海外旅行で大怪我をして半年。今では国民的アイドルの恋人です

如月蒼

海外旅行で大怪我をして半年。今では国民的アイドルの恋人です



晴天の霹靂とはまさにこのことだなと俺は思った。 

 

なぜそう思っているのかと言うと……俺は今、絶世の美少女に抱きつかれているのだ。


この状況を語るには数刻前に遡る必要がある……





◆ ◆ ◆






「よく頑張ったね。」



「これからは体を大事にね。」



 俺こと皆川慎也は半年程前GWを利用して行った趣味の海外旅行で大災害に合いとある事が理由で右腕を酷く損傷していた。そのため、医師には後遺症が残る可能性が高いだろうと診断されており、治療とリハビリを兼ねて半年間もの間入院をしていた。


そして半年後の現在、努力をしてリハビリをしたのが功を奏したのか当初、担当医が言ったとおり後遺症は残ってしまったものの非常に少ない後遺症ですみ、細かい動作をすることは難しいのだが日常生活を送る事には不安がない状態にまで回復した。



退院後は上京していたと言うこともあり、両親が介護士を雇うと言っていたが俺は自立のためそれを辞退し今まで通りアパートから高校に通うことにした。



事態が一通り落ち着き学校へ復学するとクラスメイト達は皆揃って労ったり心配していたなどと言ってくれた。






◆ ◆ ◆






無事復学一日目が終わり部屋で寛いでいた時、不意にインターホンが部屋になり響いた。



ネットショッピングも誰かが訪ねてくる予定はないのにも関わらずその突然の来訪を告げる音に首を傾けながら俺は部屋の扉を開ける。



「あの、ここは皆川慎也さんのお宅でしょうか?」



目の前に天使がいた。そのまるで天使と見間違えるような絶世の美少女は見るからにサラサラで整っている茶髪を揺らし少しばかり控え気味で上目遣いをしながら尋ねてきた。



「あ、はい確かに俺は皆川慎也ですがなにかご用でしょうか?」



俺はその美貌に唖然としながらも我を取り戻し少しばかりたどたどしいが返答をする。



「そうでしたか!よかったです慎也さん!」



するとあろうことか目の前の美少女がいきなり涙を浮かべ抱きついてきた。



いきなりの事に押し倒されるような形になり身動きが取れなくなってしまった。



「お会いしたかったです慎也さん。半年前は命を助けていただきありがとうございました!」



「え?」



「まさか覚えていらっしゃらないのですか……瓦礫に埋まっていたところを助けていただいた琴峰雪奈です。」



「瓦礫……もしかして?!」



目の前にいる美少女改め、雪奈の言葉により俺は半年前に起こったことを鮮明に思い出した。



半年前のGWを利用して俺は今まで貯金してきたバイト代を全て使い、趣味であった海外旅行に一人で行っていた。

しかし、運が悪くその言った先の国で大地震が起こってしまい周りにあった建物が次々と倒壊していったのだった。俺自身は無事だったものの目の前の瓦礫から声が聞こえ一心不乱に瓦礫に手を伸ばし助け出したのが目の前にいる雪奈だったのだ。



その時は夢中だったため痛みなど気にならなかったがその時無理をした結果俺は瓦礫により右腕の健を切ってしまい腕が動かせなくなったのだ。



「慎也さんの事をずっと探していました。本当にあのときはありがとうございました。」



改めて雪奈は頭を深々と下げお礼を言う。



話を聞くとあの後雪奈は慎也の特徴と日本人であると言うことだけを便りに持ちうる全てのツテを使いようやく俺を見つけ出し会いに来たのだと言う。それにしても会いに来る価値もない俺に会おうとするその執念に驚きを隠し得られなかった。



「私聞きました……私を以前助けた際に健を切ってしまい腕が以前のように動かせなくなってしまったことを。」



「いや、気にしないでくれ。助けたことも俺の意思なんだし雪奈が気にすることはないさ。」



「いえ!それは私の責任でもあります!私にあなたのお世話をさせてください!」



胸に手を当てそう意気込む雪奈に「日常生活は十分に暮らせるくらい腕は動くから……」と言うもののまるで小動物の様な目を向けられて雪奈の負担も考えお試しで一週間面倒を見ると言うことに落ち着いたのだった。






