第20話 シュモネー vs 殲滅姫

「お姉さまぁぁぁぁ!」


「ローラさん!? アレクサが言っていた殲滅姫って貴方のことだったの?」


「ずっとお探ししておりましたのよぉぉぉ!」


「と、とりあえず落ち着いて! ねっ! ねっ!」


 わたくしの目の前では、殲滅姫ことローラ・ノスフェラトゥがシュモネーにガバッとしがみ付いておりました。


 黒いゴスロリ衣装に身を包んだ殲滅姫はその両腕をシュモネーの首に回し、両足でシュモネーの胴体をガッチリとホールドしておりますの。スカートの下のドロワーズまで露わになって、はしたないことこの上ありませんわ。

 

 いまシュモネーの感情がどのようになっているのか、頭のアンテナである程度推測することができたはずですが、人目に付き過ぎるという理由でしまってもらってますの。


 こういう事態になることがわかっていましたら、そのまま頭に付けていただた方が良かったかもしれませんわね。


「ロ、ローラさん、とりあえず落ち着いて、お顔をよく見せてください」


 まぁ、アンテナがなくともシュモネーが慌てていることは一目瞭然いちもくりょうぜんではありますが。


「そうですわね、お姉さま。ローラもお姉さまの顔をしっかりと見たいです!」


 とりあえず殲滅姫はシュモネーに顔をグリグリするのを止めたようですが、相変わらず足はシュモネーをホールドしたままですの。彼女の「絶対に逃さない!」という強い意志が両足にみなぎっているのが見えるようですわ。


「それにしてもローラは全く変わっていませんね。最後に顔を見てから……どれくらいになるのかしら」


「三百年ですわ! お姉さまこそ、お変わりなくご壮健でなによりですぅ!」


 三百年……?


 シュモネーはヒエロニムス王との約束でずっと王墓を守っていたのではなかったかしら?


 そう思ったとき、ふとシュモネーとわたくしの視線が交差しました。その時、シュモネーの目の中に、


「アッ、ヤバイ、バレた!?」


 という動揺が走るのが見えました。どうやらこの守り手、千年間ずっと真面目に王墓に籠り切りだったということではなかったようですわね。


 わたくしのジト目を避けるように、シュモネーは殲滅姫との会話に戻りました。


 その様子をずっと見ていたわたくしは、ふと殲滅姫のステータスが見れるのではないかなんて思ってしまいましたの。


「ステータス(ボソッ)」


 すると目の前に殲滅姫のステータス画面が表示……


 ガガガガガガガッ!


 強い雑音が脳内に響き、同時にわたくしの視界が真っ黒に塗り潰されてしまいました。


「下賤なる蛆虫が我が魂に触れようとは、タルタロスの底に沈むがよいわ……」


 黒一色に染まった視界に、赤く邪悪な二つの瞳がわたくしを見つめているのが見えました。

 

 徐々に視界が回復していく中、その赤い瞳が殲滅姫のものであることを知ったわたくしは、彼女の怒りに触れ、その恐ろしい姿に……


 震えたいところだったのですが、シュモネーにしがみ付いて彼女の胴体に足を回しているお間抜けな姿のおかげで、恐れることができませんでした。


 とはいえ、彼女がこれまで何度もわたくしをキルしてきた、かなりヤバイ奴であることは十分自覚しておりますわ。警戒は怠りません。


「めっ! ローラさん、私言いましたよね。言葉が貴方を作る。だから、なるべくキレイな言葉を使いなさいって!」


「ごめんなさい、シュモネーお姉さま……」


「まったく! 誰なの!? ローラさんに汚い言葉を教えたの!」


「ぶ、部下の魔人たちが、威厳を出すために怖い言葉を覚えなさいって……」


 殲滅姫がシュンっとなって縮こまりました。


「その人に私がガツンと言ってあげます! だいたいローラさんはずっと貴族のご令嬢みたいになりたいって言ってたのに! その夢を歪めるなんて私許せません!」


「お姉さま……」


 ん? 殲滅姫が貴族の令嬢になりたがってるって、どういうことですの?


「あっ! そうでした! アレクサさんがいました!」


「ハイぃぃ? わたくしがどうしましたの!?」


 驚くわたくしを殲滅姫がキッと睨みつけてきましたわ。おそらく大好きなシュモネーお姉さまの関心がわたくしに向うのが気に食わないのですわね。


 そういう魔力とか武力とか関係ない純粋精神的な戦いでしたら、たとえ何百年生きて来た不死が相手であろうと、わたくし負ける気がしなくてよ。


「フフンッ」


 わたくしはスキル【超上から目線】(そんなものはありませんけれど)を使って、思いっきり殲滅姫を見下ろしながら、鼻で笑ってさしあげましたわ。


「ムゥ……」


 高慢にかけては誰にも負けないわたくしの見下しに、推し負けて殲滅姫が黙り込んでしまいました。勝ちましたわ!


 頬を膨らます殲滅姫に、シュモネーが宥めるように語り掛けました。


「ローラさん、こちらのアレクサさんは本物の貴族令嬢なんですよ。私、これからアレクサさんの家でお世話になるのですが、ローラさんも一緒にどうですか? アレクサさんから令嬢の振る舞いについて教わると良いと思うのです」


 はぁぁぁぁ!? このデミゴッデスはなにをおっしゃっているのです!?


 殲滅姫なんて家に招いてしまったら、うちの家族が吸血鬼一家にされてしまうではありませんの!


「いえいえ、そんなこと絶対にありません! ローラさんが私の友人に危害を加えるなんてありえないです。ねっ、ローラさん」


「う……うん……お姉さまの大事な人なら、わたしも大事にする」


 それなら良かった……じゃないですわ!


 シュモネー、いまわたくしの頭の中を読みましたの!?


「読んでないですよ?」


 読んでるじゃありませんのぉぉぉ!


 わたくし、シュモネーに出会ってから今までのことを思い返して、頭を抱えてしまいましたわ。


 がっくりとうなだれるわたくしの肩を、殲滅姫がポンポンと叩いて慰めてくださいましたの。


 殲滅姫……本当は優しい子なのかもしれませんわね。


 シュモネーが保障するというなら、彼女を受け入れても良いかもしれません。


 まぁ、これまで何度も殺されたことは絶対に忘れませんけど。

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