第6話 原点を噛みしめろ

 小学生。それは無邪気に笑い、学び。そして友達と遊ぶ。


そんな風に俺も思っていた。


思っていたということは、過去の話。何せ俺は今、小学校の生徒らのいじめを受けているのだから。




なので全然遊べていない。奴らに遊ばれているのだ。だからといって、俺は晴れて小学生を卒業とはならない。


全くもって、はた迷惑な奴らだ。いじめの内容はというと、下駄箱にゴミ・基本無視・悪口当たり前。


挙げたら、きりがない。








 当事者なのに他人事のようなのは、このままおもちゃにされる気はないのと元々のいじめの対象ではないからだ。


ようはいじめられるのの、肩代わりをしたのだ。


柄にもなく、おどおどするのは、いじめられるよりもイライラするものだった。




なぜ、身代わりになっているかというと、勿論善意、という訳でない。


自分の利益の為。もっと言えば金の為だ。


自分で言うのもなんだが、内のカテイは貧乏だ。金の事でオヤは喧嘩が絶えなかった。




借金が50万程あるらしい。わざわざ聞かなくても、口喧嘩の内容が聞こえるので、嫌でも覚える。


欲しい物も合ったが、貧乏なので買えない。


次第に、望む事が虚しくなった。小学生の俺にはどうすることも出来ないと思っていた。


ある朝のニュースでの出来事を見るまでは。








 ◎△小学校でいじめがあったそうだ。自殺等の大きな被害にならなかったようだ。


それよりも、俺はこのニュースで重大なことを知った。


何と慰謝料が300万円だったようだ。ふと調べると、精神的苦痛によるいじめだとだいたい50万円。


このいじめでは、異様に多い。どうやら、いじめの加害者が多いことが立証されたことが要因となった。








 ここで俺は珍しく、幸運に思った。今まさに、俺のクラスから学校全体でいじめが起きているからだ。


いじめの対象では無いが、奴らは単純だ。きっかけさせ作れば、対象は変わる。


そして、証拠も作り易い。奴らの動向は把握済みだ。




裁判を起こすのに弁護士が必要になる。伯父が弁護士なので、頼った。


最初はまともに取り合ってくれなかったが、証拠を見せて、計画を教えると、対応が変わった。




「金の成木だ」と喜んで協力してくれた。


手数料もろもろなく、報酬2割貰うことで契約が成立した。


借金がなくなり、口喧嘩もなくなり、その時は自分の欲しいものも買えると思って。








 そして今に至る。要するに下準備はもう完了している。


証拠は揃っており、今は厚意でいじめられてやっている。


加害者の証拠の映像30人。誤魔化せない。


奴等は後に、搾取される存在に逆転することも知らず、飽きもせずに、同じおもちゃで遊んでいる。








 ようやく、終わったところで、息をつく間もなく、奴らよりも目障りな存在がやってくる。




「と…透さん大丈夫? 」




「寄るな。邪魔だ」




 いじめられていた張本人。名前は……思い出せない。芋とする。


意図的に避けてきたからだろう。そして小学生なのにさん付けで、出方を伺う素振りが余計にイライラさせる。




そうこうしている内に、俺の肩を芋が持とうとした。




「何をする。止めろ」




「怪我しています。保健室に行きましょう」




「必要ない」




「駄目……です」




強情な奴だ。いじめられていた奴とは思えない。


痛みが無いと言えば嘘になるが、奴らから攻撃されているのにも慣れている。


急所に当たらないように、ガードは徹底している。


このまま無視してもつきまとう様子だ。


仕方ない。


俺は最大限の負のオーラで芋を見た。




「なぁ。それで、罪滅ぼしのつもりか? 」




「え……? 」




 明らかに様子が変わった。余裕がないときの追い詰められている表情だ。




「良かったな。お前はいじめられなくて、済んで。おかげでいい迷惑だよ」




「……」




「そんなにさぁ悪いと思うんならさぁ。いじめ、止めろよ。無理だよな。何せ、今まで出来ないでプルプル震えることしか出来なかったんだから。出来もしないくせに、しゃしゃり出るんじゃねぇよ。目障りだ消えろ」




