第8話

半竜人族ハーフドラゴニア……要するに人間族ヒューマニア竜人族ドラゴニアとの混血種だァ。あまりの強さに《神》と恐れられた竜人ドラグナー人間ヒューマーの子となれば、さながらキミは半神と言ったところかねェ」

半竜人族ハーフドラゴニア……」

 まじまじと興味深げにアルスを見つめる占星術師をよそに、「お前は人間ではない」と宣告されたアルスは複雑な感情を隠せずにいた。

「そもそもお前は何故俺が人間ではないとわかるんだ。それに、さっきだって俺の考えていることを……」

「言わなかったかァ? ボクは国に雇われた占星術師だァ。これくらいなら造作もない」

 どこか腑に落ちないが、アルスは納得せざるを得なかった。占星術師は続ける。

「さて、肝心のキミの職業についてだがァ……」

 そうだなァ……と占星術師は悩んでいた。適正職がわからないというわけではなく、どう伝えれば良いか判断しかねている、アルスにはそう見えた。しかし、そうなる理由まではわからなかった。

「……よし、戦士ということにしておこう」

「ということに……? どういうことだ。えらく歯切れの悪い言い方だが」

 すかさず疑問を呈したアルスに占星術師は応える。

「さっきも言った通り、キミは半竜人族ハーフドラゴニア半竜人ハーフドラグナーだァ。職業がなくたって生きていける。ただ、この国では何らかの職業に就かなければならない。ニートはご法度というわけだァ」

「ニート?」

「……こちらの話だ」

 なおも占星術師は続ける。

「というわけで、キミのその半竜人ハーフドラグナーとしての《力》を最大限に引き出しつつ、職業としても成立する職業を考えていたァ。生身で闘う武闘家も考えたが、あまり《力》を使いすぎるのも考えものだと思ってねェ。であればァ、自前で剣や盾を使えるようになれれば《力》に頼る必要も少なくなる、というわけだァ」

「《力》を使いすぎると良くないのか?」

「未熟な者が強大な《力》を手にした時、およそ最後に行き着くのは破滅への道だよォ。ボクはそんな愚かな人間ヒューマーをたくさん見てきた。うんざりするほどね」

 淡々と述べる占星術師だったが、最後は少し物憂げに見えた。

「キミには、そんな運命を辿ってほしくないんだァ」

半竜人族ハーフドラグナーだからか?」

「もちろんそれもあるがァ、ま、老婆心ってやつさァ。こう見えて、結構長生きしてるからねェ」

 占星術師は自虐的に笑ってみせた。目の前の男が何歳なのか、アルスには検討もつかなかった。自分と同じくらいと言われればそう見えるし、50過ぎていると言われれば、そうとも見えた。

「……さて、適性試験はこれで終了だァ。部屋から出るといい。また会おう」

 適性試験の終了が告げられた。占星術師は座ったまま動かない。

「また会う?」

「この後の訓練、ボクが担当する」

「占星術師はそんなフィジカルなこともできるのか?」

 占星術師から訓練の師事を受けることを告げられたが、アルスは今ひとつ納得できなかった。あまり大きな声では言えないが、体力に自信があるようには見えない。

「体力がなくともねェ、師事はできるのさァ」

 また心を読まれた。

「キミのその《力》は竜人族ドラゴニアほどではないが、それでも素人が扱うにはあまりにも危険な代物だァ。今では《力》を出すことさえ自由にできないだろうが、これからの訓練で戦士としてのスキルレベルの底上げとともに、《力》の使い方もレクチャするから、覚悟するんだねェ」

「……わかった、よろしく頼むよ」

 これからの目標が定まり、道が定まったようにも思えた。アルスは席を立ち、占星術師がいる机に背を向けた。ドアノブに手をかけると、占星術師が声をかけた。

「必要はないと思うが、ひとつ誤解を解いておこう」

「なんだ?」

「ボクは男じゃあない」

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