第22話 冒険者ってなに?

 「それではまずは、冒険者とは、というところからお話ししますね」


 「はい」


 恥ずかしい話だが、冒険者という名前に惹かれて来ただけの俺は、その仕事内容を全く知らない。普通仕事内容知らないで働きにくる人とかいないよなぁ。


 「冒険者というのは、500年ほど前からできたお仕事です。昔は危険だし、扱いもそこらへんのチンピラと変わらず、地位も低かったようですが、時間をかけ、今では冒険者でも貴族の地位をもらえるまでに至りました」


 歴史か。500年もの時間をかけて成長して来たのか。来たばかりで、あまり思い入れもないのに、感動してしまうな。


 「発足した当初は、傭兵のように、戦争に駆り出されるということもあったようですが、今はありませんのでご安心を。基本的な仕事内容は多岐に渡るので一概にはいえませんが、この街ならやはり魔獣討伐の依頼が主な仕事になると思います」


 「魔獣討伐、ですか」


 「ええ。この街は、ザナヴァの森に近いですからね。ザナヴァの森は魔獣が豊富に存在しますし、薬草なども多く生息していますので」


 「なるほど」


 まあ、冒険者と聞いて想像していたのと大体同じような内容だな。街の雑用から、魔獣の討伐までやる、何でも屋。地位が低い場合もあったりするが、この世界ではこんなに立派な建物を建てられるくらいには凄いらしい。


 「次は、ランク制度のお話ですね。冒険者は、こなせる依頼の難易度によって、それぞれのランクに分類されます。基本的に、下はGから、上はAまでです。ランクが上がれば受けられる依頼も増えますし、依頼毎の単価も上がります。夢がないのであれば、ランクを上げていくというのが、わかりやすい目標になりますね」


 「ふむふむ」


 やはりあるのか、ランク制度。まあ、この世界は個人個人の力量があまりにも違いすぎるからな。頭の出来はともかく、武力では。だからこそ、明確に分ける必要があるのだろう。


 まあ、そんなことはどうでもいい!憧れの冒険者!そして憧れのランク制度!見てろ、今にAランクまで上り詰めてやる!


 「基本的にはそんなところですけど、何か質問はございますか?」


 「そうですね.........ランクってのは、大体どれくらいの強さが目安になっているんですか?目標の基準を知りたいんですけど」


 「えーっと、一般的には大体Eランクで一人前、Dランクでベテランとされています。そこまでは努力でいけるとされていますが、Cランクからはある程度の才能が必要です。Bランクになれば人外に片足を踏み込み、Aランクは化物レベルだ、とよく言われております」


 「へ、へぇ.........化物なんだ」


 Aランクになると化物呼ばわりされるらしい。それはやだな。よし、俺が目指すのはBランクだな!そうしよう!


 「他に質問はございますか?」


 「いえ、特には」


 「でしたら、簡単に規約を確認してから、登録の作業に入りましょうか」


 そう言って、手渡される一枚の紙。そこには、細かい文字で冒険者規約が書いてあった。


 こういうのは、隅々まで読み込まないといけない。後から騙されたと言っても、書いてあったと言われて仕舞えば泣き寝入りだからな。


 と、気合を入れて読んだが、特にへんなことは書いていなかった。喧嘩すんなとか、依頼が達成できなかった場合の罰則だとか、ランクが上がると指名依頼があるだとか。


 常識的な範囲に収まっていることを確認。署名欄にサインし、受付嬢さんに手渡す。


 「それでは、これからあなたの冒険者カードを作ります。前払いで50カントになりますが、よろしいですか?」


 「あ、はい」


 そういえばお金の単位をよく知らないと思いながら、広翔君からもらった銀貨のうちの一枚を、恐る恐る差し出す。


 足りるのかどうかわからなかったが、受付嬢さんは銀貨と引き換えに5枚の四角い銀貨を手渡してくる。先程の丸い銀貨よりも形は小さいが、これはお釣りだろう。よかった、足りたようだ。


 俺が少し考えてる間に、カードに必要事項を入力し終えたのか、受付嬢さんがカードをカウンターの上に置く。


 「それでは、手をこちらに。カードにあなたの血を登録して、完了となります」


 そう言って、受付嬢さんはこちらに手をくれくれしてくる。その右手には、細い針が握られていて、きっとあれで刺すんだろうな。


 うわぁ、やばい。針で刺されるのはまあ、現代人だし、注射で慣れてるけど。問題は、その。


 この受付嬢さん、可愛すぎん?ということ。


 さっきからずっと思ってたが、受付嬢さん可愛いんだけど。結構タイプなんだけど。


 いやまあ、絶世の美女、というか美少女、ってわけじゃないんだが、それでも俺が生きて来た中ではトップクラスに可愛い。高めの位置にまとめた、たんぽぽ色の髪のポニーテールに、クリッとしているグリーンの瞳。そのコントラストも素敵だし、なんだかいい匂いがしてくる気もする。


 やばい、緊張する。ちゃんと緊張してくる。んでもって緊張すると、手汗が出てくる!もう、なんで治ってないかなぁ!


