第3話 学園初の珍事だそうです


 * * * * * *


 さぁ翌朝です。

 当然ながら、わたしは綺麗な制服に似つかわしくないクマの残った顔で登校することになりました。

 講堂では今まさにゴールデンウィーク明けの朝礼が行われているのだけど、正直何の話も頭に入ってこない。

 やっばいやっばい!

 だって、まさかパソコンでがっつり遊ぶオンラインゲームがあんなに面白いなんて思わなかった! ソシャゲだって好きだし面白いしそれで十分だと思ってたけど、パソコンなら大きな画面いっぱいの広い世界を自由に旅出来るし、可愛くてコミカルなキャラクターがいっぱいだし、迫力が全然違う! 世界にはたくさんの人がわたしと同じように生きていて、どの街もダンジョンもすごく賑わっていて、なんていうか、もう一つの世界がそこにある現実感っていうのがすごかった! ただ世界を歩いているだけでも新鮮でまったく飽きることがない。こういうの、わたしのやってたソシャゲじゃ味わえなかった。お父さんとお母さんがハマるのもよくわかる気がするよ!


 そして何より嬉しかったのは――プレイ初日だったのに早速友達が出来たこと!


 名前は『アイル』さん。

 わたしが最初のフィールドでザコモンスターにボコられていたら助けてくれて、初心者だと話したらいろんなことを教えてくれて、ついつい朝まで一緒にプレイしちゃった。付き合わせちゃって申し訳ない!

 でも、アイルさんは女性キャラなのにほんとにすっごい強くてたくましくて、でも気が利いて優しくて、おしゃべりも得意だったからわたしはずっとずっと楽しかった! オンラインゲームって男性が女性キャラをプレイしていることも多いし、話し方もサバサバしてたからたぶん中身は男性かなぁと思うんだけど、そんなのは関係ないくらい楽しかった。誰かとの繋がりを強く感じられた。

 アイルさんとは今日も一緒に遊ぶ約束をしていて、早く帰ってゲームがしたいなぁってもう頭の中は『ワンクロ』のことでいっぱいなのだ。胸ポケットに収めているスマホのケースにお母さんから貰った『ワンクロ』のストラップを装着してしまった辺り、やはりわたしはあの両親の娘なのだと思った。うーん、スマホでもプレイ出来るように新しいの欲しいなぁ……。


 なんて、校長先生の話もろくに聞かずにそんな妄想をしていたら急に視界がぐるりと回って……。


 ――あれ?


 なぜかわたしの視界には、講堂の高ーい天井が見えていた。

 なんか、身体が上手く動かせない。

 校長先生の話をちゃんと聞いてなかった罰?

 あれあれ? これってもしかして……。

 

「……ゲームのしすぎで倒れるって、やばくない……?」


 最後にそれだけをつぶやいて、わたしの意識は途絶えた。



 * * * * * *



 アイル「おーい。ゆいまるちゃん、大丈夫?」

 アイル「ありゃりゃ。これは相当疲れてるみたいだねぇ。ま、とにかく今は休みなよ」

 アイル「だってここは夢の中だからね」

 アイル「いいからいいから。あとでうちが起こしてあげるよ。元気になったらまた一緒に冒険しよ!」

 アイル「この世界はいつだって繋がっているからね。そう、『ゆいまーる』だよ!」

 アイル「じゃあねゆいまるちゃん――」



 * * * * * *



「――アイルさんっ!?」


 がばっと飛び起きたのはわたしだった。


 まず最初に気付いたのは、薬品だか消毒液だかの独特な匂い。

 それですぐにわかった。わたしは今、保健室にいる。ベッドの上に眠っていたらしいのだ。


「……あれ? わたし、なんでこんなとこに……」


 まだぼうっとする目で部屋の時計を見ると、もう正午を回っていた。結構な時間眠っていたみたいだ。


「あ~、さっきのは夢かぁ。あはは。まさかアイルさんのことを夢に見るなんて。会いたすぎでしょハズいなぁ。いや-わたしもほんとハマって…………え?」


 独り言をつぶやいていたわたしは視線を動かし、そこで自分の胸がドキッと大きく跳ねたことを知る。


 なぜって。


 目の前に。


 ベッドの横の椅子に!



「――おはようございます。身体は大丈夫ですか? 柊さん」



 憧れの藤ノ宮先輩が座っていたからです!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る