2. 蒼空時雨

 ワカマツカオリ先生のシャープなイラストの表紙が格好いい。表紙買いしたという方が多そうです。


 どこにもファンタジー要素がなく、学生時代から二十台前半にかけた、一般向けのサラッとした恋愛ものを読みたい時に、ちょうどいい作品だと思います。

『キャラ化』されていない人物の関係や心情描写が丁寧な作品でした。


 行き倒れを拾ってからの居候展開はテンプレの一つだと言えそうです。


 各章で主人公が異なる短編構造の作品で、それは良いんですが、テンプレに変化球が入って面白くなってきたところで話をぶった切られてしまい、実は一度読む手が止まってしまったんです。

 メインは表紙の女性なのですが、奇妙な三角関係の結末がどうなるのかは、言ってしまえば最初と最後だけ読めば分かってしまう。

 しかし、全員が何かしらで繋がっていて、それぞれの立場から人生を眺められる構成になっています。そこを味わうのが、正しい読み方だと思います。


 間に挟まれた対照的な性格の姉妹のエピソードは、独立した内容と考えると、それ自体は良かったです。

 姉妹というのは気質が合えば友人のように仲良くなれるけれども、そうでなければこんな感じじゃないかなと、リアルな心情描写に唸らされました。


 文章について。クセがなく、文芸ラノベの文章としてはお手本になると思います。

 実際私も、執筆の感覚を取り戻す際に手本にさせてもらいました。

 テンポ感は感じられないのですが、それを求められるタイプのストーリーではないですし、ゆっくり読ませるのに向いた文章かなと。


 不満点を挙げるなら、最終的にくっつく男性の描写が少なく物足りなかったところ。間のエピソードに、もっと絡めてほしかったです。


 どうやらシリーズ化していて、さらには登場するお金持ちの一族が主役の別シリーズも存在するようですね。


 ここまで電撃大賞作品を読んできて、メディアワークス作品のほうが大人は楽しめるかもと思いました。


(2021.5.19読了)

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