第25話 秘密の訓練場『グレイベアの穴』
「「「メイドの修行は、命懸け~♪」」」
ローラのメイド修行が始まってから一週間。
「「「愛しいアイツも、逃げてった~♪」」」
早朝のランニングは、この奇妙な歌を歌いながら行なわれておりますの。
「「「領主のぼっちゃん、見つめてる~♪」」」
サンチレイナ家を出て10キロ先にある森の中にある、エマの秘密の訓練場『グレイベアの穴』まで走らされるのですわ。
「「「女やもめに、花が咲く~♪」」」
しかも、各々が訓練中の武器を手に持って走るのですのよ!
「「「ソイッ!」」」
そして何より、わたくし、言いたいことがありますの。
「「「ソイッ!」」」
どうしてわたくしまで訓練に参加させられてますのぉぉお!?
「それでは、ローラ様は魔刀血呑み、アレクサーヌ様は聖剣ハリアグリムの素振り1000回から始めていただきます」
そういってエマは、大剣ベアイーターを鞘から抜いて、凄まじい速さで素振りを開始しましたわ。慌ててローラもその後に続きますわ。
聖剣の素振りって!
それも1000回って!
ゲーム「殲滅の吸血姫」をプレイしていたときは、素振りしてモーションの確認をしたことはありますけど……。
こんな筋肉を苛め抜くような素振りなんて、全くファンタジーじゃありませんわ!
「アレクサーヌ様! 手が止まっておりますよ! 一度、剣を握ったら余計なことを考えてはなりませぬ!」
エマの厳しい声に、わたくしは慌てて聖剣ハリアグリムの素振りに集中しました。
どうしてこんなことになったかと言えば……
何もかもシュモネーのせいですのよ!
あの半神、わたくしが聖剣ハリアグリムで戦ったという話をエマにしていましたの!
しかも、わたくしがリリアナとフレデリックの一隊と戦って……奮闘虚しく殺された時の話を、わたくしの死に戻りを上手く誤魔化して話してましたわ。
さらに、殲滅姫ローラと彼女の率いる魔族の一団と、破れかぶれになって戦って……奮闘虚しく殺された時の話まで、まるでその場で見ていたかのように話しますのよ。
……。
……。
んっ?
もしかして、本当に見ていたのではないかしら?
拠点で再生したわたくしの後を、こっそり付けて見ていたのでは?
だとしたら、忌々しいことこの上ないですわ!
『付けてませんよ。貴方の心を少し覗いただけです』
えっ!?
今、シュモネーの声が聞こえたような……。
「お嬢様! 集中!」
エマの厳しい声に、ハッとなったわたくしは、再び素振りに戻りました。
と、とにかくシュモネーの話を聞いたエマは、わたくしに王国式剣術を叩き込むのだと鼻息を荒くしてしまったのですわ。
というわけで、午前中はローラと一緒に訓練させられることになってしまったのですわ。
「集中!」
こうなったら、リリアナに聖剣を叩き込むつもりでやってやります!
「ソイッ! ソイッ! ソイッ! ソイッ! ソイッ! ソイッ! ソイッ!」
そうやって集中したら、あっという間に1000回の素振りが終わりましたの。
続いては、王国式剣術の基本型を繰り返す訓練ですわ。
「エデ! トゥバ! トゥリ!」
バッ! バッ! バッ!
エマの掛け声に合わせて、わたくしとローラは基本型の通り姿勢を変えていきます。
「エデ! トゥバ! トゥリ!」
バッ! バッ! バッ!
不思議な事に、わたくし、エマの厳しい特訓に愚痴は言いつつも、しっかりと付いて行っておりますの。
婚約が決まって家を出る前のわたくしでしたら、おそらく剣を握ることさえ怖がっていたに違いありません。
わたくしが訓練に参加したのは、まだ四日目ですけれど、毎回、自分でも実感できるくらいに成長していますわ。
きっと、初期に獲得した天与の「戦乙女」の影響に違いありません。ゲーム「殲滅の吸血姫」においてこの天与は、体力との伸び率に補正が掛かり、戦闘系スキルが数多く習得できるというものですわ。
そう言えば、最近確認しておりませんでしたが、現在のステータスはどうなってるのかしら。
「ステータス(ボソッ)」
称号:悪役令嬢剣士
体力:100/110
魔力:60/60
天与:戦乙女
特殊スキル:令嬢の涙Lv3 / 乙女の叫びLv4 / 炎の眼Lv3 / エンチャント(冷気) / エンチャント(炎) / 二連撃(剣・大鎌) / 草刈り(大鎌) / 兜割(剣) / 盾崩し(剣) / 足切り(大鎌) / 車斬り(剣・大鎌) / 剣盾
一般スキル:剣術Lv4 / 大鎌Lv3 / 格闘術 / 乗馬 / 野営 / 言いくるめ / 愛のキューピッド / 煽り / 善行
やはり戦闘系のスキルが増えていますわね。剣のスキルの中には、エマの特訓で身に付いたと思われるようなものがありますわ。
それにしても……
『愛のキューピッド』ってなんですのよ!!
あっ!? もしかして聖樹教会のあの二人……
レイアとチャールズのラブコメ波動が非常にウザかったので、さっさとくっつけようとしたから、こんなスキルが付いたのかしら。
ま、まぁ……いいですわ。
万が一、お姉さまが修行に明け暮れたせいで、行き遅れるようなことになれば、このスキルでお姉さまを幸せに導くことができるかもしれません。
あぁ、お姉さま、今どちらにいらっしゃいますの?
早く、お戻りになってくださいませ。
「集中!」
「は、はいですわ!」
またエマの厳しい声で気を取り直し、わたくしは再び訓練に集中しましたの。
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