スターブル(2)

 内山の執行を完了したバチ達は事務所に一旦戻ろうと、事務所付近の駐車場に車を止めた。辺りを気にしながら少しだけ歩き、事務所にも着いた三人はとりあえず居間に入る。


「結構疲れましたね」


「シヅクちゃん、忙しくなるのはこれからよ」


 二人は畳に座るが、バチだけは立ったまま考え事をしていた。


「ではおさらいしましょう。私が内山から聞き出した情報によると、スターブルのメンバーは33人、拠点は主に二つ。一つはここから東へ行った繁華街のクラブ『Uncut thread』、それと隣町の『埠頭B第二倉庫』。どっちからいく? それなりの準備が必要だと思うけど、とりあえず、阿吽達と一度合流した方がいいんじゃない?」


「私もどちらに行くにしても、ザイ達と合流すべきだと思う」


 朱里とシヅクが話を、上の空で聞くバチは無言で事務所を出ようとする。


「ちょっとバチさん、どこ行くのよ」

 慌ててシヅクがバチを引き留める。


「Uncut threadに行ってくる」


「えっ、今から?」


「ああ」


「どうしたのよ、急に」


「少し気になる事がある」

 バチは内山が吐露した言葉に何か引っ掛かりを感じていた。バチはそのまま、事務所を出て行く。



「阿行、これから繁華街の『Uncut thread』に向かうけど、そっちは来れる?」

 朱里はバチとシヅクの後を追いながら阿行に応援の電話をする。


「――今、新たにもう二人攫った所だ。それが片付いたら向かう」

 阿行達は今も尚、スターブルを狩っていた。


 三人はその阿行達と合流の約束はしたものの、それを待たずして『Uncut thread』に乗り込むのであった。


「バチさん、私達だけで本当に大丈夫?」


「ああ、問題ない」


「問題ないって……」


 何人の相手が待ち受けているかもわからない敵の本拠地へ向かうのに表情一つ変えないバチに、心配そうな眼差しを送るシヅクだった。


 シヅクが車を20分ほど走らせ、『Uncut thread』付近のコインパーキングに車を停車させた。それから三人は徒歩で『Uncut thread』まで行きと、入り口の死角から店の様子を観察する。


 『Uncut thread』の前には、身長180cmほどでガタイの大きな男が一人立っていた。いわゆる門番である。


 バチは普通に店の入り口へと歩いて行く。


「ちょっと、バチさん!」

 シヅクは慌てて止めようとするが、時すでにおそし、バチは入り口の男の前に堂々と立つ。


「本当に仕方のない人ね」

 シヅクと朱里は急いでバチに追いつく。


「お前達か?」


「ああ」


 悟ったような口調でその男とバチが言葉を交わすと、男は店の扉を開けた。


 バチ達は扉を開けた男の横を通り中へ入って行く。中へ入ると今度は一人のウエイターが、バチ達を奥へと案内した。


「なんか、思ってたのと違うんだけど」

 シヅクは辺りをキョロキョロと見渡しながら、か細い声でバチに囁く。


「ああ、どうやら俺達が来る事がわかっていたみたいだな」


 入り口を入りすぐに右へ曲がると、左手にはバーカウンターがあり奥には豪華なソファーがいくつも置いてある。6人程が座れそうなソファーが8席ほどあり、スターブルのメンバーと思われる男が点々と立っている。

 その間を抜けさらに奥へ進むと、一番奥にあるU字型で10人用の豪華な長ソファーがあった。そこにはスターブルのメンバーと思われる者達がいる。


 ソファーには三人の男が座る。その男達の間を挟むようにフロアレディーが座り、そのソファーの後ろには、護衛であろう二人の男が立っていた。


「いらっしゃーい。まあ、座りなよ」

 長ソファーの真ん中に座る男がバチ達に言う。


 朱里は「なかなか趣味の悪いソファーね」と言い、スターブルとテーブルを挟んだ向かいの一人掛けソファーに腰を掛け膝を組む。

 一人掛け用ソファーは全部で五つ、バチとシヅクも朱里を挟むようにそれぞれが一人掛け用ソファーに座った。


「オタクらだろ? うちのもん達を狩っているのは」


「そうだ」

 

