第49話 前へ3

 雨の中戦いは続いていた。

 いや、戦いとは呼べない、一方的な暴力だった。

 それでもラディすけは戦っていた。守人もそれを見届けていた。

「ハハハ、勇者の力ってのはそんなものか」

 シーザとともにそんなことを言いながら矢部は笑う。

「カイル、ここまででいいんじゃないか? もう存分に味わったろ?」

「そうだな高和。しかしこのシーザの目的はここからだ」

 シーザはラディすけを槍で突き、上空へと高く放り投げる。手にした槍をラディすけめがけ投げようとした。

 その時だった。ラディすけは激しい轟音とともに、落雷に打たれたのだ。

 雨のおかげでマフラーは燃えずに済んだが、ラディすけの体は所々焦げていた。

「ハーッハッハ! これで勇者も終わりだな! どうだい? 天野君、今の気分は?」

 守人は無言で焦げたラディすけを見ている。

「言葉も出ないか。無理もないよな」

 シーザはそういうと、トドメを刺そうと近寄ってくる。

「運がなかったな、ラディ」

 笑う矢部に、ほくそ笑むシーザ。しかしラディすけも守人もなす術がなかった。

「……てよ……」

 矢部は思わず聞き返す。

「立てよラディすけ! こんなところで終わるのかよ! 絶対諦めないのが勇者なんだろ!」

 守人の叫びは雨と矢部たちの笑い声によってかき消された。

「残念ながら勝負はあったみたいだね。でもいい顔だよ天野君。そういう顔を見たかったんだ!」

 守人は絶望に打ちひしがれていた。しかし最後の希望を、奇跡を信じ、ラディすけに声をかけ続けていた。


 まどろみの中にラディすけはいた。

「気持ちいい。ねむいからこのまま寝ちまおうかな?」

 目をつぶろうとすると、目の前に一人の男が現れた。

「おいお前」

「なんだ、アンタか。久しぶりだな」

「こんなとこで寝てていいのか? みんな待っているぞ?」

「いいんだよ。眠いんだから寝かせてくれよ」

「女も友だちも放っておいていいのか?」

「……」

「諦めねえんだろ? 絶対によ」

「そうだった、こんなところで眠るわけにはいかない。立ち止まるわけにはいかない」

 ラディすけは最後の力を振り絞り立ち上がる。

「そうだ、それでこそこのオレの、勇者ゼルトの称号を受け継ぐもの」

「ありがとなゼルト」

「なに。あ、そうだ」

 ゼルトは腰の剣を鞘ごと放って投げる。ラディすけはそれを軽くキャッチする。

「ゼルトの剣か。懐かしいな」

「そうだ、それで少しお灸を据えてやれ」

「ああ」


 それを見たシーザと矢部は驚き、守人は当然という顔をした。

「ちょっと眠っちまってたみたいだ。すまなかったなモリト」

「すぐ戻ってくるとわかっていたから問題ないよ」

 立ち上がっていたラディすけは剣を一振りする。するとクリスタルブレイドは炎をあげる。炎が収まると、クリスタルブレイドは変貌していた。

「その剣は……!」

「そうだ、シーザ『ゼルトの剣』だ」

 黄金の柄を持つその剣を見たシーザは、苦々しくラディすけを見つめる。

「カイル、ファーブニルたかが剣が変わっただけだ。殺せ!」

 一瞬躊躇した。生前見た勇者ラディの強さを思い出したのだ。しかしシーザはすでに襲いかかっているファーブニルとともに、勇者へと攻撃を開始した。

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