第34話 魂の帰還
わたくし……夢を見ておりましたの。
愛するフレデリック王子から、婚約破棄を告げられた瞬間、
わたくしの魂は世界から弾き飛ばされたのでしょうね。
きっとそうに違いありませんわ。
気が付くと、眩しい光の世界。
そこには白い方々がたくさんいらっしゃいました。
「患者は自宅で倒れているところを発見されました。意識レベルはJCS100で、自力で立つことができません」
「バイタルサインは?」
「血圧……」
そしてわたくしの周りを聞いたことのない言葉が飛び交っていましたわ。
「患者は重度の栄養失調による脱水症状と低血糖症を起こしています」
「輸液と血糖値の測定を準備します」
白い方々が話されている言葉は、わたくしにはわかりませんでした。
しかし、みなさまがわたくしを助けるために必死に働いておられることは分かっておりましたわ。
わたくしは、そのことに感謝の気持ちを抱いておりました。
しかし、フレデリック王子とその傍らに寄り添うリリアナのことを思い出すと、
わたくしの胸は苦しみでいっぱいになりましたわ。
そうなってくると、白い方々の呼びかける声に応える力もなくなり、
わたくしの心は深い闇の中へと落ちていきましたの。
夢の中では、
わたくしは、婚約破棄を宣告されたカールスタット城から抜け出して、
フレデリックから自由になり、王国から自由になり、
好き勝手に振る舞っておりましたわ。
聖樹教会のレイアとチャールズという友人を得て、
女神や魔王国の姫まで仲間に引き入れて、
ついには王に化けていた悪魔を退治しましたのよ。
痛快でしたわね!
どうせなら、この夢の中でずっと生きていきたいですの。
レイアが女王になれば、きっとこの国は今よりずっとよくなるはずですわ。
色々と問題も起きるでしょうけど、きっとチャールズが傍らで彼女を支えるはずですわ。
「アレク……」
聖樹に連なる神話武器エルフィンリュートを手にしたレイアを、
王の剣たる聖剣ハリアグリムを有するわたくしが支えるのですわ。
他の神話武器も、いずれわたくしたちの下へと集ってくることでしょう。
「アレクサ……」
半神たるシュモネーが仲間にいるのですから、殲滅姫ローラの率いる魔王国との和平交渉も叶わぬ夢ではありませんね。
「アレクサーヌ・サンチレイナ!」
「はいっ!?」
青空が見える玉座の間には、王の災厄を生き残った旧王の臣下や騎士たちと、聖樹教会の大司祭や導士たちが集まっておりました。
わたくしは、目の前に立っているレイアに向って、一礼しましたわ。
そういえば……。
今はこのゴーラ国が、新たな女王を迎えゴーラ聖宗国として生まれ変わる瞬間。
レイア女王の戴冠式の最中でしたわね。
「アレクサーヌ・サンチレイナは、我が聖剣ハリアグリムを、聖樹の守護者たるゴーラのレイア女王に捧げます」
そう言って、わたくしは聖剣ハリアグリムをレイアに差し出しましたわ。
レイア女王は聖剣ハリアグリムを受け取ると、その刃をわたしの両肩に当てましたの。
「我は汝に、聖剣を授ける。このハリアグリムは、聖弓エルフィンリュートと共に王国の象徴であり、正義の象徴である。この剣を携え、常に民を守り、王国の平和を守護せよ」
わたくしは、レイア女王から聖剣を受け取り、それを高く掲げました。
その瞬間、王城にいる人々から万雷の拍手が沸き起こりましたわ。
この瞬間、婚約破棄で受けた心の傷は、わたくしからすっかりと消えてしまいましたわ。
そしてわたくしは、レイア女王より公爵の位を授かり、
王の剣として彼女を護り、支えることとなりましたの。
~ 夢の目覚め ~
帝都西中央病院。
家で倒れていたところを、近所の人に発見されて病院に運ばれた私は、病室で目を覚ました。
発見後一週間、ずっと意識を失っていたらしい。一昨日、意識を取り戻して、その後色々と検査をして問題がなかったので、明日には退院できるとのこと。
同じ病室のお隣さんが騒がしくて、今日はそれで目が覚めた。
