第7話

「君ィ、人間ヒューマーじゃないねェ」

「!?」

 受付を済ませ、アルスが一人で目の前のドアを開けると、茶色の短い髪をうねらせた人間が立っていた。茶色の目を持ち、背丈は頭がアルスの鼻にくる程度で、ちょうどミリアと同じくらい。黒いローブを羽織っており、部屋の明かりが消されているため、生首が浮いているように見えた。

 咄嗟の出来事でアルスは口を開けたまま言葉を発することができずにいた。

「まァ、座り給えよォ」

 占星術師はそう言って後ろを振り向くと、部屋に明かりが灯された。中は木造で、広さはアルス達が泊まっている宿一部屋ほど。真ん中に机と椅子があり、机の上には両手で支えて持てる程度の大きさの水晶玉が鎮座していた。机から転がり落ちないようにクッションも敷いてある。それ以外は部屋を見渡す限り何もない。

 占星術師が机の向こうにある木製の簡素な椅子に腰をおろす。それを見たアルスが同じように手前側の椅子に腰掛けた。目の前に座る占星術師と水晶玉の組み合わせがアルスには少し不気味に思えた。一息つくと、占星術師が再度口を開く。

「一応聞くが、今からここで何をするのか、聞いているかなァ?」

「……ざっくりとは」

 昨日ウルフから聞いた内容を、受付でも教えられた。受付終了後に一人ずつ指定された別々の部屋に入り、中にいる占星術師から占いの施しを受ける。そして適正職が決まれば部屋から退室し、受付に適性試験が終わった旨を伝える。そこから先は訓練となるため、改めて説明が入る。

 妙に間延びした喋り方と、明かりが灯ったとはいえ窓がなく微妙に薄暗いままの部屋にアルスは精神的に気圧されていた。

「話が早ァい、良いことだァ。じゃ、始めるよォ。……とはいえェ、もう水晶コレを使う必要はないんだけどねェ」

「そいつを使って占うんじゃないのか。それにさっき俺のことを人じゃないって」

 場の空気に慣れてきたのか、アルスは占星術師に質問する余裕が生まれた。

「人ではあるよォ。人間ヒューマーじゃないだけだァ」

「まさか……」

 王都へ向かう途中、自身の左腕の変化を思い出していた。もしかしたら自分は竜人族ドラゴニアかもしれないと……。

「そんな大層なモンじゃないよォ」

「何っ!?」

 声に出さず頭に思い浮かべていただけのことを、この占星術師は読み取り、そして否定した。

「しかしィ、それに近い存在ではあるようだねェ」

竜人族ドラゴニアに、近い存在……」

 占星術師は水晶を見ず、アルスの目をじっと覗き込む。部屋の中はじっとりとした空気に包まれていた。

「もしかしたら竜人族ドラゴニアよりも希少かもねェ。竜人族ドラゴニアであれば、ボクでも見たことはある」

 ドラゴニアを見たことがある? この男は一体……。

「ボクは大したことないさァ。問題はキミィ。キミはァ」

「俺は」

 なおも占星術師は不気味に微笑む。まるで、彼の運命を握っているかのように。


半竜人族ハーフドラゴニアだ」

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