第31話 心通わせて1

  プロローグ



 この気持ちの理由を考えていた。

 意味がわからない。わけが分からない。理由が見つからない。だが胸は痛んで仕方ない。

 どうせ明日も会えるだろう。明後日もきっと顔を合わすことになるだろう。でもそれが待ち遠しい。

 この間読んだ本に書いてあった。

「待ち焦がれる半夜の方が、ひと月よりも長く感じられる」

 全くもってその通りだと思う。現に今がそうだ。

 ああ、早く朝にならないかな。そう思いながら夜空を見上げた。



     1



「やあ天野くん」

「坂下さんおはよう」

 今朝も登校中会うことになった二人だった。

「今日ヴァルきちどう?」

「んー。なんか最近様子が変なんだよねえ」

 そう言いながらミサは頭の後ろで「なんだろうなあ?」なんて言いながら腕を組む。

「なんだ? ヴァルきち調子悪いのか? 風邪か? 風邪」

 するとヴァルきちがミサの胸ポケットから顔を出した。

「風邪なんか引いてない!」

「そらそうだバトルアーツは風邪なんか引かねえもんな」

 カラカラと笑うラディすけをヴァルきちはギッとにらむ。

「バカは風邪をひかないっていうしな」

「誰がバカだ!」

「ラディすけそれは違うぞ。バカは風邪をひかないんじゃない。風邪をひいたことに気が付かないんだ」

 一同納得。

「って、やっぱり私をバカにしているじゃないか!」

 一瞬納得してしまった自分が恥ずかしい。ヴァルきちは顔を紅潮させて怒る。

「ぷんすこぷんぷんだ!」

 そう言いつつも、ヴァルきちは胸ポケットの中でおとなしくしている。

「おいラディすけ」

「なんだよ風邪に気づかないヴァルきちさん」

「……やはりお前は一回とっちめないとダメみたいだな」

「やるかい? バトル」

「もちろんだ! 今度こそそのマフラー返してもらう! 今度こそだ!」

 地面に降り立ちバトル開始! かと思いきやマスター二人に止められた。

「ミサ、何をする! 私はヤツと決着を」

「ほぉら。学校遅れちゃうよ」

 まだムグムグ言っているヴァルきちを胸ポケットに戻す。

「へッ。だらしねえな」

 そう言いながら、つまみ上げられているラディすけは、守人の肩に乗せられ再び笑っている。

「まったく」

 ヒロ太は肩をすくめる。

「救いようがないな二人とも」

「「何だと!」」

 ラディすけとヴァルきちは同時にヒロ太に叫ぶ。まったく、清々しくなるほど同時だった。

「さっさと爆死すればいいのに」

 ヒロ太は足をぷらぷらさせながら空を見上げる。

 そんな風に、今日も楽しく登校した。その後もヴァルきちはミサとともに授業を受け、しっかり勉強している内に下校時刻になった。

 ミサはランドセルに教材をしまいながらヴァルきちに声をかける。

「帰るよーヴァルきちー」

 窓外を見て、ボーッとしている。そこではわーぎゃー騒ぎながら小学生たちが下校していた。

「ヴァルきち?」

 急に覗き込んできたミサを見て、ヴァルきちは思わず驚く。

「な、ミサ! いつからそこに!」

「どうしたの? また調子悪い?」

 ヴァルきちは口ごもる。

「え? 何? 学校から帰るのが寂しい? ヴァルきちはホントに学校好きだねぇ」

 ミサはケラケラ笑いながらもヴァルきちを胸ポケットにしまい、ランドセルを背負うと教室を出た。

「でもさ、ヴァルきち。調子悪いんだったら、一回見てもらうのも手だよ?」

 憂鬱な顔のヴァルきちは、ただただ首を横に振るばかりだった。

「そう、大丈夫ならいいんだけど……」

 ミサに心配をかけてしまった。申し訳なくて仕方ない。

 でも不調なのは確かだ。

 今までと何かが違う。少しだけ違う。

 ヴァルきちは考える。考えに考えても、やはり答えは出なかった。

 いったいヴァルきちはどうしてしまったのだろうか? 答えは誰にも分からなかった。

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