第13話 隠れ里の正体見たり

≪隠れ里 ~メリッサの屋敷~≫


 地下牢には数多くの犠牲者がいたのですわ。そのほとんどは無残な遺体でしたけれど、幾体かは動いておりました。


「なんという……単に拷問しただけでなく、死に戻りゾンビにしていたのですか」


 レイアが凄惨な光景に口元を抑えながら言いました。


「おそらく魔術の実験でもしていたのだろうな。これは教会に報告して徹底的に調査の手を入れねば。おそらく多くの行方不明者が見つかることになるはずだ」


死に戻りゾンビもいることですし、お二人には【魂返し】をお願い致しますわ」


 【魂返し】は遺体に閉じ込められて抜け出すことができなくなってしまった魂を解放する聖職者のスキルですわ。

 

「そうでしたね。何よりまず魂の救済が先でした」


「それでは屋敷内の死に戻りゾンビを探すことにしよう」


 レイアとチャールズが地下牢の遺体に祈りの句を唱えて死に戻りゾンビたちに【魂返し】を行っていく。


≪善行+5≫

≪善行+4≫

≪善行+5≫

≪善行+3≫

≪善行連続ボーナスが発生しました。善行×1.2≫

≪善行+5≫

……


 聖職者が二人も同行しているのでいつもより得られる善行値が割り増しされてますわ。わたくしたちは屋敷を回った後、さらに村を回って死に戻りゾンビに【魂返し】を施し、善行値をガッポガッポと稼ぎまくったのですわ。


 村人の7割近くが死に戻りゾンビで、畑で働いていた寡黙な村人はすべて死に戻りゾンビだったことをレイアとチャールズが知ったときは、二人の魂が聖樹の元へ帰ってしまいそうになるところでしたわ。


「いやぁぁぁぁぁぁ!」


 悲鳴が聞こえた場所に駆け寄ると、床でのたうち回る死に戻りゾンビを女性が必至で抑え込もうとしているところでした。急いでレイアが【魂返し】を行いましたわ。


「あなた……あなた……あなた……」


 動かなくなった遺体に女性は縋りついて泣き続けました。村の人間の中には、労働力としての死に戻りゾンビだけではなく、愛する者の死を受け入れることができずに共に暮らしていた者もいたりするのです。


「さすがにこれは報告をせざる得ないな」


 村長を縛り上げながらチャールズが言いましたわ。


「魔女と結託して多くの人々を殺害していただけでなく、死に戻りゾンビの禁忌まで犯していたとは。一族郎党に至るまでただでは済まないでしょうね」


 レイアの声には心胆を寒からしめる冷気が込められていて、わたくしでさえ怖かったほどですわ。ゲームではこの村のその後はテキストで語られていただけですが、村長とその一族、生き残った村人すべてが凄まじい拷問の末に処刑されてしまいますの。


 そのときに流された血から死霊を呼び出す【愚者の呼び声】が作られるのですわ。

ただこの呪具はゲームではその名前が登場するだけですけど。


 村長と生き残った村人を地下牢に閉じ込めて、チャールズは一旦教会へ報告に戻ることになりましたの。わたくしとレイアの方はチャールズが調査隊を引き連れて戻るまで数日を村で過ごすことになったのですわ。


「さぁ、後の始末は調査隊に任せて、わたくしたちは出発するといたしましょう」


 わたくしは大鎌【ブラッドサイス】を当然のように自分のものとして手に取って、二人に出発を促しました。この大鎌にはこれから向かう≪王家の谷≫で大活躍してもらいますの。


 命あるものを死霊と化し、死霊をタルタロスへ返すと言われる大鎌【ブラッドサイス】。ゲームでは、死霊系の魔物に対して追加ダメージが発生するというものでしたわ。神話武器ほど強力ではありませんが、終盤まで通じるそこそこの火力と取り回し易さから、わたくしも愛用していたのですわ。


 わたくしは試しに大鎌を振るってみました。一度メリッサに殺されて復活を挟みましたけれど、天与が【戦乙女】でしたので腕力は十分、またスキル【格闘術】のおかげで身体もよく動きますの。武器が腕の延長とは良く言ったものですわね。大鎌をブンブン振ると風切る音が聞こえてきましたわ。


「ククク……これさえあれば死霊なんて怖かねーですわ」


 思わずつぶやいてしまい二人をドン引きさせてしまいましたわ。実のところわたくし聖剣よりもブラッドサイスの方が好みなんですの。


 隠れ里オークランド出発する際、わたくしの視界に善行値取得のメッセージが浮かんできましたわ。


≪善行+300≫

≪善行×1.2≫


 これは魔女メリッサの討伐と里の死に戻りゾンビを全滅させた際に発生するボーナスですの。これこそ二人を連れてこの隠れ里を訪れた一番の理由なのですわ。


――――――

―――


≪王家の谷≫

 

 王国から正式に許可を得ることで≪王家の紋章≫を入手できますわ。それがあれば、この場所に出没する死霊の数や能力が格段に下がりますの。


 もちろん、わたくしたちは王国に黙って侵入しておりますので、次から次へと死霊が沸いて出てきますわ。


「アハハハ、掛かって来なさいですわー!」


 王家の谷から王墓宮殿までの道中、わたくしはまさにメイン火力として大鎌【ブラッドサイス】をブンブン振り回していきましたわ。


「まったく、仮にも侯爵家令嬢なのでしょう……なんて言っても無駄そうですね」


 レイアが【エリフィンリート】で光の矢を死霊に放ちながら言いましたの。この場所は森から離れた荒野なので、光の矢を射るには魔力を消費しているはずですの。魔力を節約しようとしているためか、矢はいつもより細くて短いような気がしますわ。


「元気があっていいんじゃないかな!」


 そう言いながらチャールズは短槍で死に戻りゾンビを貫きましたわ。


「アハハハー!」


 大鎌【ブラッドサイス】で死霊を倒すと、僅かではあるけれど善行値が入りますの。ほんと楽しいですわ!


 こんなノリで死霊を追いかけまわしていたら、わたくしたちはいつの間にか王墓宮殿の前に到着していましたの。

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