第12話 キュンです!

 ギルドからの帰り……なのだが……。

「ねぇ〜、逆にそれ怪しまれるよ!?」

「だって〜!!」

 アリスの手には金貨300枚が入った袋が握られていた。

 そして、アリスが今何をしているかというと、道を進む度に前後左右をキョロキョロしているのだ。

 完全に不審者である。

「ねぇ〜、アリス。今のままじゃ何かあった時にアリスを助けられないからさ、ぼくを違う召喚獣に変えてくれない?」

「え? う〜ん、良いけど何にしたら良い?」

「そうだな、1回さ人型の召喚獣にしてみてよ!」

「人型? そんなのできるの?」

「わからないけどね」

「まぁ、1回やってみるね……」

 その後すぐに、ぼくは快適空間に戻った。


 ……数分が経過した。


 しかしなかなか、あれが来ない

『アリス、何をしてるんだ? 早くしないと、何かあっても守れないぞ!』


 その直後、あれがやってきた。

『相変わらず気持ち悪いな。 あれ? アリスが小さくなってる!?』

「アリス、どうなった? やっぱり出来なかった?」

「え? うそ? そんな!?」

「うん? どうしたの!?」

「いや、だって! なんで?」

「うん?」

 アリスの動揺が酷かった為、また失敗したんじゃないかと思い近くの店のガラスの前に行くと。


『え!? マジで!!』


 身長はアリスより少し高く髪は背中まで伸びた長髪で、一見すると女性に見える顔立ちにコバルトブルーの瞳が良く似合うがそこに立っていた。


「これ誰?」

 ぼくはアリスの方を向き尋ねるたずねる

「え!? はっ! ア、アグーじゃ……ないの?」

「え? これぼく?」

 ガラスの前で色々動いてみる。

『確かに、ぼくが思った通りにガラスに映る、女? 男? が動いた』

 

「ねぇ、応えて! アグーなんでしょ!?」

「どう、したの!? アグーだよ……。アリスが出した召喚獣のアグーだよ!!」

 アリスがその場でしゃがみ込んでしまった。

 何が起きたのか分からず、ぼくは彼女に近づき優しく包み込むことしか出来なかった。

 アリスは泣いていた様に見えた。

 ぼくは初めて彼女の泣いている姿を見た。

 出会った時は、本当に貧乏な生活で本当に大変な思いをしていたにも関わらず涙一つ出さなかったアリスが、泣いていた。


 しばらくして落ち着いたのか顔を上げた。

 その顔は涙でぐちゃぐちゃになっていて、いつもの元気は微塵みじんもなかった。

 そして、無言でぼくに抱きついてきて再度泣いていた。


「ぼくのこの人型が嫌だったの?」


 アリスは『違う』と思われるジェスチャーで首を横に振った。

「じゃあ、昔何かあった?」

 この質問には何も応えてくれなかった。

 ぼくは、彼女を強く抱きしめる事しか出来なかった。


 その内、周りからの視線が気になり始めた為アリスに声をかけ、場所を移動する事を提案、アリスは『うん』と頷きぼくにもたれ掛かりながら宿へと歩き始めたのだ。


 宿の前まで来ても、あまり状況は変わらなかった。

「部屋で休もうね」

 うん、と頷く事しかしないアリス。

「お姉ちゃん……おかえり!? どうしたの?」

「あ〜、ごめんねリリー。ちょっと疲れちゃったみたいなんだ、休んでくるね」

「うん、わかった……。うん? 誰?」

 ぼくが、召喚獣である事、今は人型である事を忘れリリーと会話をしてしまった事をこの時はまだ考えても居なかったのだ。


 部屋に着くと、アリスをベッドに座らせ横になるかと聞くが「良い!」と返ってきた。

「もしぼくがここに居るのが嫌なら出て行くけど」

 首を横に振るアリス。

 ここには居ても良い様だ。


 その頃下では『あの人は誰なんだろう!?』リリーの頭の中には?がいっぱいだった。

『でも、なんでリリーの名前知ってるんだろう!』

 その時ママが帰ってきた。

「ママ〜!」

「どうしたの?」

「お姉ちゃんが、帰ってきたんだけど、誰かと一緒に帰ってきたよ!」

「誰かと? あら、お友達かしら? 女の人?」

「うん〜、いや多分男の人だと思う」

「え? 男!? 帰ってきた時どんな感じだったの?」

「うん〜、それがねぇ〜。お姉ちゃん凄く疲れてるみたいだった!」

「え!!!」


『男と一緒に帰ってきた!! しかも疲れて!! え!?』


 ママさんの中でとんでもない方向に想像が膨らんでいたのだ。

「あとね〜、その男の人リリーの名前知ってたんだ。リリーは見た事ないんだけどなぁ〜」


「ホント! それ!?」


『なんて事なの、もう既に私達を紹介済みですって!! まさか! 外から帰ってきたって事はデート! え! 疲れている? しかも、私達に紹介済み? え? 結婚!!!』


 ママさんの中でかなりヤバい方向に想像が爆発しつつあった。


『これは、確認よ! そう宿主として確認するだけよ』

 ママさんはアリスの部屋の前までやってきて聞き耳を立てる。

「ママー!?」

「しーっ!! ママはとっても大事な仕事をしなくちゃいけないの!!」


 お姉ちゃん部屋の前で耳をドアに当てるママを見て、どんな仕事なんだと、頭をフル回転して考えているリリーだった。


 ママさん視点

「アリス、ぼく何か嫌な事した?」

『ケンカしちゃったのかしら』


「ぼくの不満なの?」

「そんな事ないよ」

『ぼくの形!! 不満って、まさかアレ!? でもそんな事ないって、じゃあ、満足して……』

 鼻息が荒くなるママさん。


「何かして欲しい事があったら言ってね」

「うん? そっちに行って良いの?」

『え? どっちに?』


「抱きしめたら良いのね?」

『えぇーーー!!! ケンカしてたんじゃないの?』

 興奮が止まらないママさん!

『ダメこのままじゃ、私が


「うん? 嫌いになるわけないじゃん……」

『キャアーーー!!! もうダメだぁー!!』

 ママさんは何十年ぶりかのトキメキを感じたと同時に、切なさと、羨ましさを感じその場を後にしたのだった。



 ぼく視点

「アリス、ぼくなんか嫌な事した?」

 首を横に振るアリス。


「ぼくの形()が不満なの?」

「そんな事ないよ」


「何かして欲しい事があったら言ってね」

 彼女は自分の横に来て欲しいとばかりにトントンとベッドを叩いた。

「うん? そっちに行って良いの?」

「うん」


 ぼくが近づくと両手を広げて寂しそうな顔でぼくを見つめるアリス。

「抱きしめたら良いのね?」

 うん、と頷くアリス。


「……嫌いになった?」

 とても小さな声でぼくに言う。

「うん? 嫌いになるわけないじゃん……。ぼくはアリスの召喚獣だよ」

「そっか!」



「ママー、どうしたの?」

 頬を赤く染め、クネクネと体をくねらせて降りてきたママさんにリリーは話しかけた。

「ああー、青春ね! 羨ましい! ああ! 体が……」

 リリーの声など聞こえないとばかりに奥へと入って行った。

「ママー!? ママー!!? 大丈夫かな〜!!!」

 どこまでも純粋なリリーが一人母の体調をただただ純粋に心配をしていたのだった。

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