第7話 【魔道具製作】の有用性


 ゼブルス公爵家とグラキエス侯爵家がイグニア殿下を後押しする。それは王位継承位争いがだいぶ有利になったことに他ならない。ではそのなかでどうすれば利益を上げるかだが


(とりあえずはこのままでいい、鉱物も安く手に入る)


 ある程度の鋼材が手に入れば最悪関係を切ることも視野に入れる。


「ありがとう貴方~~」

「いいんだよ、エリーゼのためなんだからこれくらい何の問題もないさ」


 ………………………………(イラッ)


 談話室で休憩がてらこれから先のことを考えているのに対して両親はソファの上で甘い空気を醸し出している。もちろん平時ならこれで何も文句もないのだが、継承位争いに全面的に巻き込まれてしまった身として、父上がのんきなことに対してやや腹が立つ。


「母上、そのお金イドラ商会から借りた物です」

「………え?」

「シィーーーーー!」


 なのでちょっと黙ってもらうことにした。


「なんで!息子の商会のお金を使っているの!」

「いや、それは」


 一応はイドラ商会は俺の持ち物となっている。そこから無断でお金を借りたとなれば、財布からお金を取ったと言っても同じだ。そして当然父上には税金から自由裁量というお小遣いも存在している、なのにそこから使わずにイドラ商会から使った、これはどう考えても母上のお説教が始まる。


 うるさくなった部屋を後にして自室に戻ろうとすると執事長がやってくる。


「バアル様、お手紙が届いています」

「………どれ」


 届けられた手紙の紋章はグラキエス家の物だった。


 ほとんど予想はできるが、とりあえず中身を見てみる。


「……これを父上に持って行っていけ」

「かしこまりました」


 内容は簡潔に要約すると『約束を結ぶためそちらに向かう』というものだ。


 手紙に指定された日にちはちょうど2週間後。侯爵家の当主が来訪するのだそれなりの準備も必要でそのための時間も考慮すれば今から準備する必要がある。


「2週間後、グラキエス家が来訪する、丁重に持て成せるようにしておけ」

「かしこまりました、バアル様」


 持て成しの準備を執事長に任せて俺は資料室に入る。


 そして書類の中から過去のやり取りを記したものを探す。


「これだな…………」


 手に取った紙束には過去にどんな交渉がなされたのかが書かれている。


「こんな条件では頷くはずないだろう…………」


 軽く内容をのぞいてみるとほとんどがミドルリスクローリターンで交渉を受け入れるかと言ったら否の提案が多い。


(何より、父上は災害などではできるだけ手を貸している。もちろんできうる限りでだが)


 それ以外での交渉となると基本的にはどうでもいいことや何かの根回しといった類になる。これらは何かをしたいときに協力者を募っているに過ぎない。当然見返りは用意されるのだが、利益だけで言えば微妙なものが多い。それだけのために今ある縁をないがしろにしてまでほんの少しの利益を得ようとはしない。


 だが今回は違う。


「……これだな」


 どれくらいの値引きでの交渉が行われたかのページにたどり着く。


「これなら」



 これらの書類からいい感じの条件を探り出す。

















 書類をまとめ終えると執務室に訪れる。


「このように過去の資料から条件を制定しました。確認をお願いします」


 少しやつれた顔をしている父上に確認してもらう。


「いいけど~………私がこんな状態になっても容赦なしとか、ブツブツ」

「自業自得という言葉を送りましょう。俺の商会から勝手に金を借りた罰です」


 母上が父上がサボらないように監視をしている。


 一応、他の部屋でも他の文官が仕事をしてはいるのだが、重要な書類は父上に回るようになっている。


 だが公爵という立場上、その重要な書類だけでも結構な量が出てくる。


「(今回はそこまで重要じゃない奴も入れてもらっているけどな)……では続けてください」

「……バアルはどうするんだ?」

「魔道具の依頼があったのでそちらの製作に掛かります」


 俺はエルド殿下に頼まれた防御用の魔道具を作る予定だ。


「では母上、父上の監視をお願いしますね」

「わかったわ、バアルもお仕事頑張ってね」


 父上の監視を母上に任せて、館のすぐそばにある自分の工房に向かう。


『お帰りなさいませ』


 扉に手を当てると、俺の指紋を感知して扉が自動で開く。


 中に入ると、資材置場からいくつかの鉱物、魔物の素材を選び、作業台に向かう。


「では、『改編』」


 錬金板の上に置いた金属の一部が一人でに動き小さい板の形になる。


「やはり不思議だ」


 『清め』の時のステータスを見てみればわかるのだが、スキルの欄に【魔道具製作】が存在していた。これは、魔道具を造り続けていると、いつの間にか【錬金術】の項目が【魔道具製作】に変化したものだ。