◆ ◆ ◆






そうして美少女とそれに不釣り合いな慎也の共同生活が始まり数日。

 これと言って大きく変わったと言うことと言えば口調がお互いに砕けたと言う辺りだろうか。もう一つ言えば雪奈は完璧超人であった。

家事は何でも手早くすませられる上に料理も正直母親が作ったものよりも遥かに美味しかった。



今まで慎也の食卓はスーパーで買ってきた惣菜とカップ麺と言う非常に不健康なものであったが、今では健康に重視された色とりどりの料理が並んでいた。



「調理道具や調味料などは大方あったから色々と作ってみたよ。」



そう笑顔で言う雪奈の前には数が多く、盛り付けや色合いも完璧と言える和食が並んでいた。



そこには慎也の大好物である卵焼きやお吸い物、煮物などまるで高級旅館で出されるような和食のようだった。



「すっげぇ美味そう。」



「ふふ、そう言われると作りがいがあったと言うものね。さぁ料理が冷めてしまう前に食べてしまいましょ?」



そう言い、慎也と対面の席に座り手を合わせる雪奈を見て慎也も食事に手をつけ始める。

雪奈が来て何日か立ったものの目の前に美少女がいると言うことに未だに落ち着かないところがある上に毎回「上手く腕が使えないのでここは私が。」と雪奈が食べさせようとしてくるので恥ずかしいのだがそれを断り、ご飯に手を付けるとその美味しさのあまり恥ずかしさが消え去っていく。



一番始めに大好物の卵焼きを口に放ると優しい出汁が口内に広がり舌鼓みを打つ。



おかずなども口にするがどれも例に沿って慎也が好きな優しい味で何時しか食べることに夢中になっていた。



「すげぇ美味い。」



「ふふ、ありがと。」



 素直な感想を口にすると雪奈は目元を柔らかくして微笑んだ。和食を作るのは今日が初めてだったため口に合うか心配だったのだろう。



 それにしてもどの料理も慎也の好みにドンピシャであることからたった数日で慎也の好みをいち早く理解して調理をする辺りまさに超人というべきだろう。



 「本当に美味しそうにたべるわね。」



 「そりゃあ美味いもんは誰だって美味そうに食べるだろ?それに無表情よりも美味しそうに食べていたほうが作った方も気分がいいだろ?」



 「そりゃあもちろんそうわよ。」



 美味しそうに次々と料理を胃袋へ収めていく慎也を見て柔和な笑みを浮かべその様子を見守る雪奈の様子は慎也の思考を放棄させるには十分なものだった。



 「どうしたの?」



 「そんなに可愛い顔で見つめられたらこっちが恥ずかしいと言うかなんと言うか……」



 慎也の言葉に慎也と同じく顔を真っ赤にした雪奈は恥ずかしさのあまり口を開かなくなり、それをまるで誤魔化すかのようにあせあせと夕食を口に運び始めた。




 「ご馳走様でした。」



 「お粗末様です。」



 あれだけあった料理は綺麗さっぱり無くなり満足げに慎也が告げると雪奈は穏やかにそう答えた。

 その表情を見ると満足げで米の一粒すら残っていない皿を見て喜んでいるように見えた。



 「本当雪奈は料理が上手いな。母さんなんかとは比べものにならないくらいだ。」



 「女性の料理を親と比べるのはタブーよ。気持ちは嬉しいけれどお母様に失礼にあたってしまうわ。」



 「でも美味いんだもん。」



 「本当、慎也君は……」



 雪奈の料理の腕は一流でちょっとばかし齧った程度では培えないと言うものがわかる。



 もちろん年季だけで言うのならば母の方があるのだが母の味は質よりも量であるのだが雪奈の料理はその量を維持しつつも質も上でまさに計算通り作られた繊細な料理であった。



 呆れながらも満更ではない顔をする雪奈の反面、慎也の心は非常に悲しげであった。



 明日で約束の一週間は終わりである。

 この六日間雪奈は慎也が学校へと行く時間以外は常に家におり、ずっと慎也の手助けをしていた。

 正直に言えばこのまま介護されていたいと思う。事実雪奈が来てからと言うもの食生活は格段に向上した上に日常では家での会話が増え、慎也の心は最早、朱美に捨てられたことを忘れるほど温まっていた。

 しかし、このまま束縛していたいかと言うと答えは否であった。もし慎也がこのまま残ってほしいと言ったら雪奈は宣言通り世話をしてくれるだろう。だが慎也の世話をすると言うことは自分の人生の半分以上を慎也のために使うと言うことで個人の時間がなくなってしまう。 そのため慎也は明日で雪奈とは縁を切るつもりであった。



