第25話 うしろじゃなくて

結局その日、俺たちは朝以降も小咲さんから話を聞くことができなかった。


 休み時間のたびに接近はしてみたものの、遂に逃げられるようになってしまったのだ。


 追ってみても、彼女はとてもすばしっこく、独自の逃走ルートがあるのかと疑いたくなるほどに上手くまかれてしまう。


 完全にお手上げ状態だった。


「「はぁ……」」


 そんなこんなで、ため息の出るような放課後。河川敷の運動公園にあるベンチにて。


 俺は三月さんと二人きりでそこへ座っていた。


 何度も言うけど、本来なら喜ばしい状況であるにもかかわらず、俺たちの間に流れてるのはドキドキ感じゃなく、落胆の空気。


 小咲さんに関してまったく進展せず、むしろ逃げられてしまうほどに展開は悪くなった。


 あれだけ頼れるキャラみたいな感じで「小咲さんのとこへ朝イチで行こう」なんて言ってたのに、これだ。さすがにダサすぎるし、接近方法として間違えてたかもしれない。


 ただただ、三月さんと、それから小咲さんにも申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


 どうしようか……。


「三月さん、なんか今日はごめん。かえって状況悪くしてしまった……」


「い、いえ、そんな……! 関谷くんは謝らないでください。悪いのは……私です。こういうのは……男の子より、同性の自分がもっと寄り添ってあげないといけないのに……」


「……いや、そんなことはないよ……。俺が――」


「あります。友達になりたいって最初に言ったのは私で、つくしちゃんが気楽に何でも話してくれるような雰囲気を作らないといけなかったのに、それができなかったんです……。だから、これは私のせいなんです……」


「……っ」


「……もっと言えば……今日じゃなくて、やっぱり昨日の段階で何があったのか、話してもらえることだけでも話してもらうべきだった……。私、つくしちゃんの友達失格です……」


 言って、キュッと唇を結ぶ三月さん。


その落ち込みようは痛いほどに伝わってきた。


 この状況、俺にやれることは何なんだろう。


 お節介なことはするべきじゃない。けれども、小咲さんが突然気まずそうにし、俺たちを避け出した原因を探りたい。そして、また友人関係を構築できるような関係に戻したい。今は、それすらもできなくなってしまったから……。


 考えてみたけど、すぐには浮かんでこなかった。


 俺たちの間にはしばらく沈黙が流れ、そうしてるうちに気付けば夕日の色が濃くなってくるような時間帯になってしまっていた。


 ここから駅までは少し歩かないといけないし、あんまり遅くなりすぎてもダメだ。俺はベンチから立ち上がった。


「もう今日は仕方ない。とりあえず、帰ろうか」


「……そうですね……」


 立っている俺を少しだけ見上げながら言って、またうつむきがちになってしまう三月さん。


 ちょうど風が吹いて、綺麗な黒髪がサラサラと目元を隠してしまったけど、それもあまり気にせず、思い悩んでるような表情を浮かべるばかりだ。


「……関谷くん」


「ん?」


「明日は……ちょっと、私自分で動いてみます……。いつまでも、関谷くんのうしろにいるだけじゃダメだって……自分でやってかなきゃって思った……ので……」


「……うん、わかった」


「け、決して関谷くんのことを煩わしいとか、そういう嫌な感じのことを思ったからってわけじゃないですから、それは勘違いしないでください……! お、お願いします……!」


「大丈夫だよ。それもわかってるから。頑張って」


「は、はい……! 私……一人で頑張ってみます……!」


 そういうことになった。


 俺は俺で、家に帰ってやれることを探してみよう。


 兄貴としては、あんまりこういうことで頼りたくはないけど、つばきに相談してみるのもいいかもしれない。


 ……そうするか。


 静かに心の中で決め、駅前まで三月さんを送るために、俺は歩き出すのだった。

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