第4話 オオトカゲのイケメン 竜凪さん

 その数日後、診察室から出てきた私は、イケちゃんが受付でハイブランドのロゴの入った大きなショッパーを覗こうとしているところに出くわした。

 ブランドに詳しくない私でも、見たことのあるロゴだ。


「イケちゃん、その袋、何が入ってるの?」

「あ……姫。これね」

 イケちゃんは、イタズラの見つかった子供のように、ちょっと気まずそうに笑った。


 彼女は、ブランド大好き女子だ。

 また何か買ったのだろう。

 確かに今、患者さんはいないけど、せめてロッカールームで見て欲しいもんだ。

 それにしても、勤務時間中に袋の中を覗きたくなるほどの、一体何を購入したと言うのか?

 

「これ、さっき、この間のオオトカゲ連れたイケメンが持ってきたのよ」

「え?オオトカゲのイケメンって竜凪さん?」


 まるで、竜凪さん自身がオオトカゲであるかのような言い方をしてしまったが、彼の体の鱗を見てしまった私は、もう竜凪さんは爬虫類の一種だ。

 鶴でも、河童でもない。爬虫類に決定!


「そー、そー。その竜凪さん」

 イケちゃんの言葉を聞くが早いか、すぐさま病院を飛び出す。

 勢いがつき過ぎて、危うく二重扉の外側のドアにぶち当たりそうになってしまった。

 病院の前の駐車場で、竜凪さんは、今まさに黒のSUV車を出そうとしていたところだった。


「りゅ、竜凪さん、竜凪さん!待って……下さい!」

 大声を出して呼び止めた私の声が聞こえたのか、竜凪さんはブレーキを踏んで、車を止めてくれた。


「すみません、お帰りのところ。

 ……シュウちゃんの、具合はどうですか?」

 息を切らせながら、聞いた私に、車の窓を開けた彼は、小さく会釈して答えた。

「先日は、お世話になりました。大変、助かりました」

 そう言った彼の体を無意識に見てしまう。

 

 ああ!私に、透視能力があれば彼のスーツの下の下着の下の鱗が見れるのに………。

 正直、あのグレーに青みがかった鱗が忘れられない。

 あの硬くてサラサラした手触り。あの温かい温もり。

 次は、もっと光源のある場所で、はっきりと見て見たい。

 腰から下に続く鱗も見れると、もっと良い!

 どこまで続いているんだろうか?

 何かのタイミングでもっと鱗の範囲が広がったりする?

 食べるものや、飲む物によって何か変化があったりとか?

「あの………」

 カメレオンみたいに、色が変わったりする?

 もしかして、他の爬虫類のように、脱皮したりとか!?

 あーーーーーーーーーーー、、、、、、、、、見たい、見たい、見たい!!!


「あの………すみません……何か、御用が?」

 竜凪さんの控えめな問いかけで、頭の中に鱗が生えかけていた私は、ハッと我に返った。


「ゴ……ゴホ、ゴホ……あの、先生から説明があったと思うんですが、シュウちゃんの腫瘤の手術日の予約をして欲しいんです。

 お時間はありますか?」

「申し訳ない。これから、すぐに予定が入っていまして。

 後ほどお電話で、ご相談させて頂いても構いませんか?」

 竜凪さんは、申し訳なさそうに、頭を下げる。


「はい、大丈夫です。

 ただ、シュウちゃんのためには、なるべく早く手術を受けることをお勧めします」

「勿論です。わざわざありがとう」

 彼は、軽く会釈をすると、車を走らせて行ってしまった。

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