第1話

「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか。楽しみだな」


 デバイスを持ち去らないことに決めた俺は近くにあった広場のベンチに座り、持ち主が現れるのを待っていた。もちろん、十中八九なんの変哲もない人物が現れることは分かっているが、わざわざ貴重な資金源を手放してまで何か起こる方に賭けたわけだ。少しくらい期待してもいいだろう。


 そんな考え事をしながら待つこと数十分、必需品を落とした割には遅いな、なんて思っていると、周りをキョロキョロと見回しながらこちらに向かって走ってくる人影が見えた。遠いのでいまいちわからないが、女・・・か?近づいてきてはいるものの俺の方にはまだ気づいていないようなのでこちらから声をかけることにした。


「おーい!デバイスの落とし物ならこっちだ!」


 声に気づいた少女?はこちらに視線を向けると真っ直ぐと向かってきた。徐々に近づくにつれて鮮明に見えてきた姿を見て、俺は驚愕と同時に笑みを浮かべた。どうやら俺の直感というのは、馬鹿にならないらしい。


「すいません!少し用事がありまして、ここにくるまで時間がかかってしまいました。わざわざ私の落としたデバイスを拾っていただいただけでなく、待たせてしまうなんて」


そんな風に謝罪をしながら、こちらを見る少女。走ってきたためか、綺麗なの髪が少し乱れている。


「あぁ、いやそこまで待ってない、気にしないでくれ。それよりこのデバイスで問題ないか?」


 俺は滲む笑いを抑えながら、平静を装って彼女に尋ねる。


「あ、はい!私のデバイスで間違いありません。本当にありがとうございます!」


「ならよかった。じゃあ、もう落とさないように気をつけろよ〜。」


 そう告げながら踵返して、彼女の下からさろうとする俺。だが俺が予測している人物なら必ず……。


「あ、ちょっと待ってください!待たせてしまったお詫びとデバイスのお礼に何かさせてくれませんか?」


 だよな、引き止めると思った、めちゃくちゃ生真面目って噂だしな。俺は振り返りながら言葉を返す。


「いやいや、そんなに気にすることじゃない。さっきも言ったがそんなに待ってないし、デバイスに関してもたまたま拾っただけだ」


「でも……」


「あー、じゃあ今日の予定に付き合ってもらってもいいか?あんたみたいな美人とデートできるなんて、落とし物を拾ったぐらいじゃ全然釣り合わないかもしれないけどな」


「そんなことでいいのなら、全然付き合います!本当ならご馳走くらいしたいんですけど」


「ははは、ご馳走は今の世の中じゃちょっと難しいわな。ま、そんなに気負いしないでくれ」


 料理なんてめちゃくちゃな高級品だし、今の一般階級の食事なんてほとんどが固形の栄養サプリみたいなもんばっかりだからな。


「そう言っていただけると助かります」


「おっとそういえば自己紹介もしてなかったな。俺はキョウヤ=ミロクだ、よろしく。そっちは、どっかで見たことがある気もするんだけど、名前を聞いてもいいか?」


 俺は惚けながら尋ねる。まぁほぼ確信しているが一応聞いておきたい。


「キョウヤさんですか、よろしくお願いします。私は、シルヴァと申します、私をどこかで見たことあるのは……。あ、あはは、心当たりがないので他人の空似でしょうか?」


 少し動揺を見せながら自己紹介する少女改めシルヴァ。なるほど、身分が身分だし隠すのも当然か。家名についても言ったらほとんどの人間は正体に気付いて恐縮しっぱなしだろうし、余計なトラブルになる。言わないのも納得だ。だが名前は推測通り、どうやら俺の予想と相違ないらしい。


「シルヴァ、か。ま、細かいことは聞かないでおくわ、藪蛇かもしれないしな。」


「そうしてくれると助かります……」


「よし、じゃあ話はここらへんにして、まずは一個目の目的だったゲームセンターに行くか!」


「あ、はい!げーむせんたーですか?あまり聞きなれない響きですね、どんな場所なんですか?」


「まぁ、ついたらすぐわかるさ。怪しいところではないから安心してくれ」


 なんて、ゲーセンとか実際は政府に見つかったら速攻取りつぶしだけどな。内心そんなことを考えながら、俺はシルヴァを案内し始めた。


ーーーーーー


「ところで差し支えなければ聞きたいんだが、どんな用事だったんだ?デバイスより優先するってことは相当緊急だったりするのか?」


「そんな感じですね。最近この辺でデバイスの盗難被害が続出していると通報があったのでその調査を——」


「調査?」


「あっ、いえ調査があるって聞いてたので!!!つ、追跡機能より先にそちらの話を聞きにいってたんですよね!!!!」


「ははは、てっきりシルヴァが調査してるような言い方だったから驚いたわ」


「そ、そんなわけないじゃないですか。あはは」


「ま、そうだよな。それよりデバイスの盗難被害なんて珍しいな、追跡機能もあるのに一体どうやってんだ?」


 まぁ完全にその犯人は俺なんだが、我ながら白々しい。


「そうなんですよね。本来そんなことできるはずないんですけど犯人は追跡機能の解除が行えるらしくて、念の為私のデバイスにも通常の追跡機能に加えて追加の発信機をつけておいたんです」


「なるほど、それなら安心だな。俺が犯人でシルヴァのデバイスを盗んでててもしっかり追えてたってわけだ」


「あはは、確かにそうですね!まあキョウヤさんが親切な方だったので、杞憂でしたけど」


 あっぶねえ……、いつもみたいに盗んでたら今頃捕捉されて大変なことになってたってことか。俺の直感に感謝だな。


 そうこうしてるうちに俺がよく行っているゲーセンの前についた。もちろん見つかったら即逮捕案件なので、入り組んだ路地のさらに地下に存在しており、見た目は怪しさ満点だ。


「ここがそのゲームセンターだ。つっても地下にあるからもう少し先だけどな」


「こ、ここですか?あの、すっごい怪しい感じがするんですけど本当に大丈夫なんですか?」


「大丈夫、大丈夫。見た目は悪いけど中は綺麗だし。それに身のこなしからなんとなくわかるんだが、シルヴァ結構強いだろ?俺なんかじゃ敵わなそうだし、何かあったら実力行使で逃げればいいさ」


「そういう問題じゃない気がするんですけど……」


「それともなんだ、やっぱり落とし物拾った程度じゃ、シルヴァとのデートには釣り合わなかったか?」


「うっ、そう言われると……。本当に怪しい場所じゃないんですよね?」


「あぁ、保証する」


「わかりました。お礼をしたいと言ったのは私ですし、付き合います」


「そうこなくっちゃな。さ、こっちに着いてきてくれ」

 いやいやちょろすぎるだろ。まぁ何かあってもなんとかできる自信があるからかもしれないが、それにしても御し安すぎる。まぁ俺の望み通りにことが運んだのは事実だしいいか。


 さぁて、怪しくないとは言ったものの、実際は政府に見つかったら即取り潰しの娯楽施設だ。シルヴァ、いや政府最高権力者の娘にして政府直属最高戦力の《白銀》ことシルヴァ=アストレアはどんな反応を見せてくれるかな?今から楽しみで仕方ない。


 果たしてお前は俺にとってのきっかけたり得るのか?そんなことを考えながら、俺はシルヴァを伴って地下に進んでいくのだった。

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