第7話孤児院⑥

「お兄ちゃん」

 たけるが俺の方へ突進してきたので、かがんでしっかりと受け止めた。

 俺の行動を見てか、たけるの新しく親になると思われる母親と父親が車からでてきた。

「『ヒマワリ』の方ですか?」

 四十代位のおじさんが喋ってきたがその物腰は柔らかく子供に好かれそうな人だ。

「はい」

「その子あなたに懐いていますね?」

「はい」

「でも今度からは私達2人でこの子の面倒をみます」

「···それは」

 それは嫌だ。

 たけるは俺の……俺の所を唯一嫌わなかった人だから。

 たった一日……いや、たった数時間だけ一緒に過ごしただけだけど。

 だけどもう俺にとってはかけがえのない人なんだよ。

「痛いよお兄ちゃん」

 たけるを抱きしめる力が自然と強くなっていた。

「さぁその子を」

 といい男の人は手を差し伸ばしてきたが、決意めいた目でおじさんの顔を見た。

「1つだけ約束してもらっていいですか?」

「…なにかな?」

「…この子を……この子を誰よりも幸せにやって下さい」

 自然と頭を下げ、たけるを渡した。

「約束するよ」

 たけるを乗せ車はどこかへ走りだしたと同時に、違う車が俺の所にやってきた。

 俺はたけるを乗せた車が見えなくなるまでまっすぐ見ていた。

 ふと気付くと俺の横にはみくが立っていた。

「…行っちゃったんだね…」

「……」

「短い時間でしたけどたけるをありがとうございました」

 みくから深々と頭を下げられたが、みくの姿がうっすらとしかうつらなかった。

 自分でも気付かなかったが俺の目には大粒の涙が零れていたのだ。


 孤児院施設『ヒマワリ』に戻ると『積み木をしてる子』『絵を描いている子』と各々楽しんでいる子供達はたくさんいるが、たけるの姿だけがそこにはなかった。

 いるはずはないとわかっていても少しだけ期待してしまう自分がいた。

 さっきまでの事が夢ならと。

「たけるは幸せ者ね。こんなにも思ってくれた人がいたんだもの」

 俺が悲哀に満ちているのかを気を遣ってが、みくが優しく話しかけてくれた。子供をあやすみたいに。

「お前は寂しくないのかよ!?」

 俺はそんな優しい言葉を踏みにじるように強く応えてしまっていた。

「寂しいけど、この子達の将来を考えたらここにいることじゃなくて、親になってくれる人の所に行く事がこの子達の幸せだから」

 孤児院とはそういう所なのは知ってる。だけど納得出来なかった。

 納得出来なかったけどするしかなかった。

「そうだね」

 今日という日を忘れずに俺とみくは何も喋らずに眠りについた。


「おはよう」

 昨日と違って寝床が玄関からみんながいる寝室に返り咲く事ができたので、まだ眠っているみくにあいさつをしたら起きたのか目を細くして俺の顔を見てきた。

「お…おはよう」

 まだ夢の中なのか、現実なのか分からない表情で挨拶を返してきた。


 いつも通りみくの美味しい料理を堪能して俺達は各々学校に向かった。


 教室に入ると昨日と違い少し皆の雰囲気がギスギスしてる様に感じた。後ろを振り返るとその空気中を感じたのが怪訝そうな顔をしていた。

 だが俺にはその事についてみくに相談しないで、自分の席に突っ伏した。

 多分昨日の寂しい別れが響いているかどうかは分からないが多分疲れているんだろう。

 そのまま俺は目をつむると眠りに落ちつ。


「いい加減にして!!!」

 座った直後眠りに落ちていたが怒鳴り声とともに目が一瞬で覚醒した。

「あなたの事が嫌いなの!」

 声の発端の方に目を向けると男女が揉めていた。痴話喧嘩か何かか。

「いい人だと思っていたのに全然ね」

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