宣戦布告

「ねぇ、漣。帰り、どっか行かない?」

帰り支度をしていた俺に声を掛けてきたのは、同じクラスのミチだ。

月に何回かは誘われる。

俺に彼女がいない時には、誘いを断ったことはない。

何をするでもなく、ただ川っぺりを一緒に歩いたり。

カラオケに行って、歌いまくったり。

ショッピングに付き合ったり。

スイーツを食べたり。

時々かる~く、イチャついてみたり。

そんな感じだ。

ミチ以外にも、同じような女子が何人かいる。

だいたい、中学の時から付き合いのある女子達だ。

「そうだなぁ・・・・」

いつもなら即答で「いいよ。」と答えていた。

だが、俺の頭には、おチビちゃんの顔がチラついていた。

(別にまだ、付き合ってないしなぁ・・・・)

そうは思いつつも、

「今日はやめとく。」

結局断った。

別に、おチビちゃんに義理立てした訳ではない。

と、思う。

ミチのように、たまに俺を誘ってくれる女子は、おそらく俺に気がある訳ではない。

普通に友達として(もしかしたら、ほんの少しくらいは異性として)、仲がいいだけだ。

だから、俺もそう気を使わなくていいし、気軽に楽しめる。

告ってくれる女子とは、本気で向き合いたいと思ってしまうからか・・・・付き合い始めても早々に疲れてしまって、長続きしない。

結局、俺が無理をしている事を察した相手から、別れを切り出されてしまう。

(あいつは、どうなんだろうな。)

ふとそんなことを思いながら、校門を出た時。

「遅いじゃないのよっ、高宮 漣!」

塀の陰からおチビちゃんが飛び出してきた。

「別に、待ち合わせなんかしてないだろ。」

そうは言ったものの、なぜだか少し喜んでいる俺もいる。

ミチの誘いを断って良かったなんて、思ったりもしている。

・・・・まったく、どうかしているぞ、俺。

「なによっ、その態度は!せっかく待ってたのにっ!」

「はいはい、ありがとさん。」

プリプリ怒るおチビちゃんを軽くスルーして前を通りすぎると、彼女は慌てて俺を追いかけてきた。

少しだけ、歩くスピードを緩め、追い付いたおチビちゃんと並んで歩く。

「で、今度はなに?」

「明日。土曜日。」

「え?」

「みつばち公園で10時に集合よ。」

顔を上向け、おチビちゃんは真っ直ぐに俺を見ている。

「なんで?」

『みつばち公園』は、俺たちの高校の最寄り駅からさらに3つほど先の駅にある、やたらと花壇の多いだだっ広い公園だ。

そんなところに集合して、一体なにをすると言うのか。

すると、おチビちゃんは不敵な笑みを浮かべて、言った。

「そんなの、決まってるでしょ。」

「なにが?」

「鈍いわね、高宮 漣。」

はぁっ、と、お手本のような溜め息を吐き、おチビちゃんは呆れたように俺を見る。

「チャンスを、掴むためよ。」

(・・・・チャンス?)

「首を洗って待ってなさい、高宮 漣!」

(あぁ・・・・)

ようやくおチビちゃんの目的がわかった。

つまり、おチビちゃんは。

「俺のキスを狙いにくる、って訳か。」

「ちょっ・・・・!公道でそんな事言うんじゃないわよっ、デリカシーというものが無いのっ?!」

みるみる間に顔を赤くし、おチビちゃんは慌てて回りをキョロキョロと確認し始める。

そして、

「明日、10時だからねっ!」

と言い残し、駅に向かって走って行ってしまった。

1人残された俺は。

(やば・・・・なんか、すげー楽しみ。なんだこれ。)

かつて無いほどのワクワク感に、戸惑いを覚えていたのだった。

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