王都異変

第28話 王都の異変

 殲滅姫ローラを乗せて馬を駆っているわたくしの後ろには、数えきれないほどの魔族が浮かんでおりましたの。


「これだけの魔族……いったいどこから……」


 わたくしが驚いている様子を見て、殲滅姫ローラはニヤリと笑いました。


「私を守るための近衛兵たちだ。ずっと隠れておったのじゃな」


 そう言ってローラは、空に浮かぶ魔族たちに手を振りながら叫びました。


「主ら! なるべく殺すでないぞ!」

「「「御意!」」」


 ローラの命令に従って、魔族たちが一斉に討伐軍に向っていきました。


「ほれ急げ! 妾が遅れをとるわけにはいかん!」


 そう言ってローラが馬の首をなでると、馬は一気に加速しましたの。


 討伐軍は、今や目の前に迫っております。


 リリアナとフレデリックがわたくしに気が付いて、大声で何か喚いておりますの。


 一直線に向ってくる二人に気が付いたローラが馬の上に立ち上がりました。


 その背中には巨大な飛翼が現れておりますの。


「アレクサ! 聖剣を返して!」


「アレクサーヌ! 魔族に身を売った魔女め!」


 リリアナとフレデリックが目と鼻の先にまで迫っておりました。


「では妾が道を開けてやる! お主はそのまま王都まで駆けるが良い!」


 そう言ってローラが飛び立った次の瞬間。

 

 ビュッ!


 リリアナとフレデリックの首が落されました。


 確かにローラの手には魔刀血呑みが握られておりましたが、わたくしにはそれを振るった瞬間がまったく分かりませんでしたわ。


 というか! ローラが二人を殺してしまいましたわ!


「「「フレデリック様が討たれた!」」」


 二人の周囲を守っていた騎兵たちが動揺していますの。


「アレクサ! 後に続け!」


 余りの出来事に呆然としていたわたくしですが、ローラの声にようやく我に返りましたの。


 ローラは魔刀を振るいながら、討伐軍の正面を切り開いていきます。


 わたくしは、ただただその背中を追っていきました。


 途中、討伐軍の兵士がわたくしに気が付いて、わたくしに向ってきましたが、それらは全て魔族によって排除されていきました。


 わたくしが殲滅姫ローラと魔族に守られているところを、これだけ大勢の人間に見られてしまいましたわね。


 もう言い訳のしようがありませんわ。


 いえ、もしかして討伐軍を全滅させればワンチャンありかも……。


 なーんてことは考えておりませんわよ。オホホホホ。


 真面目な話、こうなってしまっては、なんとしてもローラに聖樹の誓いの儀式を受けさせて、人間と魔族の共存を目指すしかありません。


 などと考えているうちに、いつの間にか、わたくしは討伐軍の間を抜けておりました。


 ローラが立ち止まりましたわ。


「妾はこやつらを始末した後、お前の家に戻る。まだ令嬢教育の途中だからな」


「な、なるべく殺さない方向でお願いしますわよ。ここまで送ってくれたこと心から感謝しますわ。高貴なる魔族の姫殿下、わたくしが王都から戻った際には、ぜひわたくしたち人と魔族の友好にお力添えをお願い致しますわ」


 わたくしは一度馬から降り、改めてローラにカーテシーにて御礼を述べました。


「そ、それが令嬢の作法なんだな! 妾もお主とは仲良くしたいと思っている! 必ず無事で戻れよ!」


 ローラは、空中でわたくしのカーテシーをマネた後、背を向けて討伐軍へ向っていきました。


「わたくしも、貴方とは心から仲良くしたくてよ!」


 そんな独り言をつぶやいた後、再びわたくしは馬を駆って王都へ向かいました。




~ 王都炎上 ~


 王都を見下ろす丘に到着したわたくしは、眼下に広がる光景に驚きました。


 王都の上には、言葉通り暗雲が立ち込めておりますの。都の奥にある王城の上には、黒雲から何度も雷が落ちております。


 怪しい妖気のようなものが王都全体を包んでいるようでした。


「こ、これは一体……どういうことですの?」

 

 わたくしは急ぎ、王都に馬を走らせました。


 王都に何か一大事が起こっているのは間違いありません。


 なればこそ一刻も早く、聖樹教会でレイアとチャールズに会わなければなりません。


 急ぎ二人を確保しなければ!


 王都の門に到着したわたくしは、誰にも誰何されることない中へ入ることができました。


 門がまともに機能しないほど、王都の中は大混乱に陥っておりました。


 道を行く人々は、何かに怯えているようで、誰もが急いで家に帰ろうとしているようでした。建物に入った人たちは、固く扉を閉じております。


 兵士や衛士たちの部隊が、街中を走っていくのを何度も見かけました。


 聖樹教会へ馬を進める間、あちこちから悲鳴や怒号、争いの音が聞こえてまいります。


「何が起こっていますの……」


 ふと、わたくしは、王都にいるときに支援していた孤児院が近くにあることを思い出しました。彼らの状況が心配になったわたくしは、少しだけ寄り道をすることにしましたの。

 

 そして孤児院の前に到着したわたくしは、王都が混乱している原因を見たのですわ。


 ギュルルルルルッ!


 銀色に光るイカのような化け物が、孤児院の前で人を襲っておりました。

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