他力本願

「今度の旅行先さ、九州はどう?」


大学四年生の春休みに、暇をもてあました野郎共四人で入ったサイゼリアで俺はそう切り出した。


「じゃあ俺温泉巡りしたい!」

「日帰りか一泊なら全然あり、車一台で運転手交代しながら行きたいわ。」


山崎と谷口は賛成のようだ。事前の打ち合わせ通り。あと一人の反応は、、、


「行ってもいいけど、俺は今回旅行の段取りは一切やらん。」


なかなか棘のあるものだった。


「、、、まだ高田に丸投げするとはいってないだろ?」


「ええい黙れ、お前らのやり口なんかお見通しなんだよ!適当によいしょして俺に全部やらせるつもりだろ?こないだ行った京都んときみたいに!挙げ句の果てに文句ばっかいっちょまえに言いやがって!」


どうやら自分達にあれこれやられ過ぎて、察しが良くなってしまったらしい。少し申し訳ないなと思いつつ、しかし、一つ引っかかる事があった。


「前回高田の負担が大きかったのはたまたまだ。感謝している。実際めちゃ楽しかった。だけど文句の一つや二つ言いたくなるよあれは。」

「そーだそーだ。二泊泊まるはずの宿を一泊しか予約してなかったり、上手いラーメン屋があるっつってレンタルチャリで砂利道を10km走らせたあげく、定休日でその店閉まってたりなぁ!」


隣にいた山崎が加勢してくれた。非常に助かる。ここは一気に畳み掛けさせてもらおう。


「確かに俺は高田の段取りをしてくれたのにただ乗っかってただけなのに文句言っちまったのはすまん。だけど、まずは自分に非があることを認めようぜ?」


「あーあ、分かったよ。俺も悪かったよ。」


正直この件について自分が謝ることは釈然としなかったので、奴にも謝らせることで手を打つことにした。これで一件落着。


「でも、どうしてもお前の気に入らない所がある!」


ではなかったらしい。勘弁してほしい。早く旅行の計画建てたいんだけど。


「山下はいつも面倒事を他人に押し付けたがる。しかもたちが悪いのは、人の善意につけこんでるときがある事だ。お前は気に入ってるけど、そういうところは好きじゃない。たまには周りの人のために何かしようと思ってもいいんじゃないか?じゃないとその内誰もお前を助けなくなるぞ。」


ずいぶんと説教じみたことを言われた。だがこれに関しては断固とした自分の意見がある。はっきり言わせてもらおう。


「いいじゃん、他人任せ。他力本願は俺の好きな言葉だな。それに善意につけこむなんて言い方は聞こえが悪いだろ。俺は人に助けられることが好きで、相手は人を助けることが好き。この場合はお互いの需要と供給がみたされてるじゃん。ウィンウィンってやつ?それに、人にいいことしたら必ずお返しが来るなんてことは無いだろ。だから、無理に人の役に立つ必要は無いし、自分でやりたくないことをやってもらえるならやってもらい得だろ。」


まずい、ますます高田の表情が険しくなっている。やつの気に入らない事をいっているのは分かっているが、ここで意見を変えるのは負けた気がするので、自分がそう思った経緯を話すことにした。




中学、高校生の頃の話だ。吹奏楽部に途中入部した自分は、周りの足を引っ張らないように努力した。


朝練昼練はもちろん、放課後になれば誰よりも早く音楽室に行き、他の人が談笑したり音出しをしている中、黙々と椅子出し等の合奏準備をした後、個人練に打ちこんだ。


楽器の運搬があるときは率先して運んだ。音楽室は五階、トラックは一階で往復はきつかったが、部に貢献しているという気持ちで満たされていた。


高2の冬、3人から8人までの小編成で出る大会、アンサンブルコンテスト(通称アンコン)に出場した。


同じ学校から2団体まで出場でき、自分は金管8重奏、もう一団体は木管8重奏であった。アンコンは県大会、支部大会、全国大会の3つの段階があるのだが、自分の高校は約10年間最低でも中国大会金賞を取るほどの実力があった。


にもかかわらず、通過点だと思っていた県大会で、金管8重奏は落ちてしまった。一方の木管8重奏は全国大会まで進んだ。


県大会落ちした俺達はOBから非難を浴び、部活のメンバー達からはしばらく腫れ物扱いされた。当時は自信もプライドもぐちゃぐちゃになりもしたが、この経験で得られた気づきもあった。


全国大会に出場した木管8重奏のリーダーは、凄く性格が悪いが強いカリスマ性を持つ男だった。


彼は楽器の運搬はもちろん、合奏準備などしたことも無い。しかし、コンテストや演奏会など、興味のあることになると積極的に参加し、人の上に立っていた。


彼のチームが全国大会に出場し、顧問や部活のメンバーが称賛していたとき、自分ははじめ、なんでこんな自分の好きなことしかやってないやつが評価されるのかと嫉妬した。俺だって部活の為に色々努力しているのにと。


だけど気づいた。俺は部活に貢献したいんじゃなくて、貢献することで、誰かに認められたかったってことを。はなから誰も、俺に何かしてほしいとは思っていなかったということを。そして、自分のやりたくない事を他人に押し付けて、やりたいことだけやってても誰も文句を言わないどころか称賛されることもあると。


今になって思えば、他人からどう評価されたところで関係無いよな。他人に押し付けられるなら押し付けた方がいいし、人の目を気にするよりも、自分のやりたいことを優先した方が幸せに決まっている。それが他人のためになるならなおよしだ。




「だから俺は、面倒事はあまり自分でしたくない。でもお前と旅行に行きたいと思ってる。」

「あのなぁ、もしこの場の四人が全員お前みたいのだったらどうするんだよ?」

「たらればの話なんかなんの生産性も無いだろ。」


このままだと無限に話が進まない。どうすれば、、と思っていたら、さっきまで谷口とだべっていた山崎が話に入ってきた。


「もういっそLINEあみだで決めね?」


結局その案が採用され、段取りは俺一人でやることになった。


















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負け犬学生の幸福論 BACH @willies

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