川宅に着き、家に入る。


オヤといた頃のイエと比べて質素な内装だった。


ただ、浪費家で見栄っ張りなオヤだったので、後先考えずに、入居したにすぎない。




遅かれ早かれ、ランクダウンした所に住む羽目になっていただろう。


寝床は深川が独り暮らしというのもあり、ベッド一つ。


たとえ複数あっても、誰が使ったか不明なものを使用したくはない。




早々に自分の寝具は買っておかないと。ここに長居する予定は無いので、即席な物を買おう。


大金の得たのだからいいベッドを短期間使用で購入するのも可能だが、幼い頃の金銭感覚が染み付いてしまっている。


何より、大金を得たら真っ先に散財するのがオヤみたいで、嫌だ。


とりあえず、大金を得たのだから独り暮らし用のマンションを借りるのには、不自由しないだろう。


書類の審査等は、深川が保護者扱いになるから問題無い。








 荷造りの考えがまとまり、寝具販売店へと、向かう。


求めていた物を買い、家へ戻ろうとしたその時。




「お待ちを」




「? 」




振り替えると、黒服の男性が。




「またお遇いしましたね」




校舎で会った黒服の男性。阿多谷父の側近であろう人物だ。




「どうも。お気に為さらずに。ついていましたよね? 」




「御明察です。凄い観察眼でございます」




……やっぱりか。遊ばれている感満載だ。




「それで、用件はまぁ、お金ですよね」




「正解でございます。賞金はこちらです。ご確認を」




渡された小包は、500万円だった。だが、あえて突っ込ませてもらう。気になって仕方がない。




「……慰謝料ですよね? 」




「拡大解釈でございます」




「その話し方直せませんか? 」




「すみません。癖でございます」




「はぁ」




「それよりも、お手荷物もこざいますね?お車でお送り致します。深川先生のお宅でよろしいですね? 」




「ええ。……え、なんでわかるんですか? 」




「親御さんと仲たがいをしたばかりではありませんか? 深川先生が保護者となるのですから当然ことではありませんか? 」




「……まぁ、そうですね。お言葉に甘えてお願いします」




「かしこまりました」




 やはり違和感がある。一応話の筋は通っているが、俺が深川の元で暮らすとは一言も言っていない。


少々強引な決めつけにも感じる。そして何とも調子が狂う人だ。


小包の中身を調べる。紛れもなく、紙幣だった。流石に騙すことはしないか。




 深川の家に着き、荷物を入れ、中に入る。




「……」




 やはり込み上げるものが無い。示談で5000万吹っ掛けてたときの方がいい気分だ。


そりゃあ、額がそっちの方が上だから。


では、小学生の時の示談金の時よりも嬉しくないのは。


何故だ?




「プルル プルル」




 固定電話の着信音。深川が連絡してきている可能性もあるので、近くのコードレス方の受話器を取る。




「はい、もしも」




「あぁ良かった良かった。出てくれた。阿多谷の父です」




「っ! ? 」




「そんな驚かなくてもいいじゃないか。傷つくなぁ」




「いや、学校の連絡網を確認する人ではないと思い、まさかここに電話してくるとは、思っていませんでしたから」




「うーん。何とも疎外感を感じることを言うね」




「いじめられていた側といじめていた側の関係なのですから当然では無いでしょうか? 」




「はっはっ。そうだねぇ。建前上は」




「まぁ、否定は出来ませんが、それを差し引いても、あまり関わりたくないのが、本音ですよ」




「おー。これは悲しいねぇ。あ、慰謝料前のより控えめになったね。心境の変化? 現実を見据えた感じ? 」




「煽るためなら、切りますよ。だいたい、あんたなら、その、みみっちい金もすぐに、用意できたんじゃないのか? それじゃ」




「待って、待って。あぁ、そうそう。向井間君。卒業式でとんでもなく、目立ったと思ったと思えば、急に出ていてしまったじゃないか。こっちも困ったよ。主にお金の事でね。何せ、今日中に渡さないといけないからねぇ。卒業式の700万円に加えて500万円側近のものに、渡してある。余分なのも、キリを良くしたかっただけだから気にせず、使ってくれ」




「問題なく、受けとりました。その件は、すみませんでした。仮に、期限外でも咎められる筋合いではなかったので。気にしないで下さい。それでは」




「あぁ、まだまだ。それに、[答え]知りたいでしょ? 」




「答え? 何のです? 」


____・・


「あぁ、何のって聞くってことやっぱり気になってるだ。わかりやすいねぇ」




「だから! 何ですか? 冷やかしするためならきります。失礼します。」




「カゾクと縁を切れるのに喜べない」




「……! ? 」




「わかるよ。大金を得た者には、大抵妙な活力が感じられるからね。伊達に私も金持ちではないですよ。たけど、それが感じられない。何故だと思う? それは」


「……」




____「【私に負けたからだよ。】」____




「は? ……何ですか? それ」




「私が邪魔したばかりに、いやぁ申し訳無い」




「だから何ですか? それ。第一貴方は無様に土下座を先陣切ってやってただけじゃないか。そんな人がよくもまぁ、勝ち誇ったように、言いますね」




「あぁ、私が示しを見せたが為に、向井間君の土下座を奪ってしまった。向井間君のではなく、私の物にしてしまった」




「ご託を並べるのも大概にしろっ! ! 」




「では、逆に言いますが、果たして、私が行動しないで、あの光景に向井間君が出来ると、自信をもって言えますか? 」




「だから勝負なんてしてない」




「肯定ということですね。でないと、学校から逃げた道理になりませんよ」




「さっきからごちゃごちゃと勝手ことを。いいか? あんたはいじめに加担した父親。そんな大事おおごとをメディアが黙っていない。いくらひたむき行動しようとな。そのレッテルは簡単に覆せるものじゃない。次期にどん底人生になるんだから大人しくしてろよ」




