メディアワークス文庫

1. 七姫物語

 もとは電撃文庫から出ていたようですが、新装版で1巻がメディアワークス文庫から出ていました。

 アジアンファンタジーなのですが、独特の空気感を持つ作品です。

 ふと思い出したのが、コミックの『暁のヨナ』のような、絵柄が現代風のファンタジー。この作品は文章が現代風でライトでした。


 ローティーンの女の子の一人称の語りで淡々と進むペースに慣れてくると、これは一風変わった癒し系の作品なのでは? と思うようになりました。

 後半になって護衛くんと謎の女の子が出てくると急にストーリーが動き、面白くなります。

 まあ、今の時代の感覚で読むと、そこまでが長すぎるでしょう。新装版が一巻止まりなのが残念です。


 人を騙す二人組に担がれて天下を取りに行くことになる主人公は、何もしていない・できないように見える。しかし、求められた役割を器用に演じる才能があります。善人なのに善人ではいられない。この絶妙なピカレスク風味が好きな方には刺さると思います。


 主人公の語りのゆるさに隠れているものの、教養ある著者による作品だと思います。文化人類学的というより政治的な要素のほうに。


 キャラクターに関して。前半は主人公の脇を固める二人の男性キャラ(文官・武官)の話にページを割いており、対象読者は少女なのではと感じました。新装版では少女小説風の装画に変わっていますし。

 そう、ターゲットがよく分からない作品なんですよね。

 あとがきによれば、当時は少女向け小説はあるのに少年向けがないから書いたということで、作者としては癒し系少女路線を狙ったのかもしれませんが……。


 文章に関しては、主人公の口調そのままの一人称・体言止めのオンパレードが、私めには少しキツかったと白状いたします。主人公が12歳だから文章レベルを抑えているのでしょうが、その割に政治的な話が出てくると急に難しくなるところもあり。これは一人称のデメリットだと思います。


 しかし、批判をやめて素直に読んでいると、静かで爽やかな独特の味わいがある不思議な作品でした。そして、10冊読み終えてからこれを書いている現時点でも、最も続きが気になる作品です。


 守られる主人公目線で書くと、あまりバトルシーンの詳細を描かなくてもよいという、使えそうで使えなさそうなヒントを手に入れました。


追記。

 むかし母が、「ハリーポッターは面白いけど、徹夜してしまうから、しんどい」と言っていました。

 歳を食うと、何となくその感覚が分かってきます。引きのうまい作品は、面白いけれども自分の読書ペースを乱されてしまうのです。

 私はこの作品を読むのに時間がかかりましたが、読んでいる最中にメンタルの波長を乱される感覚がなく、安心して読むことができました。そんな作品もアリなのではないかと思います。


(2021.4.11読了)

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