第6話 良き組み合わせ

〔~バアル視点~〕


 ユリアの提案はいきなりだった。


「無論、ただとは申しません」

「では何を対価にする?」


 どんな提案をしてくるのか興味がある。


「ゼブルス家は特産に魔道具がありますよね?」

「かなりの評価をいただいてうれしい限りですよ」

「ではその値段が下げられるとしたらどうでしょうか?」


(……値段、な)


「第二王子派閥に入ってもらえるのであれば。我がグラキエス家の広大な鉱床から採れた鉱物をお安く提供する準備がございます」


(へぇ……)


 グラキエス家は鉱物資源地として有名な家だ。この提案も妥当と言えば妥当である。


「失礼ながら魔道具についてはどれほど知っていますか?」

「魔力を使って、様々な機能を使える道具としか」

「では魔道具にどれほどの鋼材が使われているかは?」

「残念ながら、ですが大きさからかなりの量と考えています」

「………いいでしょう」


 ユリアは驚きの表情を見せる。


「どうしました?」

「いえ、案外あっさりとお決めになるですね」


 もちろん理由はいろいろある。ゼブルス家は確かに肥沃な土地が多く食料には困らない。だがその反面に鉱物が取れにくい。もちろん貴族の伝手でそれなりに安くはしてもらっているが向こうも需要があると知っているのでそれなりに料金を取られているのが現状だ。


 そのほかにももう一つだけ、魔道具には確かに鋼材も使用しているが見た目よりは少ない。なにせ【錬金術】にかかれば高分子、いわゆるプラスチックも作り出すことができるので使える部分はそれらを使用している。


「ですが、ひとつ条件があります」

「なんでしょうか?」

「私は修行でどの派閥にも入らないことを公言しています、なので自分からはイグニア殿下の派閥であるとは公言しません」

「それでは話が」

「ですが、殿下主催のパーティーはできるだけ出席をします。ほかにも陰ながら援助、具体的には他家を挟んで支援したいと思いますが、どうですか?」


 傍から見れば俺が第二王子派閥であると見えるだろう。


「……分かりましたとりあえずはそれで構いません」

「では具体的な案件などは双方の当主を交えて交渉したいと思いますがいかがですか?」

「はい。お父様にこの話をしっかりと伝えます」


 会話が終わると隣からうなり声のようなものが聞こえてくる。


「それでは、そろそろ殿下が起きそうなので、私は退室します」

「お怪我などはよろしいので?」


 ユリアの心配をよそに軽やかにベッドから降りる。


「ええ、王城の治癒士は腕がいいのですね、体の痛みはすべてなくなっています」


 二人を残して退室するとその足で父上のもとに向かう。









「おお!バアル、無事だったか!」

「ええ」


 会場に戻ると、安堵している父上とその父上の話し相手になっていたグラス殿が近づいてくる。


「面白かったぞ、バアルが倒れた時、リチャード殿の慌てぶりときたら」

「その時の話を詳しく教えてください」

「ん、ん。体は何ともないかね?」


 自分の恥部からなんとか話をそらそうとする父上。


「ええ、幸いにもほとんど外傷はありません」

「……ほとんど、な」


 グラス殿が疑った目で俺を見てくる。


(さすが騎士団長、騙されてくれないか)


 戦闘職の代表格があんな演技に騙されるはずもない。


「私も鍛えているつもりでしたが、さすが殿下です。難なく対処されていしまいました」

「……わかった、そういうことにしておこう」


 グラス団長はこちらの意図を酌んでくれるようだ。


「それと父上お話があります」

「ん?」


 俺は人気のない場所に行き、先ほど行った交渉のことを話す。


「どう思いますか?」

「ん、ん~問題ないと思うぞ。私もどこかの派閥に属しているわけでもなく比較的に中立を保ってきたからな。だが同じような要請は何度も来ていたぞ?」

「その要請の内容を覚えていますか?」

「……家に記録が残っているはずだ」

「ではその資料をみて吹っ掛けるとしましょう」




(我が息子ながらあくどい顔をするな………だが、ゼブルス家が潤うなら問題ないな)








 それからなんのトラブルもなく晩餐会も終わり、翌日には領地に戻るのだが。


「……この荷物の量は?」


 数台の馬車の上には大量の荷物が置かれている。


「いや~せっかく王都に来たんだから、エリーゼにお土産をと思ってな」

「……お金はどうしたのですか?」

「イドラ商会に借りた」


 イドラ商会の名義は俺になっているが、立ち上げには父上も手伝っている事、そして血縁関係ということで父上の言葉には明確な役職などはないがそれなりの力が生まれている。もちろんそれだけならいいが、急に資金を流用するのに問題ないと聞かれれば否としか答えられない。


「どれほど?」

「ざっと金貨90枚ほど」

「……わかりました、父上の自由裁量できる税金から引かせてもらいます」

「え?」


 当然の補填である。というより勝手に息子の金を使うとは思わなかった。


「行先変更、イドラ商会に向かってください」


 俺は御者に少し寄り道してもらう様に指示する。








 王都イドラ商会。


「――ということだ。すぐに本店から追加の資金と魔道具を運ばせるから今は何とかしてくれ」


 さすがに金貨90枚となると無視していい問題ではない、急いで本店の方から追加の資金を回す手配をする。


「いえ、こちらとしてもまだ余裕がありますので問題ありません」

「ならいいが」


 どうやらそこまで問題がなかったようで安心した。


「それと会長、ほかの貴族様からいくつもの意見書が届いております」

「………どれ」


 意見書は、簡単に言うとどんな商品を作ってほしいかというものだ。


「……ほとんどがくだらないものばかりだな」


 仕事を代行してくれる魔道具、何もしなくても強くなれる魔道具、馬を思い通り操る魔道具などなど。


(できなくもなさそうなのが数件と、後はできないものだらけだな)


