第25話「幼馴染は心配する」
結局、その日の夜は四葉の涙の件であまり寝られなかった。
何もすごく悩んでいたわけでもない。最近、彼女の情緒が不安定なのと、普通に当たりが少しだけきついのだ。
せっかく想いを打ち明け、お互いに分かり合えたのだと思っていたのだがどうやら俺だけだったようだ。
まあ、四葉のあの性格が今になって180度変わるとも思えないし、最初からその程度の覚悟で想いを打ち明けた不純の仲になろうとなんて考えてもない。
幼馴染で、10年近く、彼女の隣を歩いてきたから分かるがーー四葉はそんな単純馬鹿じゃない。それくらい知っているのだ、俺はな。
「……だからといって、心配じゃないわけではないんだけどな…………」
ほんとに……幼馴染の気持ちはよく分からないものだ。
俺にだけ冷たくなったり、また好きになってくれたり——右往左往しすぎだよ。
——コンコンコンッ。
そんな風に自分の部屋のベットの上で考え込んでいると扉が鳴った。
時計に視線を送ると、朝の7時半。
夏休み終盤とは言え、まだそのぬるま湯につかってていい時期だ。だというのに、こんな朝早くから起こしてくると——つくづく良く分からない。
「……なんだよ、今行くから……」
ドアノブに手を掛け、ゆっくりと捻ると——同時に向こうから力がかかった。
勢いよくドアノブが回転し、俺の手が反対方向に回る。瞬間、電撃が走り、俺は扉から飛び退いた。
「——っ⁉」
「朝ごはん」
「いった……てぇ……まじかよ……ぅ」
「早く、できた」
「え……あぁ、分かってるけど」
「じゃあ、早くしてよ、冷める」
「分かったよ……(俺はまだ腹減ってないんだけどなぁ)」
「なんか言った?」
「——言ってません」
突如、先程と打って変わった圧迫した痛みが俺の左足を襲った。
下を向くと、どうやら四葉の右足が俺の左足を踏んでいた。
「……痛いんだが?」
「知らない、私は」
「知らないも何もなぁ……四葉が俺の脚踏んでるんだろ?」
「——そ、じゃあ、私行くから」
おいおいおい、これは夢か?
これがまじもんの明晰夢ってやつか?
いやでも、それにしては痛みもあるし、言葉の端々から感じる重みが夢のようには思えない。あまりにもリアルだ。
寝付けなかったから寝ぼけているのか?
それならありうるな。
俺もまったく、隅に置けない。
だいたい、いくら四葉の機嫌が悪くなろうと俺たち二人は付き合ってるんだ。ここまで露骨に冷たくなることはもう、ないはずだ。というか、あるわけがない。
断じて、ない。
今の俺なら、そう言い切れる自信がある。
これは——断じて、はっきりと、フラグではな——い!?
「早く来て——覚ましたらぶん殴るわよ」
「あぁ、どうやら……」
「はーやーくー?」
「は、はい!!」
「……ん」
どうやら、俺の勘違いだったようだ。
十年来の幼馴染、
————ん、でもまてよ。
四葉の事なら、きっと、俺に告白してきた女の子について心配してるんじゃ? 四葉自身、けっこう彼女の事を大切にしてた気がするし……。
「あぁ、俺天才!」
「うるさい、どうでもいいから食べて」
「——あ、は、はい……」
さあ、皆に助言だ。
彼女にすべてを委ねる様な言いなり彼氏にはなるでないぞ!!
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