おチビちゃんの挑戦その3-1

「リベンジよ、高宮 漣!」

おチビちゃんからそう高らかに宣言され、俺は指定された日時に再びみつばち公園へと足を運んだ。

10分前には着いたのだが、前回同様、既におチビちゃんは到着していて、余裕の笑みで俺を待ち構えていた。

「おはよ、おチビちゃん。今日も早いな。」

「いい加減ひとの名前を覚えなさいよ、高宮 漣。私の名前は」

「今日は捻挫はしなさそうだな。」

何はともあれ、真っ先におチビちゃんの足元を確認し、俺はホッと胸を撫で下ろす。

正直なところ、またあんな厚底シューズなんか履いて来られたらどうしようかと、気が気ではなかったのだ。

「失礼ね、同じ過ちは繰り返さないわよ。馬鹿じゃないんだから。」

何故かどや顔のおチビちゃん。

なんだその顔は。

よくもそんな事が言えたもんだな。

「どの口が言ってんだ。何回チャンス逃してるんだよ、お前。」

「・・・・ふんっ!」

最近分かってきたことだが、おチビちゃんは言い返せなくなると必ず『ふんっ!』を発動する。

悔しそうな顔と、セットで。

そんな顔を見るのがなんだか楽しくなってきている、今日この頃。

・・・・どうした、俺。疲れているのか?

「さ、行くわよ。」

そう言って、おチビちゃんはさっさと歩き出す。

「向こうの花壇が全体的に見頃だそうよ。」

「みたいだな。」

どうやら、おチビちゃんも下調べをしてきたらしい。

昨日もなかなか眠れなかった俺は、やはり前回同様、スマホであらかじめ調べておいたのだ。

別に、おチビちゃんのためではない。彼女のリベンジを受けて立つ、俺自身のためだ。

少し歩くと、遠くに目指す花壇が見えてきた。

「あ~、あれだけ咲いてると、結構見応えあるな。」

「えっ?どこ?」

「ほら、向こう。」

「え?全然見えないけど。」

まったく話が噛み合わない。

それもそのはず。

おチビちゃんの目線からでは、まだ遠くの花壇までは見えないからだ。

ふと近くの花壇に目をつけ、俺はおチビちゃんに提案してみた。

「そこ、乗ってみれば?」

「・・・・そうね。たまにはいいこと言うじゃない。」

花壇の高さは目算で30センチほど。ちょうど、おチビちゃんと俺の身長差くらいだ。

手を貸しておチビちゃんを花壇の縁に上らせる。

と。

「わぁ・・・・ほんと、きれい!」

おチビちゃんは子供みたいな無邪気な笑顔を見せた。

「見えただろ?」

「うん。」

俺のすぐ隣に、おチビちゃんの顔がある。

なんだか、馴れない距離感が、妙に落ち着かない。

そんな俺にはお構いなく、おチビちゃんは感心したように言った。

「あなたはいつも、こんな景色を見ているのねぇ。」

「まぁ、な。」

「いいなぁ。」

背が低いことにコンプレックスでも感じているのだろうか。

溜め息混じりにそう呟いて、おチビちゃんは花壇の縁から飛び降りた。

・・・・飛び降りて、しまった。

って、なんで俺は残念な気分になってるんだ?

「さ、行くわよ。」

意気揚々と歩き始めるおチビちゃんに、俺は呆れて声を掛けた。

「お前・・・・ほんとにやる気ある?」

「えっ?・・・・あっ!」

言われてようやく気づいたのか、おチビちゃんは自力でもう一度花壇の縁に上った。

が、俺は花壇から距離をおいて歩き出した。

「ちょっとっ!少しは協力しなさいよ、高宮 漣!」

少し後ろから聞こえるチビすけの声は、この際無視していいだろう。

だって、俺。

(すげー協力してると思うんだけど・・・・)

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