「本当なのですん! 局長! 信じて欲しいのですん! 異世界で魔王を倒していたのですん!」
「そんな言い訳が通るわけないでしょ! あんたいい加減にしなさいよ!」
「まぁまぁ、真九郎様にもきっと事情があるはずですよ」
お隣さんのお見舞いに来ていたのは、ツインテールのカワイイ女の子と銀髪の綺麗な女性。
ベッドに横になっているのは、黒い髪の女の子だ。
三人のやりとりを、ぼんやりと眺めていた私は、その中の銀髪の女性に強烈なデジャヴを感じた。
「シュ、シュモネー!?」
私は思わず声を上げてしまった。
三人が一斉に私の方を見る。
「騒がしくしてしまって、すみません」
そう言ってツインテールの少女が、私に向って頭を下げて謝る。
「あっ、いえ、大丈夫ですよ。全然、気になりませんから、お気遣いなく」
私の返事を聞いて、三人はホッと安心したような表情を見せた。
銀髪の女性が、私のベッドに近づいてきた。
「私のことを、シュモネーと呼んでおられましたが。どこかでお会いしたことが?」
「い、いえ……私の勘違いというか、寝ぼけてたというか……」
そう言って曖昧に笑って誤魔化したけれど、銀髪の女性は本当にシュモネーとそっくりだった。というかシュモネーじゃないの?
そんな風に混乱しつつ、気付くと私はまた銀髪の女性をジッと見つめていた。
「えっとハチ、お菓子があったわよね。あれ出して」
ツインテールの少女が銀髪の女性にそう言うと、彼女は紙袋からお菓子の箱を取り出した。
「えっと、ご迷惑かけちゃったお詫びということで、一緒に食べませんか? 行燈亭のドラ焼き、すごくおいしいですよ」
そう言ってハチと呼ばれた銀髪の女性が、私にお菓子を差し出してきた。
「あ、ありがとうございます。いただきます」
私はお菓子を受け取り、一口食べた。
お、美味しい!
「お茶もどうぞ」
そう言って銀髪の女性ハチが、お茶を差し出してくれた。
それにしても、見た目も声も、シュモネーそのものだ。
それから、私は三人とのおしゃべりを楽しんだ。
三人は同じ職場の人たちで、ツインテールの少女が二人の上司ということだった。
最近、業務が忙しくなってきたので、新しい人材を募集しているという話が出た。
私が求職中であることがわかると、その場でいきなり面接が始まり……
そして病院ベッドの上で、私の就職先が決まった。
「うちの職場は元旅館で、部屋を寮替わりにしてるの。いつだって入れるわよ」
そして新しい住居も決まった。
なんだか長い夢を見ていたような気がするけど、
ゲームの世界から目が覚めてみれば、
また新しい人生が始まった。
夢の世界では、レイア女王の騎士として、王国を守り、支えることになっていたけれど。
やっぱり、私には普通の暮らしがいい。
他のゲームも積み残してるしね!
私は、新しい人生を楽しむことにしよう。
新しい職場の初出勤日。
元旅館の暖簾をくぐると、三人が笑顔で迎えてくれた。
私は、思い切り頭を下げて、大きな声で挨拶する。
「きょ、今日からこちらで、おちぇあ、お世話になります!」
勢いつけ過ぎて、私は思わず噛んでしまった。
顔が真っ赤になった私に、銀髪のハチさんが笑ってフォローを入れてくれる。
「おぉ、アレクサーヌよ、噛んでしまうとは情けない」
ハチさんの言葉を聞いて、他の二人がクスクスと笑っていた。
あちゃー!
やらかしてしまった!
恥ずかしい!
……って?
えっ?
アレクサーヌ?
今、アレクサーヌって言った?
そう思って私がハチさんに視線を向けると、
銀髪のハチさんはサッと目を逸らした。
~ おしまい ~
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死んで覚える悪役令嬢の生存戦略 帝国妖異対策局 @teikokuyouitaisakukyoku
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