「マスコミが正義の味方ではないことくらい君ならわかると思ったのだがね」




「は? 」




「あぁ。揉み消せるよ」




テレビを操れる? そりゃあ、テレビがクリーンだなんて思ったことはない。


俺の知らない所で汚職してたって、信じられる。


特ダネをみすみす手放す真似を?それは即ち、メディアを掌握しているということと同義。




「安心して。全て揉み消せるけど、そんな無粋なことはしないよ。けど、何もしないで戯言と思われるのは困るね。だからある特定のあるところを編集してもらうことにするよ。なぁに、大筋をだめにするつもりはないよ。そうだな、報道時間5分刻みに校章が写るようにしておくよ。楽しみしててよ。話を戻そうか。君は私に負けたからステージから降りた。それがモヤモヤの答さ」




「黙れっ!!土下座をした。醜態をさらしたのは事実。なにが勝ちなんだ? 」




「あぁ、土下座ねぇ。あれ、実は私じゃないんだ」




「………………………………は?言っている意味がわからない。あそこには、阿多谷だっていた。息子のアイツがあんたを見間違いも聞き間違いもするわけがないだろ! 」




「根本的に違うよ。簡単な話さ。今まで息子の阿多谷は父親と思っていた者はそうではなかっただけだよ」




「………………………………………………………………………………………………」




ますます訳がないわからない。




「何故そんなこと。……いや、そうだ。負け惜しみに、混乱に乗じて、嘘をついているだけだろ」




「はっはっ。君はいい反応をする。じゃあその証拠を今示すとしよう」




そう言った途端、インターホンが鳴る。カメラを確認する。




「嘘……だろ」




 そこには阿多谷父? がいた。携帯など持っている素振りなどしていない。


いや、どうせ、体格を真似ているいるだけだ。ふざけた冗談はやめろ。




「ガチャ」




「やぁ、向井間君体育館振りだね」


「向井間君これでわかっただろう? 」




 そこは同じ声なのに別の言葉を出す奇怪な状況となっていた。


「おいおいドッペルゲンガーに出くわしたような驚き様だね。電話越しなのが悔やまれるよ。あぁ後、何故そんな事をと、聞いていたね。そりゃあ、金持ちは命を狙われる危険があるからね。影武者は必要さ」




「それはわからなくもない。そこじゃない。何で息子に偽る程に、徹底するんだ。もしそれが本当だったら、阿多谷は赤の他人を父親として、見ていることになる」




「何を言っているんだい? 徹底しないと、意味が無いじゃないか? それは息子だって例外ではない。君だってそうじゃないか?損得感情で生きる人間だ。私にはわかる。君は自分の以外の人間にを見下している。わかるわかる私にもそういうとこあるからねぇ」




「最後に一つ聞きたい。阿多谷を何だと思っているんだ? 」




「うーん。特に考えたことも無かったね。そっちのお世話は影武者君に巻かせいるからねぇ」




「じゃあ、あんたと一緒にするな」




「ふーんそうか。でも、これでわかったよね? 君は本当に負けたんだよ。それを棚に上げたかった。誤魔化したかった。君も薄々気づいていたはずさ。普通に考えれば、あのまま残るべきことなんていくらでもあげられる。いい加減勝ち負けに拘る人間だということを認めた方が生きやすいと思うけどなぁ。それが私にムカついている根元の理由なのだから。最後に助言。オヤを疎ましく思う。それは行動を起こすきっかけに過ぎない。君はそれに固執しているようだけど、無意味だよ。逃げだ。もっと自分が俗物の人間だということを自覚した方がいい。きっかけなんて気にせずにね。それじゃあ、また縁があったらねぇ」




「ガチャッ」




ああ、そうか。俺は、土下座をさせたかったんじゃないんだ。


俺が求めていたのは、俺にひれ伏した姿だ。


いじめを黙認していた奴らが阿多谷父の威光にあてられて、土下座したに過ぎない。




裸の王様が嘲笑の対象だと、気付いたらこんな感情になるのかもしれない。


高校へ行く際も、それが基準であったじゃないか。答えは出ていた。




「違う」「違う」「違う! ! 」ガッゴン!




 コードレス受話器を投げ捨て破壊してしまった。幼稚だろうが、奴に見えて、感情を抑えきれなかった。




「はぁはぁ」………電話は二万もあればそれなりのものを買えるだろう。




 無様だと嗤うか俺を。イライラする。あぁそうだな。


俺は勝ち負けに拘る奴。俗物の人間。そうかもな。


こんな時は、都合のいいサンドバッグをぶっ壊すのに限るな。


根元の憤りはいつになっても癒えない。だから俺は、ずっと飢えたままなのだろうな。




はぁ~、早く、ぶっっっ壊してぇなぁ。

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