 「明日で一週間が終わりだけれど一ついいかしら?」



 慎也がそんなことを思っているのを感じ取ったのかどうかは分からないが雪奈はそう言った。慎也が続きを促すと雪奈は続けて口を開く。



 「その……明日はクリスマスだし思い出作りに一緒に出かけない?」



 そう入っているものの雪奈は何もかも察していると言う表情をして慎也にそう告げた。もちろん慎也には断る理由はなく二つ返事で了承をする。



 了承されたことに安堵したのか明らかに雪奈の表情から強張りが消えたのだった。






 ◆ ◆ ◆






 翌日の朝。慎也と雪奈は二人して学校を休みクリスマスの渋谷の街へと繰り出していた。



 男と出かける……つまりデートすると言うことが恥ずかしいからなのか雪奈はマフラーで顔の半分を覆った姿なのに対し、慎也は冬にもかかわらず薄いジャンパーを着たラフな格好だった。



 二人で駄弁りながら向かっていたのは映画館であった。思えば最初に抱きつかれテンパったりしてこともあり少しぎこちない距離感であったのが思えば恋人とまでは行かないが友人以上恋人未満という距離感になりこの様に気軽に映画に行けるような距離になったのを慎也は感慨深く感じていた。



 しかし、同時に不安でもあった。それは明日から会えないと言う気持ちもある。

 だがそれよりも自分がそう思っているだけで雪奈は自分のことをどう思っているんだろうか。二人きりで遊びに行く……まるでデートをしているということを。



 そう思いながら雪奈を見つめているとパッチリと目があった。



 「あ、いや何でもない。その……今は。」



 恥ずかしさのあまり慎也はパタパタと手を振り回す。ここ最近ずっとそうだ。雪奈と目が合うと途端に鼓動が速くなり恥ずかしくなる。しかしそんな慎也を見てもいつも雪奈は受け止めてくれる。今もなおじっと慎也を見つめ待っていてくれる。



 「そ、そのいくら思い出作りとは言え俺とデートみたいな形になって大丈夫なのか?」



 我ながらヘタレだなと思えるほどテンパりながら内容も内容である質問をする。

 短いけれど慎也にとっては何分にも感じられる沈黙が流れる。冬にもかかわらず首筋に汗が浮かぶ。視線の先では雪奈が不安そうな顔をして口を開いた。



 「もしかして映画嫌いだった?それとも私と出かけることが?もしそうだったのならごめん……」



 予想外の言葉に慎也は目を剥く。「ど、どうしよう。」と雪奈は呟き青い顔になっている。



 「いや映画はむしろ好きな方だし雪奈と出かけるのもすごく嬉しいけど……」



 「本当!よかった。さつえ……バイトが忙しくて今までは中々映画を見に行けていなくていつか行きたいなって思っていたの。」



 「そっか。じゃあ今日は思う存分楽しもうぜ。」



 慎也の言葉に雪奈は「うん。」と相槌を打ち微笑む。



 そうこうしているうちに映画館に到着し視聴する映画を決める。



 手元のスマホで上映中の映画を探す。二人して「「うーん。」」と悩み同時に言う。



 「「これで!」」



 「「えっ?」」



 タイミングは同じだったのに二人が指を指したのはそれぞれ違うものだった。慎也は女子も好きそうなディ◯ニー映画で対する雪奈はおおよその女子は見ないであろうホラー映画であった。



 お互い顔を見合わせるとどちらともなく笑い出した。なんだか楽しい。そんな思いが噛み締められる時間だった。



 結局、映画は二人が選んだものをどちらも見ることになった。雪奈が選んだホラー映画に関しては慎也が雪奈にしがみつくと言う些か本来とは違う形となったが雪奈が満足げにしていたのを見て慎也も満足感が十分得られていた。