 時間をかけてはいけない!スピード勝負だ!


 「わかりました!お願いします!」


 「は、はぁ」


 そう判断し、サッと手を出す。受付嬢さんは、その急な素早さに驚いて戸惑っている様子。だかしかし、これは一刻を争う問題だ。


 「は、早く、早く刺してください!お願いします!」


 「え、えぇっ?」


 なんだ、一体どうしたんだ。早く刺してほしいと協力しているつもりなんだが、受付嬢さんはなにやら顔がピクピクしている。


 ははぁーん、これはあれだな。この子新人なんだな?それで、人に針を刺すのに慣れてないってわけだ。そうとわかれば、こちらがそれを望んでいることを伝えなければな。


 「大丈夫です、心配しないでください。俺が刺してもらいたいんですから。さあ、その針をこの手に、思い切って!さぁ!」


 「ひっ、ひぃっ!変態です!先輩、この人変態ですぅぅ!」


 瞬間、斜め右から飛んでくる怒気。いきなりのそれに驚いて、すぐさまそちらに顔を向けると。


 何やら不穏なオーラが漂っている、とっても美人な女性が、2人。


 あら、怒っててもとてもお美し----------------------


 「ちょぉーっとお話、いいかしら?」



.....................................................あ、はい。



 






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜









 その後、こわーいおねぇさん達に散々怒られた後、事情を話してなんとか許してもらい、無事に冒険者登録を果たしたわけである。


 当時はかなり恥ずかしいのを引きずったが、今では笑い話である。ま、そのおかげかはわからんけど、その受付嬢とも仲良くなれたしな。というか、最近は先程のように、ふてぶてしくも奢りを要求してくるほどである。うーん、遊ばれてますねこれは。


 「さて、これからどうしようか」


 正直、2週間かかると思っていた依頼が3日で終わってしまって暇になってしまったのだ。今日はゴロゴロするのもいいんだが、まだ日は高い。今から帰っても、1日を無駄にする気がする。


 そういえば、この街に来てから2ヶ月。生きるのに必死で、あまりこの街を歩き回れていない。どうせだし、今日は美味しいご飯屋さんでも見つけようかと。そんなことを考えていたのだが。


 「あー、アオイ見つけた!」


 「げっ、その声は.........」


 声が上がった方向は、ギルドの入り口から。そこには、1人の女の子。


 「もー朝早く宿に行ったのに珍しくいないんだもん。疲れたー」


 「いや知らんし。俺が悪いみたいに言うなし。依頼受けてたんだ、仕方ないだろ?」


 蒸し暑い中急いで来たのか、手で顔を扇ぎながらこちらに歩いてくる。


 その風で揺れる、艶やかな桃色の髪。長さは肩先までかかるほどで、確かミディアムヘアと言うんだったか。


 先程から俺を捉えて離さない空色の瞳は、疲れたと言いながらもなお、その明るさを減ずることはなく、強い意志を宿している。


 「朝弱いあなたがそんなに朝早く出るなんて思わないでしょ?日頃の行いから判断して、アオイが悪い!」


 「一理あるなぁ........」


 その瞳と、「私はここにいる!」と主張するような髪色と、そしてその神に祝福されたレベルの美貌。可愛いとも、美人とも取れるその優れた容姿は、この街に住む誰もが一度は見惚れるものだ。


 「それで、何か用か?ニナ。こっちは忙しいんだが」


 ニナ・アルクトゥス。この街でその名とその顔を知らぬ者はいない。なんせ、この街のトップ、ルイス・アルクトゥスの実娘にして、冒険者ギルドでは新進気鋭の超大型ルーキー。戦いに身を置き始めてからわずか半年でCランクに上がったという偉業は、まさに天才というに相応しい。


 美貌と、生まれと、そして才能。その全てに恵まれた人間。それが、目の前の女の子。ニナ・アルクトゥスである。


 まったく、そんな子に絡まれるなんて。



 胃が、痛いです。

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