「すみません。すみません」




 すすり泣くのに精一杯でそれから止めようとはしなかった。


これではどっちがいじめられているのか見当がつかない。


別に、奴に恨みもなければ、正義感も抱いていない。ただ目的があり、その邪魔さえしなければいい。




たまたま利害があっただけ。だと言うのに、しつこく付きまとう。


お前自体が利益を生み出せない癖に。


まぁ、このくだらない学校での生活も終わりを迎える。


もう少しの辛抱だ。




 学校の放課後、俺はすぐに帰ろうとする。わざわざ居残る必要もない。


学校の隅で、何やら口論が起きている。




「もう透さんをいじめるのは止めて」




芋だ。さっきの話を間に受けたらしい。




「なんだよまた戻りたいのか? 」




「それでもいいから止めて」




 呆れたものだ。対抗できるわけでもないのに庇おうしている。


大人しく安寧を噛み締めてれば、いいものを。


だが、好都合だ。登下校に邪魔は入らなさそうだ。


もういじめられた事実は控えている。




これ以上律儀に付き合ってやる必要はない。


久々にちゃんと帰れそうだ。本来なら、奴らのせいで汚された衣類を伯父元へ寄って、簡単に洗って、ドライヤー等で乾かしてから帰る。


若しくは、同じ服を何セットも伯父の事務所に用意してあるのでそれに着替える。




遅くなった時の言い訳を考えるのも苦労する。


洗剤もイエに合わせている。そのまま洗濯をすると、露骨に怪しいので、手洗いで洗剤が香らない程度でとどめる。


今日の服は対応していないので、まぁまぁ助かる。




汚れたまま帰ってくれば、オヤに無用な詮索をされる。


そうなれば、計画が狂う。奴らは云わば、農園だ。


一番熟した状態で狩り取らなければならない。


やられるからには、俺の為の時間稼ぎを頼んだぞ。


 その日放課後は何の問題もなく帰れた。








 そして待ちに待った当日。この日は授業参観だった。


収穫の時だ。まず、授業参観が始まったら、このクラスでいじめられている旨を伝える。


半信半疑、いや、無信全疑になるだろう。


だが、伯父が証拠の映像を見せる。疑いようのない事実を見せられることになる。




ここで裁判を起こすと伝える。加えて、伯父が弁護士であると伝えれば、いよいよ現実味が帯てくる。


無視出来ない。


今まで無視してきた事を考えれば無様過ぎて嗤うのをこらえられなくなりそうだ。








 これからのことを考えながら、学校へ登校した。


クラスに芋だけいなかった。昨日の出来事が原因だろう。


どうでもいい。


授業参観の時間迄退屈な予定調和だ。




 授業参観が始まった所で、俺は伯父がいるか確認する。


当たり前だが、いることを確認した。家族関係とはいえ、リョウシンとは別に参加することにオヤは怪訝な目で見ていた。




しかしそこは、伯父と一緒でないと、神妙な面持ちで、訴えたら、珍しく参加を許した事で、無理やり丸く治めた。


そんなことが無くても、伯父が参加するのは決定事項だが。




 授業参観を始めるのを他所に、俺は教壇の前に立った。先生が何やら言っていたが、気にせず、本題に入る。




「僕はこのクラスでいじめを受けています」




急な出来事に教室はどよめく。続いて伯父が俺の元へ立ち寄る。




「透の伯父です。そして弁護士です。今からその一部始終を見てもらいます。」




そうして伯父は予めセットノートPCの動画を再生して見せる。


そこには、加害者たちの映像が映し出されている。


各保護者、生徒らは当然のように驚いていた。


俺はずっと目を見開いた。奴らからは恨んでいる形相に見えたに違いない。


目を見開いているのは涙を流すためだ。悲しくもないのに、無理やり泣くのは癪だが、これもリアリティーを出す為だ。


仕方ない。


俺は涙ぐみんでそれをすすりながら、教室へ出る。


ああ、キモチワリイキモチワリイ。




「ご覧の通り透は傷ついています。一週間程休ませてもらいます。これから説明と裁判のことについてかいた書類を保護者の方々へお渡しします。ここではなんですから、PTA室お借りします。それと担任の先生。生徒の保護者の全員の住所が必要なので、貴方にも来てもらいます」




「し、しかしこう言うのは校長の許可が、私だけの一存では決めかねません」




「証拠の映像見せましたが、まだ御理解出来ませんか? 裁判で学校側が協力的でなかったと、証言してもいいんですよ? 」




「は、はい。皆さん今は自習にします。放課後にも話があります」




教室の外で聞いていたが、笑わないようにするのが、大変だ。


いけないいけない俺は可哀想な奴可哀想な奴。


伯父出て来て「談話室で待機」と伝えられた。


教室からぞろぞろと伯父と担任と保護者たちがPTA室へ向かっていった。


年上である彼等を見て、優越感を感じるのは小学生としてどうかと思うが、間抜けに感じずにいられないのだから仕方がない。








 大人達を見送ってから談話室へ向かった。


普段行かない所へ行くワクワク感という申し訳程度の小学生要素を見せながら、(誰もいないが)談話室へと到着した。


ドアへ入ると、教頭だったか? 一人の先生が出迎えていた。




そこでいろいろと事情聴取が行われた。退屈な時間だったので、曖昧にしか覚えていない。


 終わると、直ぐに親の車で帰った。本当は一人で帰りたかったが、そういうわけにはいかないので乗った。








 家でに着くと、オヤは労ってるのか?病人を扱うような対応だった。仮病を使っている罪悪感は有ったが、ただ悪いことをしている訳ではない。結果的にこの学校のいじめを根絶したのだから、寧ろお釣の方が遥かに多い。そして、金の話が解決すればいつものノイズがなくなる。晴れやかな日常になる。




