 変わった点としてはできることが増えた。それは『改編』という技能、これは錬金術の『化合』がさらにバージョンアップしたもので、複雑な形に組み合わせることができる。例えるならば、今までは混ぜ合わせるか、別々に分けるという行為しかできなかった。だが『改編』を使うことにより何かしらの像を取りながらどこにどのような色合いの粘土を配置するかが決められるようになった。つまりは素材さえあればパソコンすらも簡単に出来上がってしまう。


 そして


(たしかにこれは実践してみないとわからない)


 あの超常の存在の言葉通り、スキルは使ってようやく理解できた。なにせ知識を持っているほど目の前の現象には戸惑うばかりになる。


 だが気にしたところで何も変わらないので今のところは気にしないことにしている。


 手に持っていた金属は、しばらくすると小さい電子回路の姿となる。


「あとは」


 魔石を取り出す。


「今回は使うか……………『魔法回路作製』」








 今回、注文されたのは防御用の魔道具なのだが、これは現代知識でもほぼ不可能な能力だ。なにせ無造作に飛んでくる矢や剣を防ぐことが求められる。


 となれば使うのは前世の知識ではなく、こちらの魔法技術である。


 使うのは剣や杖にあらかじめ魔法を仕込み魔力だけで発動させる技術だ。手順としては魔石をある一定の形に加工して杖や剣にはめ込むだけ。だがこの魔石を加工するのはかなり難しい。


 そこで使うのが『魔法回路作製』だ、これは『改編』の魔石バージョンで、粘土のように形を変えられる。


(後は電子回路を)


 もう一度『魔法回路作製』を行い、魔導回路に刻印を刻む。つまりは組み込む仕組みと魔法を設定する。


(発動条件は一定以上の運動量を検知、そして『魔障壁シールド』を発動。その飛来してきたものの大きさと運動量で魔障壁の大きさ硬さを設定……魔障壁の発動距離は体から10cm離れた場所にして……これでいいだろう)


 他にも生体認識、吸魔装置、蓄魔器コンデンサー、任意発動操作、オンオフ操作機能を組み込み重要な部分を作り終えた。


(この大きさなら腕輪としてなら何とか……)


 魔法回路は様々な機能を入れると相対的に規模が大きくなっていく。今回だと25平方センチメートルほどの大きさが最低限必要になる。


 なので2×12.5に調節して丸くするといい感じに腕輪に見えなくもない。


「次は」


 金属少々、魔物の皮と小さい宝石、それと接着剤などを用意する。


(まずは魔導回路の魔石を包むように金属を張り付けて保護。その外側に衝撃を吸収するように魔物の皮などを張り付け、さらに外側に金属を張り付け『改編』で継ぎ接ぎを消す)


 これで腕輪自体が完成だ。


「で、あとは……」








 腕輪と宝石を持ってとある店まで行く。


「店主はいるか?」

「おお、バアル様ですか。今回はどうなさいましたか?」

「この腕輪に宝石を装飾してほしい」


 『装飾屋バーリ』、主に宝石を取り扱っている老舗だ。以前に世話になったことがある。


「かしこまりました、お抱えの職人に作らせましょう」

「だれ向けの腕輪などは聞かないのだな?」

「はは、商人は情報が命ですので」

「だれに売るかを知っていたか」


 有名な装飾店は貴族のつながりが比較的に強い、その筋から今回の情報を聞いたのだろう。


「ちなみに誰がその情報を流してくれた?」

「……さすがのバアル様でも顧客の情報は無暗に流せません」


 ということで口も堅い。


「まぁいい、期限は1週間だ」

「それでしたら大銀貨1枚でどうでしょうか」

「わかった」


 俺は財布から大銀貨を出してそのまま手渡す。


「ああ、それと……魔道具を横流ししたら、どうなるかわかっているな?」

「それはもう」


 脅しを入れておくのを忘れない。もちろん書類で成約を課してもいいがバーリー商会は信用できる商会だ。下手にこじれるのは後々引きずる。


(まぁ、あの中身を見て理解できる奴がどれだけいるかだが)


