第32話 心通わせて2

 不調な毎日が続いていた。

 ヴァルきちはこのところ守人たちと会っていない。不調の原因はその辺なのだろうか? 

「たかがアイツらと会ってないだけで!」

 ヴァルきちはハウンドβに剣を叩きつける。

「おォー、さすがァ」

 鎌瀬は負けたのに満足そうな顔をしている。何故かは分からないが、満足げな顔のまま帰っていった。

「さあ、次の相手は誰だ!」

 ヴァルきちはイライラしながら剣を一振りする。

「ヴァルきち……一旦休憩にしない?」

「ミサ、もう一戦だけやらしてくれないか?」

 最近ヴァルきちの自己主張が激しくなってきた。ヴァルきちも壊れてしまったのだろうか? 再びあの時の、「ワーグ事件」の時のヴァルきちが思い出される。

 情緒不安定を絵に描いたような状態だった。

 泣いたと思ったら、激怒し暴れる。その後大笑い。よく分からないが、ワーグがリリースした修正パッチがまだあとを引いているのだろうか? 修正パッチの修正パッチを当てたというのに。

 今度はミサのほうが泣きそうになっていた。

「じゃあこのカイルが貴女と戦ってあげますよ」

 竜騎士が主人の手から降りた。

「転校生と坂下がバトルだってよ」

「こりゃ見ものだ」

「女房を質に入れても見に行かないと」

 ギャラリーが集まってきた。ヴァルきちも竜騎士も各々武器をかまえる。一瞬の沈黙の後、爆ぜるように互いに向け駆けた!

 気合の一撃を竜騎士に叩きつける。しかしその時点で竜騎士はすでに跳んでいた。

 ヴァルきちは上空を見る。しかし太陽光がヴァルきちの目に入る。竜騎士の姿はかき消えた。

「しまった」

 ヴァルきちは竜騎士のジャンプしての攻撃をまともに喰らう。吹っ飛んだヴァルきちだったがすぐさま体勢を整え、竜騎士に食ってかかる。

 ヴァルきちは連続で剣を叩きつける。しかしそれはいつもの精細さに欠けていた。

 竜騎士はいとも簡単に連続剣をかわしていく。

 ヴァルきちはそれに腹をたて、さらに攻撃が大味になる。しかし攻撃は当たらず、更にそれに腹をたて……悪循環だった。

 そしてできた大きなスキに、竜騎士は槍の一撃を食らわせる。ダメージは大きかった。ヴァルきちはゴロゴロと転がり、その中でもなんとか立ち上がろうとする。

「なんだ、大したことないんだ」

 鼻で笑う竜騎士に、カチンときた。

「フン、貴様ごときすぐ倒してやるからそこで待っていろ」

 ヨロヨロ剣を杖に立ち上がり、竜騎士に向かっていく。

「ヴァルきちもうやめよう。壊れちゃうよ」

「ミサ、大丈夫。必ず勝つ」

 そして駆けて行く。

「矢部くん。私たちの負けだよ。だからもう止めて!」

 矢部はその言葉を聞いて口角を上げる。

「やるんだ、カイル」

 高速の突きが、ヴァルきちを襲う!

 ヴァルきちは思わず目を閉じた。

 一秒後、目を開ける。そこには……!

「ヘッだらしねえなぁ」

 ラディすけだった。

「お、お前!」

 ラディすけは立ち上がったばかりのヴァルきちを蹴り飛ばす。

 被りを振って見た先では青の剣士と青の剣士から間合いを取った竜騎士が対峙していた。

「なんだ、もう来たのか」

 駆けつける守人とヒロ太も視界に入ってくる。

「お前またこんなことを……」

「なんかシラケたな」

 竜騎士はかまえを解くと、矢部の元へと帰っていった。

「待てよシーザ!」

 矢部はその言葉を無視し、その場を後にした。

「お前……」

 ヴァルきちは剣をしまい、ラディすけに触ろうとした。でも触れたらラディすけは瓦解しそうで、なんだか申し訳なくて。そのまま二人はそれぞれのマスターの元へと帰っていった。

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