第13話 アラモ砦攻防戦4

「各中隊からの報告では、現在稼働可能なセンチュリオンは21台とのことです」


アラモ砦戦闘指令室。新任の大隊長の志津香少佐は各部署から入る、報告を整理し、即座に決定を下すという任務に全神経を傾けていた。指示を出すのが1分遅れただけで、部隊が全滅することさえあるのだ。


「第1-3までの各中隊、所定位置に配備完了。Ⅴ字形陣形で迎撃態勢をはいります」


一番要の場所、中央には歴戦の第二中隊、レイザーバックを配置してあるが、昼間の戦闘で第二小隊を失い、総員負傷者だらけという最悪の状態だ。それでも第二中隊を中心に配置したのは全軍の士気が高まることを期待してのことだ。そして、右側を第一中隊、左側を第三中隊を配置し、Ⅴ字形陣形を築き、その内側をキルゾーンとする。


「第4,5中隊は後方に待機し、予備兵力とする。第6中隊は各監視所でこのまま警戒態勢を維持しろ。敵勢力の動きによっては他の場所からの侵入も考えられるからな」


第4,5中隊は新兵が多く、前衛に配置するのはリスクが大きすぎる。状況によって自由に使える予備兵力として、後方に待機させておくのが無難だろう。


「攻撃型ドローン16機、全機にナパーム弾搭載完了。いつでも発進できます」


「よし、各機四機編隊で、順次発進。西方面に集結中の敵勢力後方にナパームを投下させろ」


師団本部に要請した空中機動部隊が来てくれれば話は別だが、対地支援攻撃は今はこの基地にあるドローンに頼るしかない。


「第5監視所からの連絡途絶。生命反応は確認できません。敵に侵入され戦死したと思われます」


「80mm迫撃砲の距離を修正して、第5監視所を攻撃範囲内にいれろ」


最初に報告してきた二人の部下はもはや生きてはいまい。志津香はそう確信し、今やⓇに占拠されている第5監視所に攻撃を命令した。その直後、無線手の一人が志津香に報告してきた。


「第二中隊、シン中尉から、大隊長に至急の連絡とのことです」


「つなげろ。中尉、私だ。第5監視所が墜ちたぞ。そちらから確認できるか」


無線機の向こうから、雑音交じりのシンの声が聞こえてきた。


「ああ、Ⓡどもの群れが溢れかえってる。迫撃砲の照準を移動させてください」


「もう指示した。あと、起動可能なセンチュリオンは全て前衛にまわす」


「何機、出せるんですか」


「21機だ。全機、君の指揮に委ねる」


間違いなく、第二中隊が真っ先にⓇの大群と交戦状態に入るだろう。中隊の定数の半分以下のレイザーバックにはセンチュリオンの支援が絶対必要だ。シンもそのことは十分理解しているはずだ。


「了解。ただ連中と白兵戦になる前に数を少しでも減らしておきたいんで、もう少し支援火力の増強を要請します」


そういわれると、あらかじめ予測していた志津香は用意しておいたとっておきの戦力をシンにくれてやった。


「オントスⅡが8台ある。それを直援にまわす」


オントスとは遥か昔アメリカ軍がベトナム戦争で使用した小型の自走砲で、小型車ぐらいの車体の両側に3門づつ106mm無反動砲が装備されており、そのSFちっくなデザインから昔の映画では未来の戦車として登場したりしていた。このⅡ型は砲弾の装てんが自動化されており、足回りなど各所が改良されている。


「1台で6門の106mm無反動砲だから、全部で48門ですか。榴弾の数は十分なんでしょうね」


シンはこの思いがけない、助っ人を歓迎したが、それでも5000のⓇの大群を迎撃するのには不十分だ。


「心配するな。予備弾薬全て積ませた」


転任早々、総力戦になるとは。志津香は少し自分の不運を呪った。


「大隊長、オントス1から入電。砲撃位置に展開完了とのことです」


80mm迫撃砲とオントスの無反動砲の集中砲火を受ければ、キルゾーンに侵入した敵のほとんどは粉砕できるだろう。問題はどこまで支援砲撃が続けられるかだ。砦内部も幾重にも塹壕が掘られ、中心の兵舎と戦闘指令室までたどり着くまでには防衛ラインを徐々に下げて、救援を待つのが手堅い作戦だが、人間相手ならともかくⓇ相手では、この方法で守り切れるかどうか、ニューホープであり、実戦経験のある志津香にも確証は得られない。やはりこの窮地を脱せるかどうかは、師団司令部に要請した第七空中機動部隊が来てくれるかどうかにかかっている。しかし、今は現有兵力で時間を稼ぐしかない。志津香は砲撃開始を下令した。


「こちらフォックスキャッチャー。オントス1へ、全車直ちに砲撃を開始」


「大隊長、ドローンの最初の四機がナパームを投下しました」


別の無線手からの報告に志津香は迅速に対応した。


「監視用のドローンの映像をまわせ」


「ナパームは全弾命中。砦外側の敵勢力の多くが炎上中」


映像にはⓇの群れの中で激しく炎が燃え盛る様子が映し出されている。


「オントス1から入電。こちらも全弾命中、敵勢力に甚大な被害を与えてるもよう」


映像が変わり、砦内に侵入したⓇがオントスが砲撃した榴弾によって、肉片の山になっていく様子が映し出されている。


次々と入ってくる新しい情報に志津香も自らの頭脳をフル回転させた。


「まだだ、このぐらいの損害では連中の勢いを止めることはできないぞ。ドローンによる爆撃はこのまま続行。砦の外側に攻撃を集中させろ。砦内に侵入した敵勢力には引き続き迫撃砲とオントスの無反動砲の攻撃で数を減らすんだ」


爆撃と砲撃で仮に半数に減らしたとしても、敵勢力は2500.300人のウオーヘッドが相手にするには多すぎる数だ。


「こちら第二中隊、レイザーバック1、センチュリオンが到着したので各堡塁に配備させた。敵の最前列はもう100メートルほどでレッドラインに到達する。レッドラインに到達しだい、対人地雷とウオーヘッドによる銃撃戦に開始するので確認を」


「了解した。支援砲撃チームには誤射のないよう徹底させる」


レッドラインとは砦内の第一次防衛線のことで、イエロー、ブルー、最終防衛線という順番になっている。レッドラインまできたら、砲爆撃はできない。後はウオーヘッドのアサルトライフルと対人地雷のクレイモアだけが頼りだ。白兵戦用の中隊支援兵器のセンチュリオンの出番もここだ。志津香はメインモニターに映る、波のように押し寄せるⓇの大群が第5監視所の後方に設置したキルゾーンに侵入するのを見届けてから、無線機を通してシンに短く、一言だけ命令した。


「レイザーバック1、後は頼んだぞ」


「ご心配なく。肉袋どもと肉弾戦するのが、こちとらの本業ですからね」


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ウォーヘッド・レイザーバック中隊戦記 南極ぱらだいす @nakypa

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