「……残念ながら今のところ、これらの商品を作るつもりはない」

「そうですか……」


 支店長は残念そうにする。それほどまでに圧が大きいのだろう。


「その代わりに近々、新しい魔道具を作るつもりだ」

「ほ、ほんとうですか!」

「ああ、だが売りに出すかは要検討するがな」

「いえ、新しい魔道具が出る可能性があるだけでありがたいですよ。ここ最近やたらと我が商会に圧力をかけてくる貴族が多いので」

「…………そのことについて詳しく聞かせろ」


 なぜ貴族がこの商会に圧力を加えているか、それは一言でいえば要求をのませようとしているからだった。


「つまり要望を出したはいいが、それが聞き入れられないから圧力をかけていると?」

「………その通りです」

「(阿呆かそいつら)子供でもあるまいし」

「……」


 出した言葉になんと反応すればよいか支店長は迷っている。


「なんだ?」

「い、いえ、その」

「はっきりと言え」

「で、では、会長もいまだにこどもです……よね」


(………たしかにそうだな)


 前世の記憶があるから、年齢という物に無頓着になってしまう。なにせ体感では既に30を過ぎている。


「お前は俺を子供だと思って会話をしているのか?」

「いえ!滅相もございません!」


 首が外れるんじゃないかってくらいに横に振る。


 なにせなりは子供だが公爵家の嫡男でこのイドラ商会の会長でもある。機嫌を損ねたくない相手だろう。


「冗談だ。そこまで怯えなくていい」

「いえ、良かったです………あの噂が本当ではなくて」

「噂?」


 支配人はしまったといいう顔をする。


「どんな噂だ?」

「えっと……」

「…………」

「…会長が貴族の支配人を解雇したとか、従業員をダース単位で解雇したとか、ほかにも様々な噂が飛び交っています。しかもそれが些細な内容だったため……」


 睨むと素直に白状してくれた。


(しかしアレ・・が些細なことか)


「事実だな」

「うぇ?!」

「貴族は帳簿を細工して懐に入れたから解雇、従業員の奴らは裏でこっそりと商品を流していたから解雇、ほかには魔道具の製法を知ろうとした馬鹿がいたから解雇した」

「え、えぇ?」


 どうやら噂と実際が違ったことに驚いている。


 商会は何もすんなりと大きくなったわけではない、内側では何度も問題が起こっている。


「真面目に仕事をしたら大丈夫さ」

「わ、わかりました、誠心誠意仕事をさせてもらいます!」


 その後、ある程度の現状を確かめ馬車に戻る。










「ん?」


 要件も終わり店を出ようとすると、なにやら店の前で騒いでいる貴族がいる。


「おい!責任者を呼べ」

「子爵様ここは穏便に」

「何度も意見状を出しておるのになんで要望通り魔道具を作らんのか!」


 店の前ではそれなりの服を着た人物が従業員と言い争っている。


「支配人、あれはなんだ」

「実は数日前から、クラガル子爵がとある魔道具を作ってほしいと要望を出しているのです」

「どの魔道具だ?」


 俺は手元にある意見書のどれか確かめる。


「いえ、そこには入れておりません」

「なぜ?」

「…お見せするのもはばかれる内容でしたので」

「見せろ」


 意見書を見せてもらうのだが。


「平民の女性を服従させる魔道具…………」

「………………………」


(下卑た心が丸出しの上に、どう作れと?)


「憲兵を呼べ」

「もう呼んでおります」


 通常の兵士では貴族に逆らおうとしない、下手すれば保身の為悪事をわざと見過ごすことがある。そんなときのために組織されたのが憲兵隊だ。彼らは陛下から直々に貴族を捕縛、詰問してもいいという許可とその権利を貰っている。なのでこういう貴族のもめごとには彼らが出てくる。


「クラガル子爵、ご同行を」

「うるさい!なにをもって儂を捕まえようとしているんだ!」


 貴族の身分で何とかしようとしているが。


「残念ですが憲兵には貴族を捕縛する権限が陛下より与えられていますので」


 こうして有無を言わさず連れていかれた。


 あれが貴族で国は大丈夫かと思いながら馬車に向かおうとすると、店の中に顔見知りがいた。


「あら、奇遇ですねバアル様」

「ユリア嬢か」


 なぜだかユリア嬢がここにいた。


「しかしなぜこのような場所に?」

「いえ、あの約束・・の大部分である魔道具のことを学びに来ただけですわ」


 つまりは市場調査と値引きの割合についての調査をしに来たのだろう。なにせ最低限の値引きは確約されているがどこまでを許容範囲にするかはまだ決まっていない。


「そうか、ゆっくりしていってくれ」


 こちらとしては腹を探られても何も痛くないので、社交辞令だけしてこの場を去ろうとする。


「お~い、ユリア!」


 奥からイグニア殿下が現れる。


「あっ!バアルなんでここに!?」

「殿下、この商会はバアル様の持ち物みたいですよ」

「そうなのか?」


 この反応に違和感を感じる。なにせ目の前にいるイグニアには以前の横暴な態度は見えなかった。


「ええ、そうですよ」

「なら剣の魔道具は無いか?」

「……残念ながら魔道具を武器に転用する考えはありませんので」

「む、でもエルドの依頼で魔道具を作るのだろう?」

「それも護身用にです、決して武器などではありません」

「そうなのか、では俺もその護身用の魔道具が欲しいぞ!」

「ではご用意が出来たらお知らせしますよ」

「おお頼んだ!」


 二人は再び店内に戻っていく。


(このままいけば、どうなることやら)

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