Dメロ

「…なあ、ジョナサン」


 ふと昼休み、白夜君に声をかけられた。学校で彼が言葉を発するだけでも珍しいのに、4日前に実質振ったような異性に話しかけて来るなんて、思ってもみなかった。


「どうしたの?」


 私は周りの目を気にしつつ、返事をする。明日香を含め、クラスの半分以上が、この不思議な状況を見守っていた。それもそのはず、彼は授業中、先生に当てられたとき以外は一言も発することがない。そんな彼が自分から人に喋りかけたこの状況に皆、興味津々だった。


「保健室の先生がお前を呼んでた。ちょっと来てくれ」

「う、うん。分かった」


 まさかの事務連絡。少しだけ期待してたのに…。周りも思い出したかのように先程までの各々の昼食に意識を戻した。





「ちょっと、白夜君。そっちは保健室じゃないよ…」

「いいから」


 連れてこられたのは中庭。いつも誰も来ないような場所だ。


「なあ、ジョナサン。明日は暇か?」

「う、うん…。今週の土日は特に用事はないけど…」

「じゃあ明日、二人で何処か行かないか?」

「え…」


 友達として、って事?


「やっぱり、もし付き合うなら、ジョナサンの事をよく知りたいと思ったんだ。行きたい場所とかあるか?」


 …白夜君は…私の事を振ったわけじゃなかったの?…良かった…。


 …あれ?何故か涙が出てくる…。


「……ぐすっ…ぐすっ…」

「な、泣くなよ…す、すまん…そんなに嫌なら全然行かなくても…」

「…ううん。嫌…ぐすっ…じゃないの…。私…ぐすっ…振られ…ちゃった…と…ぐすっ…思って…」

「そうか…それは悪かった…。で、何処か行きたいところはあるか?」

「…白夜君が…行きたいところが…ぐすっ…いい」

「分かった。…じゃあ水族館とかはどうだ?」

「…うん。行きたい」

「じゃあ明日、いつもの駅に九時に来てくれ」

「…うん!」


 …あれ?気が動転してて気が付かなかったけど…これって、デートなのでは?…どうしよう…。デートなんて初めてだよ…。何着ていけばいいか分からない…。ドキドキしてきた…。今晩眠れるかな…。














 …ううっ…結局ほとんど眠れなかった…。緊張しちゃって目が冴えちゃった…。くまとか出来てないかな…。


 持っている中で一番可愛いと思う服を着て、いつもより念入りに髪を整え、嫌われない程度のナチュラルメイクを心がけた。


「よし、完璧!」


 自分の中の最大限の「可愛い」を白夜君に見てもらいたいの。


 時刻は八時。目標までは一時間ある。今出れば三十分前には着く。早めが大事だし、もう出ようかな。


「行ってきま〜す!」


 せっかくの初デートなんだから、最大限に楽しんでこよう。


 徐々に近付いてくる、夏の暑さすらもが、何故か楽しく感じてきた。意気揚々と電車に乗り込み、待ち合わせ場所に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る