第48話 新たな殺人(2)

「言い得て妙、だなぁ……。いずれにせよ、俺はそこまで考えたことはないね。ハンターというのは自由な仕事だ。自分の思う通りに仕事をして稼ぐことが出来る。だからそれに憧れて始める人間も数え切れないぐらい多いのかもしれねえが……、しかしながら、それには責任も伴ってくる。自由には責任が付き物だからな」


 ハンスの言っていることはごもっともだ――ユウトはそう考えていた。

 ハンターになろうとハンターライセンスを取得する大半の人間は、最初の任務で頓挫すると言われている。

 それはハンターの仕事の苦労を理解したのが半分と、もう半分は――生への渇望だった。

 ミュータントは遺跡にしか現れない。従って、シェルターで生活の全てを補えてしまう環境に居た人間は、ミュータントの存在を知識でしか得ていないことになる。

 しかしながら、ミュータントは現実に存在し――遺跡では人間を目の敵にして襲い掛かってくるのだ。その際、戦闘技術がそのハンターに備わっているかと言われれば、答えはノーと言い切れるだろう。尤も、ハンターになる前にそれなりに戦闘技術があればまた違ってくるのだろうが。


「ハンターって、ハイリスクハイリターンな仕事の代名詞だからねぇ……。リスクは高いのもある、だって常に死が付き纏っているんですもの。けれども、リスクが高ければ高い程、より高報酬……つまりリターンが高い仕事にありつける、って訳よね」

「まぁ、大体はそんな感じだが……。でも、それを訴えてもハンターで一発逆転を狙う人間は少なくないんだぜ? 先行投資をしないで、必要最低限の装備だけで遺跡に行って、そしてミュータントに殺される……。そんなハンターは数え切れないぐらい存在する」

「ハンターの世界も難しい世界、ってこったな」


 ハンスの言葉も言うとおりだった。けれども、それをユウト達ハンターは当然のことだというのもまた理解していた。

 理解していたが、それを伝えることもまた難しい。実際、ハンターになる人間が多くなってきているが、全員が全員そのデメリットを理解しているかどうかはまた別だ。


「殺人現場はここを曲がった裏通りだ」


 ハンスが立ち止まると、細い通りの向こうを指さした。通りの向こうは誰も歩いていないようだった。それに、警察官が道を塞いでいる。既に誰も入らないように対策を講じているらしい。


「写真はまた撮影させてくれるのか?」

「構わないが、多少は節度を持ってもらえると助かるがね。……新聞記者でも、それぐらいの節度は持っているはずだろう? 幾ら記事を書くのが仕事とはいえ、自分中心な生活を送っている訳でもあるまい」

「そりゃあ、ご尤も。でも、安心して下さいよ。一応、セブンス新聞社はお上の検閲を受けて発行していますからね。それぐらいは問題ありませんから」

「それはそれで問題なんじゃ……?」


 市民の代行者たる存在であるマスメディアが、管理者の検閲を受けているなどと知られたらどうなるのだろうか。

 確実に売上は下がるだろうし、市民に寄り添っているなどと言っているマスメディアが嘘を言っていることになってしまうだろう。


「……難しそうな話をしていますね、皆さんは」


 ルサルカはたいそう眠そうな顔をしていた。殺人事件の現場に行くのは未だ興味があったものの、そこからの話が長かったのとほぼ脱線していたこともあって、ルサルカの興味は大分薄れていた様子だった。

 ルサルカの表情を見ながら、ユウトは深々と溜息を吐く。


「ル……ルカ、そういうのはなるべく表に出さない方が良いと思うぜ? 何でも表情に出していたら、相手の思うつぼだ。少しは学んでおいた方が良いと思うかな」

「……馬鹿にしましたね、ユウト。私だって、少しは表情を表に出さない時だってあります」

「そうか。なら、良いんだけれどね。……ルカは結構発言を信じていそうな気がするからな。困っていたら金貨十枚の壺とか買っちゃいそうだし」

「そもそも、そんな資金簡単に調達出来るかどうかも危ういんじゃねえか? 市民が金貨十枚を集めるにゃ結構な時間と労力がかかる。ハンターなら一攫千金が狙えるかもしれないが、そうもいかんだろうよ」

「あー……、まあ、ルカはハンターなんですよ。こう見えても」

「うん。私、ハンターです。こないだなったばっかりですけれど」


 ハンスはそれを聞いて頭を掻くと、


「そうだったか。それなら、済まないな。間違ったことを言っちまったようだ。……取り敢えず、今は現場に向かわねえとな。それが仕事な訳だから、こればっかりはさっさとやっちまわねえと」

「……本当に警察官なんですよね……?」

「おう。本当はさっさと隠居したいが、人手不足だからか未だに最前線に繰り出される老兵だがね」

「そんなこと初めて聞きましたよ? それに、それは警察もあんまり望んでいないかと思うけれどなぁ。……だって、市民に密着している警察官なんて、ハンスさんぐらいしか居ないよ?」

「褒めているということで良いんだよな?」


 そんなことを話しながら、ハンス率いる一行は漸く殺人現場へと到着するのだった。

 

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