第8話 いいように使われるくらいなら

 ヨウシ?用紙?容姿?


……いや、何を言われたのかはわかっている。


しかしあまりにも、現実味の無いことを言われて、受け入れられないでいる。




「養子になれと。本気ですか? 」




「ああ、いたって本気だよ」




平然と言ってのけることにもう驚きもしない。この男の異常さは、話している最中に、にじみ出ていた。




「カゾクがいるのに何を言っているんですか? 誘拐や脅しでもするつもりですか? 」




「そんな物騒なことはしないよ。けれど、君は御家庭に不満があるはずだよ」




「そりゃあ、カテイに不満なんて、どこのカゾクでも一つや二つあるでしょう。だからって、そんなホイホイついていく子供がどこにいるんですか? 」




「御家庭が貧しいようだね」「だったら、なんなんですか? 」




「小学校の頃、いじめられていた」「! ? なんでそれを」




「いや、君が言うに、目的のためにいじめられてやっていた。目的を達成して、大金を得た。その大金を得るために君はいじめられるのに励んでいた。貧しい家庭で両親はいつも口喧嘩していたそうだね。そして、君は貧しいからだと悟った。そして大金で喧嘩の種を解決しようとした。しかし両親はいじめの慰謝料に手をつけていた。もうこれでわかるだろう。私が少し脚色すれば、両親の問題を訴え、子供を育てる資格が無いことの証拠も揃っているということを。後は君の考え次第だ。さぁどうかね?」


 まさかそこまで調べられているとは。もしかしなくても、伯父が絡んでいるよな。


金銭事情等を知るよしも無いのだから。だが今はそんな事を考えている場合ではない。


はっきり言って、悪くない話だ。しかし。




「断る」




「うーん、理由を聞かせてくれるかな? 」




「まず、あんたはプライバシーを土足で踏み入れた。だから礼儀を使うは必要は無いと判断した。だから自由に話させてもらう」




「結構結構。敬語は聞き慣れて、飽き飽きしていたところだよ。プライバシーね。けど、客観的に見ても普通の家庭には見えない。君だって、疎ましく思っているはずだ。それなのに頑なに、断る理由がわからないね。多少不愉快な行為に目をつぶれば、願ったり叶ったりではないのかい? そう、私は考えていたのだけどね」




「カゾクはそう簡単に止められるものではない。飛躍しすぎた話に乗るわけが無い」




「じゃあ、ちょっとこの紙に【家族】って漢字書いてみてよ」




「! ? 」……コイツ。




「はは、やはりね。一瞬身構えたね。どうして家族という漢字を書いてと言っただけで、そんな大げさに驚くのかね? それは根本から家族というものを嫌悪しているからだ。そんな君にとって、忌むべき家族のもとへ離れられるこの誘いは悪い話では無いはずだよ」




「確かに、俺はカゾクを疎ましく思っている。だが、ここでその話に乗って、より良くなる保証は無い。お世辞にも、金元のように勉強が出来る訳でも無い。俺に何を求めて養子の話を振ったのか、不明な状況でそう簡単に乗れるものでは無い」




「確かに金元と君では、勉学という点では、劣っている。けれど、君は計画を実行するという能力が優れている。小学生の頃から抜きん出ていた。今回も金元を見事出し抜いていた。己の純粋な力と言っていい。是非ともわが社に入って貰いたい人材だ。勉強も環境が変われば、一週間もあれば問題なく出来るようになるよ」




 出来るようになるという意味には、一週間で何とかすれという意味も含まれていると思われる。


自分で言うのもなんだが、勉強は得意とは言えない。国語が出来る方でその他は平均的。それも怠けていたら余裕で、赤点になるだろう。




そんな状態を金元レベルのオール百点を常に叩き出す存在に無理やりさせられるはずだ。


とんだスパルタ野郎だ。


もしくは、一週間で規定値を達成しなければ、問答無用で淘汰されることだって、あり得る。


そして何よりも、こいつと単純に組たく無いのが一番にある。気に入らないという至極単純な動機が。




「能力を買って貰ってるのは有り難いが、アンタの犬になる気はないから断わる」




「はぁそうか。残念だが、それなら仕方ないね」




「じゃあ、失礼」




犬にするのは否定しないと。なら、もうここには要は無い。


はなっから、阿多谷寿士をあてにはしていない。あては他にある。




 俺は学校内で、ある人物の元へ向かう。着いた先は職員室。


中へ入り形だけの「失礼します。」を言い、担任の元へ駆け寄る。




「深川先生。朝礼の前に相談したいことがあります。進路相談室に来てくれませんか? 」




「あ、後にしてくれないか? 」




「イ ジ メ」




「……わかった」




 耳元でそう囁くだけで、手駒にできる便利な存在。担任深川の弱みを握っている俺は容易に、手玉にとって、要望を無理やり飲ませられる。


弱みは言うまでもなく、坂井が阿多谷にいじめられていることだ。




もう解決はしているが、まだその事を深川先生たちらは知らない。


知らせる義理もない。現状を打開しようとしない怠慢な奴等なのだから。


敬意なんざ一切無い。


説得(強制)を行い。進路相談室に深川と向かった。




「あまり時間かけて欲しくないのだが」




「それは深川先生次第ですよ。単刀直入に言います。俺を先生の養子にして下さい」

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