第16話

 神父によって撃ち抜かれたミリアは、地面に崩れるように倒れた。

「ミリア!」

 アルス本人にも理解ができた。《覚醒》とは制御している《力》を全て開放すること。そして、人間からドラゴンへと変化させること。

ドラゴンはその絶大な力によって神と崇め奉られた。人は神を崇拝し、ひれ伏し、運命を委ねた! 僕は今!ドラゴンの力を支配し! そして世界を救済する!」

 神父は両手を広げ、歓喜の思いを顕にした。

 ミリアを目の前で撃たれたアルスは、怒りのあまり自我を忘れ、《力》が全身を駆け巡る感覚を覚えた。しかし、左腕の制御で精一杯のアルスにとって、神に匹敵するその《力》は、あまりにも強大すぎた。

「無駄だ! いい加減おとなしくしろ! 僕の言うことを聞いて世界救済の度に出るのだ!」

 アルスの身体は左腕のみならず、右腕、左脚、右脚も厚い銀色の鱗で覆われた。背中から左側にのみ巨大な翼が生え、上半身の胸から下も鈍い銀色に覆われようとしていた。

 抵抗していたアルスの意識は次第に薄れ、破壊の感情に蝕まれていった。

 神父は喜びのあまりアルスだった銀色のドラゴンにに抱きつく。

「素晴らしいぞ! 素晴らしい! もう少しで完全にドラゴンとなる! 後もう少しだ!」

 歓喜の舞をやめない神父に対し、アルスは目線を決して外さなかった。

 そして、神父がドラゴンの身体から離れた隙をつき、神父に向かって腕を振り下ろした。鋭い爪は神父の胸を裂き、骨を覗かせた。

 神父は一瞬呆気にとられていたようだが、すぐに状況を察した。先程とは違う種の微笑みがあった。

「おぉ、神よ……最初に私を……選んでくっ……くださるのですか……身に余る……光栄……で……」

 胸から大量の血を流し、神父は地面に伏し、息絶えた。


 廃村の中でただ一人意識があるアルスだが、その意識も徐々に失われようとしていた。

 完全なるドラゴンの姿に変化することはなかった。片翼を真っ直ぐに伸ばした直後、銀色の身体は倒れ、動かなくなった。


 村は人里離れており、半竜人ハーフドラグナーの存在も知られることがないまま、誰の目にも止まることなく、誰からの救済を得ることもなく、ただ、歴史の波に埋もれていった。

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