 その後は二人で昼食を取ってデパートに行った(雪奈の試着会に疲れた。)頃には既に外は暗くなり始めていた。 



 「なあ雪n」



 「慎也君この後少し時間空いていますか?」



 非常に口惜しいものだが最後にケーキを買って帰ろうと慎也が雪奈に話しかけようとするが先に口を開いたのは雪奈の方であった。

 今までにないほど真剣な顔だったこともあり慎也はそれを了承する。

 すると雪奈は「着いてきて。」とだけ言い駅とは真逆の方向へと歩き出した。






 ◆ ◆ ◆






 雪奈に連れられ歩くこと十数分。目的地にたどり着いたとばかりに立ち止まった雪奈の前には巨大なビルが鎮座していた。



 彼女はそのまま顔パスで警備員がいるエントランスを抜けるとそのまま慎也にもついて来てとばかりに手招きをする。



 エントランスの雰囲気は如何にも「庶民は帰れ。」と言わんばかりの雰囲気でありラフな格好であった慎也は居心地が悪かった。



 雪奈について行くとその途中には如何にもマスコミですと言わんばかりの格好をしたカメラマンたちが押し合ってそれぞれの場所を取り合っていた。



 「ここよ。」



 雪奈の声に顔をあげるとそこは応接室なっており、席には一人の壮年の男性が座っていた。



 「君が皆川慎也君だね?」



 男性が慎也に気がつくと顔を上げ声を上げる。



 「はいそうですが……」



 「私は今色々と複雑な気持ちだから多くは語らないよ。だから社長としてではなく一人の父親として一言だけ言わせてもらうよ。……娘を頼んだよ。」



 決して恋人でもなんでもないのに娘を頼んだ。と言う言葉に慎也は疑問を呈したが、その頃には既に男性の姿も雪奈の姿もなく代わりに多くのスタッフと思わしき人物たちがいた。



 そのままされるがままにされているとメイクと上等なスーツを着せられいた。

 俺が事態を把握していないが周りは有無を言わさず舞台裏だと思わしき場所へと連れ出された。



 舞台裏には同じく服装が変わっていた雪奈がおり、「ついて来て。」と言う。



 俺が事態についていけず混乱した顔をしていると雪奈は「やっぱりあなたは気づいていなかったみたいだけど自分で言うのもなんだけれど私、一応国民的アイドルなの。それであなたにもこれからテレビに出てもらうわ。」



 そう言われて慎也は「は?テレビ?」と何度目かわからない思考の硬直が起こるがその頃には既に時遅し、慎也はテレビの前に立たされていた。



 カメラの前に立つと一気にカメラ特有のフラッシュが焚かれあたり一面が眩しくなった。

 そしてカメラマンたちは口々に「あの少年は?」などと慎也について口にする。



 ´皆様お集まり頂きありがとうございます。

 突然ですが皆様にご報告したいことがございます。´



 するとカメラマンたちも黙り込み固唾と雪奈を見守る。



 ´半年前ロケ中に起こりテレビ局側では私のみが生存した詳細が伏せられていた巨大地震ですが私は隣にいる彼、皆川慎也君によって瓦礫の中から助け出されました。´



 そう続き雪奈は当時のことについて事細かく記者に話していく。



 雪奈がなぜテレビに呼んだのかわからなかったが雪奈が国民的アイドルなのであるのなら体裁的にその命を救った者を呼びお礼を告げることが必要だったのだと一人で納得する。



 そう次に雪奈がぶっ込んだ爆弾までは……



 ´慎也君半年前は身を挺して私を守ってくれてありがとう。この一週間一緒に過ごして見てあなたの優しさに私はあなたに恋をしました。どうか私とお付き合いしてくれませんか?´



 雪奈が真摯な顔で慎也を見つめる。



 その瞬間舞台の時間が止まったかのように場が凍り付いた。



 カメラマンたちは表情を失いカメラを落とす者までいた。



 ´いきなり言われてもわからないと思うけどこれは私の告白よ。

 半年前、腕が傷つこうとも助けてくれたことも私のご飯を美味しそうに食べてくれていたところも楽しそうに話しているところにも全て私はあなたに惚れました。アイドルだから恋愛はNGにされていたけれど、アイドルをやめてあなたと時間を共にしたいと今は思っている。テレビの前で告白したのは私なりの誠意。その事をあなたに行動で示したかったから。´



 「俺も……俺も雪奈のことが好きだ。わざわざ腕の事を心配してくれて会いに来てくれた心も普段何気なく微笑んでくれるその姿も君の全てが好きだ!だからこちらこそ俺と付き合ってください!」



 突然雪奈に言われたことに頭が真っ白になったものの気づいた頃には思った事を自然と口にしていた。



 そう言うとどちらかともなく熱い抱擁を交わしテレビの前にもかかわらずキスをする。



 その様子に周囲は地獄絵図となっていたがそんな事は関係なく二人の大切な……一生に一度の舞台は止まらなかった。



 数秒なのか数分なのか熱い抱擁を交わし終えた二人を前にカメラマンは我に帰り再びシャッターを回す。それに気がついた慎也と雪奈は今更ながら恥ずかしさに顔を染めそれを紛らわすかのようにお互いの頬を優しくつねった。



 「これからよろしくね。慎也君私の愛しい人。」



 「こちらこそよろしく、雪奈俺の最愛の人。」



 そうして浮かべた二人の笑顔はこの空間において何よりも美しい物であった。



 「……ところで雪奈。その衣装すごい似合ってるぜ。」



 「……バカ。」



 慎也が雪奈にそう呟くと雪奈は顔を赤く染めて慎也の胸に顔を埋めて小さく呻くと言う最後は少し締まらない形で撮影は終了したのだった。









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