第23話 嫉妬? シット?
「………………」
「………………」
流れる沈黙と気まずさ、それから沈みかけている夕陽。
夕方と呼べる時間帯になった午後十七時。
俺と三月さんは、駅を目指して歩いていた。
二人きりだ。
それは本来ならば喜ぶべきことなんだろうけど、この時ばかりはそうもいかなかった。
「関谷……くん……」
わずかにうつむき、ぽつり、ぽつり、と押し出すようにして名前を呼んでくる三月さん。
俺は短く、小さめの声で「うん?」と反応してみせた。
「私……、つくしちゃんに一度も『大丈夫?』って声かけてあげられませんでした……」
「……」
「……あの人たちと会ってからつくしちゃん、ずっと無理して私たちに合わせてくれてたみたいな気がして……。だから、その……」
「……うん……」
「っ……」
「……」
「………………」
何か、最もらしい言葉を探しているのか、それとも自身の不甲斐なさを責めているのか、三月さんはしぼんでいくかのようにして、黙り込んでしまった。
けど、それは俺も同じだ。何も言えない。
ゲームショップで起きた一幕。派手目な女子二人組と小咲さんの関係は、推測こそ簡単ではあるものの、そこに俺や三月さんが容易く踏み込んでいけるような雰囲気がなかった。
いや、雰囲気がなかったというのは違う。正確に言えば、雰囲気を消されていた。
小咲さん本人が触れてくれるなという空気感を出していたんだ。
だから、ゲームショップの後に行ったカラオケの最中、あの二人との関係性について聞こうと思えば聞けたはずなのに、俺たちはそのことに対し、上手く触れることができなかった。
それは無理やりにでも触れることだったとしても、その時の俺たちと小咲さんとでは関係性が薄すぎる。
気さくに明るく振舞ってくれていた彼女との、決定的な友人としての溝を突き付けられた気分だ。
三月さんからしてみれば、はっきり言わないけど、それが一番ショックなんだろう。その程度のことなら、なんとなく察することができた。
「三月さん」
「……はい」
「明日さ、朝一番で小咲さんのとこ行こうよ」
「朝一番で、ですか?」
「うん。こういう人間関係とかってのは……んーと、そう! 鮮度が大事っていうか、なんでも問題が起こったらすぐにその人を放置せずに関わり続けることが大事だと思うんだ」
「なるほど…………。……ふふっ」
「? なになに? どうかした?」
笑われるようなことを言った覚えはないけど、三月さんは唐突にクスクス笑う。
疑問符を浮かべる俺を見て、彼女は薄っすら微笑んだまま、首を横に振った。
「鮮度っていうのが、面白い表現だなと思いまして」
「あ、ああ、なるほど。でも、ほんとにその通りだと思うよ!? 友達同士でさ、喧嘩してずっと放置してたらなかなか仲直りのタイミング掴めなくて、そのままズルズル不仲なまま終わるとか、ありそうだし!」
何でかわからないけど、俺は一人であたふたしながら説明。
すると、三月さんはまたそれが面白かったのか、楽しそうに笑った。俺は続ける。
「と、とにかく! せっかく三月さんに小咲さんっていう友達ができたんだ! そりゃすごい仲良さそうで嫉妬したりはしたけど、二人のために俺はできることをやろうと思うよ! うん!」
「嫉妬……ですか?」
「え?」
「今、関谷くん……嫉妬したって言いました? 私が……つくしちゃんと仲良くして……」
「…………? ……っ!」
「それは……ど、どういう……?」
ハッとした。
マズい。つい、本音が漏れてしまっていた。速攻で軌道修正を図る。
「いいいいや、それはその、なんていうか、嫉妬じゃなくて……そう、シット! 英語のシット! 外国の人とか、よく何か失敗とかしたら『sit!』って言うでしょ!? 座って何でも反省って意味だよ! ナハハハ!」
「……外国の方が使われるシットは、たぶん『shit!』だと思います……。悔しい時に叫んだり……」
「え!? あ、うぇぇ、そ、そうなの!? ぜ、全然知らなかったなぁ! は、ハハハ!」
「むー……」
頬を染め、何か言いたげにもじもじしつつ、チラチラと上目遣いでこちらを見てくる三月さん。
俺はそんな彼女を前にして、バカみたいにわざとらしく笑うことしかできなかった。
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