「あなたが、リーダーの拓馬真? 写真と顔がだいぶ違うようだけど」


 朱里の問いに男は「ふっ」と笑い、両手を広げた。


「残念、俺は高橋たかはし一颯いっさ。スターブルのNO3だ」


「NO3にしては、なかなか態度が大きいのね」


「まあ、そう言うなって……で、どこの組だい?」


 朱里と高橋の話は続く。


「何処の組って言われてもね……バチさん」


「ああ」


「しいて言うなら、花組ってとこかしら?」


「どこかの歌劇団みたいだな」

 高橋は静かに笑った。


「てっきり、大勢で襲い掛かって来るものだと思ったのだが」

 バチは言う。


「俺はそんなに野蛮じゃない。拓馬と斎藤はイカレてるがな……」

 

 高橋が手を掃う様な仕草を何度かすると、男達の間に座っていたフロアレディーが揃って立ち上がり席を外した。


「ここからは、大人の交渉をしよう」

 高橋はテーブルに肘を付くと真剣な眼差しで朱里達を見つめた。


「では、私達から先に言わせてもらうわ」

 朱里は高橋の前に座ったまま両足をテーブルの上に乗せ言う。


「おい、お前! ふざけんてんじゃ……」

 高橋の隣に座る男が語気を荒げる。


「大倉ぁーー!」

 それを高橋は静止させた。


「す、すいません」


 高橋は頭を下げた男の頭に手を乗せ

「コイツは大倉、そして左にいるこの男が板橋だ。お前の標的に俺達の名前はあるかい?」と、尋ねる。


「何故か、ないわね。どうしてかしら」


「俺達の方にもない名だ」


「そうだろ? 俺達はこんな成でも人様の迷惑にならないように努力してんだぜ」


「よく言うわね。交渉も何も私達の要求はスターブルの壊滅もしくは解散よ」


「はっ?」

 それを聞いた大倉と板橋の表情が一瞬に険しく変わる。


「ちょ、ちょっと朱里さん」

 シヅクはバチと朱里のペースについていけず一人オロオロとしていた。


 しかし、高橋はそれを聞き手を叩くと、大きく笑い出した。

「ハッハッハッ、わかり易くていい! OK、変に言葉を濁されるより信用できる」


「何がおかしい? スターブルであれば、お前達もそのターゲットだぞ」

 バチは落ち着いた口調で高橋に言う。


「ここにいるメンバーは俺を慕ってくれている者だけだ。ちなみにその口調だと、お前達の依頼主は表の人間だろ? 反社会勢力ではない筈だ」


「そうね」


「じゃあ、簡単だ。俺達と組まないかい?」


「はぁ?」

 シヅクは意味が分からなかったが、バチと朱里はなんとなく高橋が何を言いたいのかがくみ取れた。


 スターブルのリーダーの拓馬真と副リーダーの斎藤宗は互いに絶対の信頼を置き、密な関係で繋がっている。そして、拓馬と斎藤の束ねる部下達はその命令に絶対服従であり、指示があれば相手が誰であれ手段を択ばず、目的を完遂する。


 対してNO3の高橋の部隊は、スターブルに反対する組織の対抗手段として活動を主とされてきた部隊であった。

 

 そんな高橋は拓真と斎藤に愛想を尽かしていた。


 反対組織と対立するとなると、それなりのリスクと負傷を被う者が多い。だが、うまい汁を吸うのは決まって拓馬と斎藤で高橋はそんな体制に嫌気が差していたのだった。


 そこから話はとんとん拍子に進む。高橋の提案はバチと朱里達にとってもメリットが大きかったようだ。


「何しろ、アイツらには仲間に対する愛がない」

 バチ達は、その言葉で何故か高橋を信用できそうな気がした。


「いいのか? 俺達はお前達の組織を潰すぞ」

 バチは高橋に念を押す。


「ああ、いいさ。スターブルは解散させたらいい。俺はそこから別の組織を立ち上げるだけだ」

 あっさりとそう言い切る、高橋に朱里は頷く。


「なるほどね。じゃあ、交渉成立って事ね」


 こうして、バチ達と高橋達は手を組む事となった。


 

 遠い未来の話で、後にバチ達は高橋に救われる事となる。

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