後日談SS(短編)

「ていうかさ、私さ」


「なんだ?」


「まだ、和人から好きだっていう言葉、言われてないんだけど?」


 あれから数か月が過ぎた秋頃の夕暮れ時。

 晴れて俺たちは恋人になったのが、そんな帰宅中の1シーンで彼女が唐突にそう言ったのだ。


「は、言ってなかったっけ?」


「言ってないわよ、だっていっつも変に誤魔化すじゃない? 和人がまともに褒めてくれたことかあんまりないし……」


「あんまりないって、いっつも褒めてるけどなぁ……」


「例えば?」


「た、例えば……」


 なんだ急に。

 目の奥の色が若干桃色に見えるのは俺の気のせいだろうか、そう信じたいが実際のところ声の端々も震えていて、どこか色気を感じてしまう。


 どうやら言われたいだけの様だった。


「うーん、あるかなぁ、うーん、難しいなぁ」


「ないの?」


 おっと、声のトーンが変わったぞ。


「まぁな」


「……いじわる」


 俺が神妙な面持ちでそう言うと、四葉が俯きながらもじもじさせて呟いた。

 なんだこいつ、可愛すぎやろ。


「そーいうとこかも」


「え?」


「いやぁ、その、そうやって変に照れるところというか?」


「なによ、それ」


「別にそのままだけど……」


「あっそ……」


 そっけない返事をした四葉、しかしその横側はほんの少しだけ朱色に染まっていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る