ゴミのペットはいかがですか?

ちびまるフォイ

ゴミはゴミへ

「……あ、今日ゴミの日だった」


寝坊した朝、昨晩に玄関に準備してたゴミ袋を見て思い出した。

すでにゴミ回収車は過ぎてしまっただろう。これでまた捨てそびれた。


「はぁ、なんで朝早くにゴミを出さなくちゃいけないんだ……まったく」


部屋はゴミだらけで足の踏み場もなくなっている。

仮に業者を呼んで一時的にキレイにしてもすぐもとに戻るだろう。


いっそ家政婦さんでも雇おうかと思って町をあるいているとき、

見慣れないペットショップをふとみかけた。


「なんだこの丸っこい生き物……?」


「お客様、ゴミペットが気になりますか?」


「ゴミ……ペット?」


「ゴミを食べてくれるペットなんですよ。

 食べれば食べるほど可愛くなっていくんですよ」


「へぇ……可愛くなる……」


ケージに入るゴミペットはつぶらなひとみで見つめ返してくる。

ゴミを食べてくれるのならゴミを捨てる手間も省けるし、

可愛く育ってくれるなら一人暮らしのさみしさも紛らわせるというもの。


「あの、こいつ1匹ください」

「ありがとうございます」


ゴミペットには「がべーじ」と名前をつけて可愛がることにした。

がべーじを家に放つと、ゴミ箱に頭を突っ込んでバクバクとゴミを食べ始めた。


「おおすごい。本当にゴミを食べるんだな」


がべーじが満腹になることはなく、カップ麺の容器だって食べてくれる。

ペットボトルは頭からかじるし、野菜の切りカスなんて大好物だ。


「よしよし、カワイイ奴め」

「がべ!」


がべーじはゴミを食べてすくすくと成長した。

きっとこれからもっと可愛くなるだろう。


数日がすぎた。

あれほどゴミが散乱していた部屋はキレイになり前より広く感じる。


がべーじは飼い始めたときよりもひと回りもふた回りも大きくなっていて、

すでにカワイイというよりも怖いが先立つサイズ感になっていた。


「がぁぁべぇぇ」


「おいこら! それはいつか使うために取っておいた紙袋なんだ! 食べるんじゃない!」


サイズがでかくなると食欲も前よりずっと強くなる。

でも前ほどゴミがないのでがべーじは常に空腹状態。


しだいにゴミ以外のものも食べるようになってきた。


「こ、これ以上こいつがおおきくなったらどうなるんだ……」


店員は可愛くなるとか言っていたが、すでにそのレベルの話ではない。

ゴミに飢えていつか自分をゴミと間違えて食べてしまうかもしれない。


「よし……やるしかない」


がべーじを大好物の野菜カスでおびきよせるとおしいれに閉じ込めた。

そこにはゴミひとつない場所だった。


「おとなしくしてろ! もう今のお前は手にあまるんだよ!」


がべーじを閉じ込めてまた数日がたった。

あれから一度もおしいれを開けていない。


「……そういえば、がべーじどうなったんだろう」


カワイイペットから暴食の化け物へと変貌したがべーじだったが、

こんなに長い時間飲まず食わずになったことはないだろう。

そう思うとおしいれを開けるのがためらわれた。


ドアを開けて死んでいると、またゴミが増えてしまう。

まして死んだゴミペットの処分の方法もわからない。


「まいったなぁ……」


今さら飼わなきゃよかったと思い始めた時、ふとアイデアが思いついた。


「そうだ。また新しいゴミペットを飼おう。死んでいたらゴミとして食わせればいい」


ゴミペットの良さは分別といった面倒なことをせずに処理してくれる便利さがある。

それにまだ小さなゴミペットはカワイイのでまた楽しい日々が過ごせるだろう。


さっそく新しい2代目のゴミペットを買うべく店を訪れると、新しい店員が笑顔で迎えてくれた。


「いらっしゃいませ♪」


その天使のほほえみに心を奪われ、ここに何をしにきたのか忘れてしまった。

気がついたときには告白していた。


「あなたのような可愛い人を見たことありません! 付き合ってください!」


「よろしくお願いします♪」


「うおぉぉ!! や、やったぁぁぁ!!」


人生がこんなにトントン拍子でいくなんてあるのかと思ったが、

目の前にやってきた幸運を疑えるほど根性は曲がっていなかった。


仕事終わりの彼女をさっそく自分の部屋に招待することに。

鼻の下はギネス認定できるほど伸び切っていた。


「じゃあ、ちょっと部屋の外で待ってて。片付けてくるから!」


彼女を外に待たせて部屋の掃除をはじめる。

見られたくないものを隅っこに追いやっている時だった。


「あ」


押入れが視界に入り、すっかり忘れていた存在を思い出した。


「やべぇ……中、どうなってるんだろう……」


覚悟を決めると、恐る恐る開かずの押し入れの戸を引いた。

中にはなにもなかった。


がべーじの死体もなく、押入れの布団も消えていた。

おそらく空腹で食べたのであろう。

ひとまず安心した。


「よかったぁ……腐った死体が転がってたらどうしようかと思った……」


ほっと息をついてから部屋の掃除を再開。

かんたんに片付けてから彼女を部屋に入れた。


「わーー、だいぶ片付いたね」


部屋を見回す彼女の姿があまりにかわいくて、もう辛抱たまらなくなった。

強引に肩を抱き寄せて唇をくっつけた。


彼女もそれに答えるように、自ら体を離れないようにくっつけてくる。

口を開けてお互いの舌をからませようとしたとき。


体の中に何かが流れ込んでくるのがわかった。


「んぐっ!?」


必死に彼女を振りほどこうとしたがホールドされて動けない。

体へ食道を介してどんどん臭いものがなだれ込む。


声もあげられないまま、下腹部が耐えきれなくなった。

胃袋から体を貫いたのは、かつてペットに与えた焼鳥の串のゴミだった。


「わたし、可愛くなったでしょう?」


がべーじは一度口を離してから、また口をつけて俺の体にゴミを流し続けた。

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