 それに無理に中身を見ようとすれば自壊するようにセットもしてあるから問題ない。












 1週間後。


「バアル様、バーリー商会が面会を求めています」


 来訪の理由は、あの商品以外ない。


「わかった、応接間に案内しておけ」

「かしこまりました」


 応接間に向かうと箱を持っている店長がいた。俺が入ると立ち上がり頭を下げる。


「バアル様、ご注文のお品物が用意できました」


 お付きの人が箱を開けると、中にはきれいに宝石が散りばめられている腕輪が入っている。


 手に取って確かめてみると俺の作った魔道具で間違いない。


「ご苦労、手間を掛けたな」

「いえいえ、バアル様が貴族様向けの商品の装飾に我が商会を使っていただいたおかげで有名に成りました。そのご恩は決しては忘れてはいませんとも」


 そうは言うがバーリー商会は元から知名度はある。数年前から付き合いを増やしてきたからといっても、商会がよくなければそこまで伸びはしないだろう。


「では今後とも頼む」

「はい、ご要望がありましたら何なりと」


 こうしてバーリ商会との会談は終わった。











 腕輪が完成してから二日後、文官の一人が書類を持ってくる。


「領内の視察?」

「はい、実はご当主様が今回の視察はバアル様に行わせろと」

「……いいだろう、だがグラキエス家との交渉までには戻ってこれるか?」

「大丈夫でしょう、視察と言ってもごく一部の地域をです。領地総てを周るわけではありませんので。そうですね……本日出発すれば、4日後には戻ってこれるはずです」

「……それは交渉の一日前じゃないか」


 分かってて言っているのかと、文句を言ってやりたくなる。


「……一部の地域を父上にさせろ、それで3日で帰ってこれるようにする」

「それはご当主様に直訴してくださいませ」


 文官の助言通りに父上の執務室に訪れる。


「あら、バアルどうしたの?」


 部屋の中では父上が母上に耳かきしてもらっていた、山積みの書類を放って・・・おいて。


「父上、何しているのですか?」

「耳かきよ、バアルちゃんもやる?」

「結構です、それより父上仕事は?」

「大丈夫、大丈夫、今日中にはちゃんと終わるから」


 つまりは楽をしたいがため俺に無理やり仕事を回したわけだ。


「では余裕があるわけですね、おい!」


 部屋にて給仕をしている執事を呼ぶ。


「なんでしょうか?」

「明日の分の書類もここにもってこい」

「!?」

「母上に耳かきしてもらってくるくらいなのですから余裕はあるのでしょう?」

「いやだがな……」

「では、よろしくお願いしますね」


 父上は落胆しているが、そんなことは知らん。


「あと視察の件なのですが」

「あ、ああそれがどうした?」


 反応を見るに俺がなぜこの件を口に出したのか、どうやらわかっていない。


「俺の視察する場所を少し父上にも行ってもらいます」

「なぜだ?」

「あれでは何かあった場合に交渉日に欠席してしまう可能性があります、なので一日猶予をもうけさせてもらいます」

「うむ、わかった」


 日ごろからさぼろうとする父上なのだが、理解だけはとても速い。素直に受けてくれたらラッキーと言った考えだろう。


「ではお願いします、俺は今日から視察に出ますが、父上は明日出かけてから二日後に視察が終わるようになっておりますのでお忘れなく」


 そういい執務室を出ると、屋敷を出ては準備している馬車へと乗り込む。


「それじゃあ、出してくれ」

「わかりました」


 馬車の中で景色を見ながら、俺は視察に向かう。







 視察一日目。


 この日は比較的近い村を巡回していった。


 領民の状態はどうか、何か困っていることは無いか、整備や備蓄は万全か、税が滞ってないか、地形に変化はないかなどを一通り確認しながら視察を進めていく。


「では今のところ困っていることは無いのだな」

「そうです、しいて言えば害獣に困っている程度ですが、それも村人で十分対処できる範囲ですので」


 ほとんどの町はこのような状態だ。もし異常があっても街道に魔物が現れた、木々が倒れて道がふさがったなどで問題らしい問題はそこまでない。


 そうして少し離れた町まで進み一泊する。

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