未成年の悪(中)

「やっと俺の出番だな。」

 ザイは 水槽に溜めた水をバケツで汲んだ。


「順三さんお宅の娘さんね、山下雫がトイレに行くたびに水を浴びせて楽しんでたらしいですよ。」

 ザイは汲んだ水を勢いよく順三に浴びせた。


「ブハ、何をするんだ貴様」


「俺から説明してやるよ順三さん。アンタはこれから山下雫が受けてきたを受けてもらう。それに全て耐えきれたら、アンタに山下雫を殺させてあげるよ」


 ザイの言う事に驚いた様子の順三は、慌てた素振りでバチを問いただした。

「バチさん、どういう事ですか? 話が違いますよね」


 バチは順三の問いに答える。

「先ほど了解は頂いた筈ですが……。罪と罰は平等でないといけない。娘様がなされた行為において、親権者であるあなたには責任を取る義務がございます」



 誰もが言葉を発せず、部屋は静寂になる。



 ふいに順三が口を開いた。

「はは、そう来たか! やろう、やってやろうじゃないか。所詮、子供達のじゃれ合い、たかが知れてる。それをいじめだとかどうとか大袈裟なんだよ!」


 バチはボソっと呟いた。

「お前みたいな親がいるから子供達が不幸になるんだよ」


「えっ?」

 はっきり聞き取れず順三は聞き返したが、バチはせきばらいをし続けて話し出す。


「失礼しました。それでは両者とも承諾されたという事で始めます。これより先は雫様本人におこなって頂きます。」

 バチの合図に受けザイは、雫を括り付けていた縄をナイフで切る。


「じゃあ こっちね。」

 ザイに連れられ順三の前へ歩み寄る雫。雫は戸惑いながらもバチとザイの言われるがまま黒い袋の中身を取り出した。


「2005年6月22日、本当にこんな事をするんだと思った。私の椅子には接着剤で画鋲がびょうがくっつけられていた。私は「嫌、止めて」と言ったけど、例の5人は私を押さえつけ強引に椅子に座らされた。あまりの痛みに泣き出した私を見て5人は笑っていた。」

 

 バチがメモを読み上げるとザイは順三を無理やり立たせる。

「なんとも古典的ないじめだな。さあ雫さん、それを置いてあげて」


 雫は困惑した表情で黒い袋に入っていた画鋲を椅子に散りばめた。


 ザイは半ば強引に順三を椅子に座らた。順三は苦痛の顔を示し「うぅっ」と、痛みと我慢が併せ持ったうめき声を上げる。


 バチはメモの続きを読む。

「痛みで泣き出した私に「涙を拭いたら」と恵は言い、汚水まみれの雑巾を顔に塗り付け、そしてまた笑った。」


 ザイは異臭の放つ雑巾を黒い袋から取り出し

「さあ、雫さんもお父様の顔を拭いてあげないと」

と、それを雫に渡す。

 その雑巾を雫は無表情な顔つきで順三の顔に当てた。

「うぶっ、プッ」

 嫌そうに首を左右に振る順三。


「違うだろ! こうされたんだよなー」

 ザイは落ちた雑巾を拾い、順三の顔に強く押し当てる。


「うぐっ……ガガガ……」

 順三はもがき、必死の抵抗でザイの手を払いのけ呼吸をした。

「はぁはぁはぁ」

 順三は息を荒くする。

 

 雫はそんな順三の様子を見て複雑な顔を浮かべている。


 バチは気にする事なく淡々とメモを読み上げる。


「2005年6月23日、トイレに入っている所をまた水をかけられた。また保健室を借りて、体操服に着替えた。」


 ザイは水槽から汲んだ水をまたも勢いよく順三に浴びせた。

「この役は重労働だから、俺が手伝ってあげるよ。何せ、これからこの水を何十回もかけないといけないからね」


 その後もバチはメモを読み続ける。


「2005年6月23日同日、またも校舎裏に連れて来られた私は、お腹を数回蹴られた。グループの一人、山名君が吸っていた煙草を恵は取り上げ、私のふとももに押し当て消した。たまらず、悲鳴を上げた私に「うるさい」と言い、頬に平手打ちをされた。」


「2005年6月24日、今日を耐えれば明日は土曜日。明日になれば恵達に会わなくて済む。両親はこの事を知らない。両親には心配かけたくない。只、私はいつまで耐えられるだろうか? クラスの皆は見てみぬフリで誰も助けてくれない。」


「同日、今日は持ってきたお弁当にミミズを入れ「食べろ」と、言われた。抵抗した私を五人がかりで押さえつけ、無理やり食べさせられた。あまりの気持ち悪さに私はたまらず机の上に口に入れた物を吐き出してしまった。その様子を見た恵は、私の顔を机に押しつけ「お残し厳禁、残せばもっときつい罰与えるよ」と言い、吐いた物を無理やり食べさせた。」


 雫のメモを次々とバチに読まれていく。


「……蜂を服の中に入れられた。」


「……便器に顔を突っ込まれた。」


「……頭から生ごみをかけられた。」


「……トイレのホースで首を絞められ気絶した。いじめが、どんどんエスカレートしていく。」


「……体育館の倉庫で男子2人に裸にさせられた。」


「……体操服を取られ、下着姿で授業を受けた。」


「……靴の中に生きたままのムカデを入れられ歩かされた。

ムカデに刺された痛みでうまく歩けない。」


「……大量を蟻をご飯にかけられ食べさせられた。」


「……腕とお腹に煙草を押し当てられやけどした。」


「……煙草によるやけど跡をお腹に無数につけられた。もうこの身体は誰にも見せられない。」


「……省略」



 数えきれない程のいじめの内容を次々とバチが読み、ザイが雫にそれを再現させていく。

 怒りに満ちていた順三の顔は次第に元気をなくし、草臥くたびれた様子へと変わっていった。


 ザイは椅子に座る順三を見下し

「順三さん、最初の勢いはどうしたんですか?ようやく8月に入った所ですよ。娘さんは、夏休みも雫さんを呼び出しては、いじめを行っていたみたいですね。しかし、ここまでするかね-。怖いね、最近の中学生は」と、威嚇にも見える態度で言う。


 今にも音を上げそうなほど辛い顔をした順三であったが、それよりも先に音を上げたのは雫の方だった。

「もういい、私はもうやらない。気分が悪い!」


 バチは「もう良いのですか?」と、雫に問いただした。


「殺すなら殺して! 私は恵達のようにはできない。こんな事しないといけないなら私は死にたい。復讐したい訳でもないしもう思い出したくないの」

と、雫は涙ながらに訴えた。

 

 雫の涙ながらの訴えを目にしたザイは、静かに順三に話しかける。

「分かるか、おっさん。これがあの子の声だよ」

 順三は困惑の表情を浮かべ、一切言葉を発せないでいた。

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