 ……なるはずだった……。なると思っていた。




 裁判の結果、いじめの関係者及び学校関係者に500万円の慰謝料の請求が認められた。


2割が伯父への報酬なので、手元は400万円。


自分の元へは親が預けられないというので、不本意ではあるが、伯父へ100万円預け、残りはオヤが管理で了承した。




いじめられていた学校から通うのでも、いいと言ったが、親には激しく反対されたので、それ以上強くは言えなかった。


必要経費であるので仕方なく、引っ越しを受け入れた。




当時の俺は小学生にして、大金を得たせいもあり、多少歯止めが効かなくなっていた。


何せ、今まで手に入らなかったものが、求めれば、手に入るのだから。


散財をして、預けていた額も半分程になっていた。




引っ越してから半年経った頃、俺を他所に、親同士で、何やらひそひそ話をしていた。


耳をすまして聞いてみると。




「今月はどうするの? 」「まだあっちの金はあるだろ」「! ? 」




何の話をしているんだ? あの二人は。


戦慄した俺は、伯父の事務所へ立ち寄る事にした。


引っ越しの際、伯父も近場に引っ越してくれる事になっていた。


わざわざ電車を使わずに済む。急いで、伯父の元へ行くと、パソコンを借りると言ってすぐに不動産の物件を調べあげた。




そうして、新居と旧居の家賃を照らし合わせた。新居は旧居の倍の家賃だった。それに気づいて俺は。




「伯父さん。母さんの預金通帳調べられる? 」




「いきなりどうしたんだ? やましいことでもあったのか? 」




「俺の慰謝料が使われている可能性が高い」




「なるほどね」




「できる? 」




「法的には難しいけど、物理的なら、まぁ出来なくもない」




「どうやって? 」




「簡単さ、お母さんの足止めしている間に確認すればいいのさ」




「あぁそうか」




「そうしてたら、明日16:00に実行するか。丁度兄も平日で仕事だろう。お題はサービスしてやる」




「……助かる」




そうして、伯父の協力の元、母の預金通帳を調べる事となった。伯父とハハが電話をしている間に預金通帳の中身を見た。




「……! ! 」






9月20日 アズカリ 3000000 ザンダカ3000000


9月21日 ヒキダシ 500000 ザンダカ2500000


9月31日 ヒキダシ 50000 ザンダカ2450000


9月31日 キュウヨ 200000 ザンダカ2650000


10月3日 ヒキダシ 50000 ザンダカ2600000


10月7日 ヒキダシ 50000 ザンダカ2550000


10月15日 ヒキダシ 50000 ザンダカ2500000


10月18日 ヒキダシ 50000 ザンダカ2450000


10月22日 ヒキダシ 100000 ザンダカ2350000


10月25日 ヒキダシ 100000 ザンダカ2250000


:


:


:


1月13日ザンダカ1850018




 思っていたよりも、深刻なようだった。アイツら俺の金をなんだと思っているんだ。


借金の50万円はいい。だが、それ以上むしり取られる義理はない。


これを証拠に決別をするか? 嫌、金ならノウハウを生かせば、手に入れられる。




奴らを地獄に落とすには、まだ準備が足りない。


それに中途半端は曖昧な関係が強制されることになる。


徹底的に縁を切るには住民票ロックが必要だ。それだって暴行などを受けていた証拠が必要だ。




「大きなお年玉とられました」だけじゃ、適用されない。


せいぜい現状注意になるだけだ。何の意味もない。


言い逃れの出来ない証拠が必要だ。こんな足枷にわざわざ手間をかけないといけない俺はついていない。


だからこの仕打ちは奴らの陥れるだめ押しに使おう。


負の埋蔵金として閉まっておく。








 ……いつ思い出しても、嫌な思い出だ。


だが、おかげで立ち直れる。伯父への落とし前もきっちりとしておかないと。金元の証拠はほとんど消去されたが、まだあてはある。学校の適正者を利用するとしよう。






大人しく、思い通りになる気はない。

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