第9話 神話武器をゲット(横取り)

 聖樹教会に戻ると、わたくしの婚約破棄騒動の話はすでに伝わっていましたわ。しかし教会においてはエルフィンリュートを持ち帰ったという話題が圧倒的で、貢献者であるわたくしは聖樹教会の庇護を受けることが叶いましたの。

 

 断罪イベントでの騒ぎによって、王国内でも婚約破棄の正当性に疑義が生じていることや聖樹教会からの庇護のおかげで、王都内におけるわたくしの行動の自由は保障されました。サンチレイナ家への御沙汰も今のところ無さそうですわ。


 神話武器を得た聖樹教会はこれから王国内での勢力を強めていくことになる一方、未だ聖女を得られていない王国はどうやら焦りを感じ始めているようですわね。


「ザマァですわ」


 そういえばゲームの一周目ではメインヒロインのリリアナでプレイして、フレデリック王子を攻略してしまいましたわね。


 その時、ゲーム内のアレクサーヌは本当に意地の悪い性格のねじれた高慢な悪役令嬢としか思えず、断罪イベントではたいそうスッキリとした気分を味わったものです。


 でも今はまったくの逆。


 何度もゲームを周回をしてきた今ならわかりますわ。一周目から……最初からリリアナもフレデリックもああいう輩だったのだと。ほんと人間なんて前世だろうと異世界だろうと、薄っぺらい上っ面だけ見てチョロっと騙されてしまうものですわね。自省を込めてそう思いますわ。


「でもせっかくですし、悪役令嬢らしいこともしてみようかしら」


「悪役令嬢? 何のはなしですか?」


 隣で一緒に歩いているレイナがわたくしの独り言に反応しました。


 実は神話武器についてわたくしが多くの知識を持っているらしいとの報告を受けた聖樹教会が、わたくしから情報を聞き出すために、護衛の名目でレイアとチャールズを付けるようにしてくれたのですわ。


「うふふ。今はまだ内緒ですわ」


 そう言って、わたくしは目の前で転んでしまった老婆を助け起こします。


「それでこれからどちらへ向かうのですか?」


「学生寮から荷物を引き上げようと思いますの。まぁ手続きは済んでいるので、後は確認だけなのですけれど」


 そう言いながら、わたくしは物乞いに銀貨を渡しました。


「一応言っておきますが、教会の部屋に家具を持ち込むことはできませんよ。着替えと手荷物程度にしておいてください」


「承知しておりますわ。ほとんどは実家に送る予定ですの」


 そう言いつつ、わたくしは道に迷っているらしい旅人に声をかけ正しい順路を教えて差し上げました。


「あの……アレクサ?」


 突然、目の前を枕で前を隠しただけの裸の男性が走り抜けていきました。


「なんですかレイア?」


「先ほどから、いろいろと親切を発揮されているようだが……」


「まさに聖樹の御心に沿うところでございましょう」


 そう答えつつ、目の前に「この浮気者ぉぉ!」と叫びながら石の麺棒を持って走っている女性に向かって、裸の男性が逃げた方向を指さしました。


「まぁ、確かにその通りではあるのだけれど……」


 わたくしたちは学生寮に着くまでこんな調子で歩いておりました。


――――――

―――


 学園に到着してから学生寮に入る間、わたくしは生徒や教師から好奇の目を向けられることとなりました。まぁ王子の婚約破棄なんて話題は、この学園が続く限り語り草となることは間違いないでしょう。


「みんなアレクサに興味津々のようですね」


「悪役令嬢が婚約破棄されたなんて刺激的なスキャンダルですもの。当然ですわ」


「いや……それだけではないだろう。その恰好とか」


「はい?」


 そういえばずっと男装のままでした。この方が動きやすいですし、ベルトに剣やナイフを差しておくこともできます。それになんと言ってもカッコイイのですわ。女生徒たちから時折聞こえてくる黄色い声は、もしかするとこの格好のせいでしたか。


「アレクサーヌ様!」

 

 赤毛の女生徒がわたくしたちのところへ駆け寄ってきました。彼女はミーシャ。この学園におけるわたくしの数少ない大事な友人ですわ。


 わたくしとレイアはミーシャを伴って学園のカフェでお茶を楽しむことになりました。周りのテーブルを好奇心旺盛な生徒たちに囲まれながらも、わたくしはミーシャと楽しく語らいあうことができましたわ。


 ミーシャとの会話で、わたくしが学園で知りたかった重要なお話を伺うことができました。


 断罪イベント以降、リリアナはわたくしによるイジメを証明する必要に迫られているようです。そんな後追い調査を想定していなかったためか、ボロが出てくるようになり、彼女に対して疑念を持つ者も出てくるようになったとか。


 そうした流れを一転させようと、リリアナと金魚のフンたちは神話武器を入手して聖女であることを証明しようとしているとのことでした。確かにリリアナが聖女になれば、断罪イベントでの疑義など吹き飛んでしまうでしょう。


「うふふ」 


 思わずわたくしは笑ってしまいました。


「いきなりどうしたのだ?」


 レイアが『こいつ大丈夫か?』という視線を向けてきますが、もちろんわたくしは大丈夫です。リリアナが神話武器を入手するためには、まだ多くのイベントをクリアしなければならないことをわたくしは知っているからですわ。


 そして、リリアナの神話武器がどこにあって、どうすれば入手できるのか……


「わたしはそのすべてを知っているのですわ!」


「ほんとに大丈夫なのですか!?」


 レイアが完全に引いていました。


「もちろんですわ! さぁレイナ。次の神話武器を手に入れましょう!」


 リリアナに神話武器なんてもったいないですもの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る